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ところは現代。2026年、日本・東京。配達員が歩いている。フード・デリバリーサービスの配達員である。帽子とジャケットには「ユーバーイーツ」のロゴが刻まれている。その顔は若くない。年のころ四十代後半。男はぼやく。
「氷河期世代なんてもんに、生まれてなけりゃあなあ」
男は有名ハンバーガーチェーンの店舗脇にある専用のカウンターから食品を受け取り、歩いて配達に向かう。歩いている。ちなみに、ユーバーイーツには「徒歩による配達員」という登録カテゴリが存在し、報酬の歩は悪いしなかなか仕事も入らないが、少ない元手、つまり自前の足すら確保できない人間でもスポット的業務を請け負うことができるという特色がある。
「お待たせいたしました。ユーバーイーツです」
男はとあるマンションに到着し、商品を客に手渡す。それでビジネスは終了である。その様子が繰り返されること、本日は数回。途中、食い物を運びながら男はぼやく。
「腹が減ったな……」
そして夜がやってくる。今日の仕事はもう終わりで、今日は三件も配達の仕事が入ったので小金が手に入った。男は三日ぶりの、食事らしい食事にありつく。閉店間際のスーパーマーケットで運よく手に入れることができた、半額のカツ丼である。
「へへっ。三日ぶりのメシらしいメシだ」
男は電子レンジでカツ丼を温める。ほかほかと、湯気が立つ。それをテーブルの上に置き、麦茶を汲んで、そして割り箸を割る。作られてから時間が経ちすぎているために米は汁を吸い過ぎ、カツもべちゃべちゃになっているのだが、それでもなお、男にとってそれはまごうことなき「ごちそう」なのであった。唾が出る。舌なめずり。箸が、カツ丼を掴んで持ち上げ、口に運ばれようとしている。最初の一口。そして、その瞬間だった。突然、謎の光が男の身体を包んだ。
「……へっ!?」
気が付けば、男は箸を取り落としている。というか、それどころの騒ぎではなかった。包まれた光の中、自分の居たはずの、自分のボロアパートと言うべき空間が姿を消している。そして、次に男が姿を現したのは。冷たく硬質な、石畳のような床の上であった。その手元からは、カツ丼は姿を消してしまっている。男は茫然とする。そのとき、声がした。
「平伏せよ、下郎。デデスト候の御前であるぞ」