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真夏の日差しが照りつける千原城市内。市民会館に三々五々、高齢者や子供連れの市民が入って行く。
その中に老夫婦と幼稚園児ぐらいの年齢の孫の男の子。
男の子「おじいちゃん、おばあちゃん、早く早く」
祖父「あわてんでもまだ時間はあるよ。それにしても、ご当地戦隊のショーとは珍しいな」
祖母「それも名指しで市役所から招待があるなんてね。ま、この子が喜んでるから、たまには外出もいいわね」
900人ほど収容できる市民会館の大ホール。ステージにはカーテンが降りていて、300人ほどが席の間隔を空けて席につく。
ブザーが鳴ってステージの幕が上がる。ステージ上には椅子が三つ。コスチュームの上半身部分だけを外してTシャツを着た瑠美、沙羅、智花が座っている。
観客がざわざわ言い始める。
子ども連れの女性「あら、何が始まるの?」
高齢男性「戦隊ショーじゃないのか?」
チバラキブラック姿の倫がステージ脇から出て来て、白衣の医師2人、看護師5人が後に続いてステージ上に現れる。倫がマイクを持って客席に呼びかける。
倫/ブラック「みなさん、お待たせしました。本日は、チバラキVのメンバーが新型コロナワクチン接種をしてもらう様子をご覧になっていただきます」
客席がざわつく。
「え、大丈夫なのか? あのワクチンだろ」
「副反応があるんじゃないの?」
倫「では先生がた、看護師さんがた、お願いします。ブルーとピンクは1回目の接種、イエローは2回目の接種になります」
医師と看護師が一人ずつ左肩の真下の腕に、ワクチンを筋肉注射していく。3人とも終わると、ブルー、ピンク、イエローはステージから降り、近くにある別の椅子に座る。
倫「注射の後は万一の副反応に備えて、あそこで15分から30分待機します。万が一副反応が出た場合は」
倫が医師二人を自分の側に招き寄せる。
倫「こちらの先生がたがすぐに処置をします。アナフィラキシーという重い副反応が出ても、それを治療する別の注射なども用意してあります。今日のお客さんの中に、まだワクチンを接種していない方はいらっしゃいませんか?」
客席がまたざわつく。
倫「小さな子どもさんをお連れのお客さんの中に、定期予防接種をまだ受けさせていない方がいらっしゃいましたら、それ専用のブースが向かって右側に設けてあります。では先生、ワクチンの説明をお願いします」
医師の一人がマイクを受け取り説明を始める。
医師「新型コロナワクチンについて、改めてご説明します。まず……」
医師の説明が続くシーン。倫がマイクを受け取ってブルー、ピンク、イエローの方を指差す。
看護師が3人に尋ねる。
看護師「熱っぽい、めまい、吐き気などの異常は感じますか?」
智花/イエロー「全然何も」
沙羅/ピンク「何ともないみたい」
瑠美/ブルー「注射も痛くなかったな。あっけないほどだ」
看護師「ブラックさん。3人とも副反応の心配はないようです」
倫「みなさん、接種券は持ってきているはずですよね。ワクチンを受けておきたい方がいたら、今この場でできますよ」
ブルー、ピンク、イエローが客席の間を歩いて回り、観客に声をかける。
老夫婦と孫の男の子3人の席で、祖母がイエローに不安そうな声で話しかける。
祖母「あんた、ほんとに体なんともないかい?」
Tシャツの左袖をまくり上げて、小さな正方形の絆創膏が貼られた注射の場所を見せるイエロー。
智花/イエロー「はい、元気いっぱいですよ。うちにも5歳の子どもがいるんで、これでひと安心ですね」
祖母「あなた、どうする? あたしたちも注射してもらおうか?」
祖父「そうだな。せっかくここまで来たんだしな。わしらが感染して孫にうつしたら大変だろうし。よし、頼みますか」
智花/イエロー「では、ステージの左側のブースに行って下さい。看護士さんの簡単な問診から始めますから」
ステージ左右の注射用スペースに徐々に列ができる。
椅子を片づけたステージ上では、玲奈/レッドが子どもたちを集めている。天井からバレーボールぐらいの大きさの、鈴が中に入っている玉が吊り下げられて降りて来る。
玲奈/レッド「誰かあのボールを手で叩ける? ジャンプしてバシーンって」
子どもたちは懸命に飛び上がってボールに触れようとするが、高すぎてかすりもしない。
男の子「こんなん大人でも無理だよ」
女の子「おねえちゃんは出来るの?」
玲奈/レッド「じゃ、ちょっと横に離れててね」
玲奈はステージの端へ行き、そこから走って来てジャンプ、バレーボールのスパイクの要領でボールをはたき、鈴を鳴らす。着地したレッドに子どもたちが駆け寄る。
女の子「わあ、すごい!」
男の子「さすがレッドだ」
玲奈/レッド「ブラック、ボールをもっと下げて下さい。そうそう。どう君たち、あれぐらいなら届くかもよ」
男の子「うん、やる!」
女の子「あたしもやる!」
徐々にワクチン接種が終わり、経過観察で異常を訴える者はなく、市民たちは三々五々市民会館から去って行く。
最後の一組を市民会館の入り口で見送ったチバラキVの5人。北野と皆川が後ろから近づく。
皆川「みなさん、お疲れ様です。本当に助かりました」
北野「皆川さん、どれぐらいの方が今日来たんですか?」
皆川「さすがに一人残らずとはいきませんが、新型コロナワクチン未接種の8割以上はカバーできたようです」
チバラキVの5人がマスクを外して大きく息をつく。それを見た皆川が言う。
皆川「あら、みなさん、ずいぶん汗をかきましたね。特にレッドとブラックのお二人は汗びっしょり」
玲奈「あはは、コスチューム付けっぱなしでしたから」
倫「高齢者が多いから冷房弱めてたしね。この格好のままで何時間もいるとさすがに暑いわ」
皆川「中に職員用のシャワー室がありますから、汗流して行かれたらどうですか? いくら夏でもそのまま帰ったら風邪をひきそう」
倫「そりゃありがたい。じゃあお言葉に甘えて」
市民会館の中に戻って行く一同。近くの物陰からそれをのぞき込む、40代ぐらいの大柄でガラの悪そうな男。その視界にたまたま玲奈の顔が入る。
男「あのアマども! 余計な事しやがって。ただで済むと思うな!」