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小鬼の洞穴2階層の階段付近。
色々とオーバースペックな『ニルルクの究極天幕』の中でスッキリ目覚めた俺とテオは、出発の準備を終えた。
「じゃあ行くか――」
俺がテントの入口を開けようとしたところ、テオが呼び止めた。
「なんだよ?」
「このテントは【防音加工LV5★】の効果で、外からは中の音が聞こえないし、逆に中からは外の音が聞こえなくなってる。だからこそ安心して安眠できるわけだけど……デメリットってやつもあるんだよね」
言いにくそうに説明するテオ。
「デメリット?」
その意味がよく分からず聞き返す。
魔物だらけのダンジョンの中で確実に安全に眠れるなんて、理想通りの夢アイテムとしか思えないのに……いったい何が問題なのだろうと。
テオは「ふぅっ」と一息ついてから喋り出す。
「昨日、周辺の魔物を殲滅しただろ? たぶん時間的に、そろそろ復活しつつある頃だと思うんだ」
「そういえば、復活するまで1晩ぐらいって言ってたな」
「うん。じゃあもし……復活した魔物がたまたまテント入口の死角に居たとして、タクトがそれに気付かず外に出ちゃったら?」
この安全&快適空間は、あくまで『ニルルクの究極天蓋』と『テオの【隠密】スキル』のおかげで部分的に作られているだけである。
だがテントを1歩出てしまえば、ここは危険地帯のど真ん中。
「まぁそういう訳で気を付けてね、ってだけなんだけど……」
ここで少し考えるような動作をしたテオが、笑顔に戻った。
「……うん! 今は近くに魔物はいないみたいだから、そのまま出ちゃっていいよっ」
「え、なんで分かるんだ?」
「【気配察知LV1】スキルを使ったのさ」
「あぁ……」
そういえばゲームにもそんなスキルがあったな。
称号『器用貧乏』を持つテオなら、これも覚えていたって不思議じゃない。
【気配察知LV1】は、自分を中心にして半径50m以内に生き物や魔物がいるかどうか何となく知ることができるスキルだ。
スキルLVが上がるごとに、察知できる精度が上がっていく。
ゲームにおいて【気配察知】スキル自体は、戦闘をある程度こなしさえすれば自然と習得できる。
かつては「ボスなど強敵が出現するエリアを除き、敵が居ようが居まいが気にせず突っ込んで蹴散らしていく」プレイスタイルで遊ぶことが多かった俺にとってはほぼ無縁だったけど……いざ戦いの日々が現実となった今は、早めに欲しいスキルだな。
「なるほど……テオが毎回、俺より先に魔物を見つけるのも【気配察知】スキル使ってたからなのか――」
「違うよ?」
キョトンとした顔で俺の推論を否定するテオ。
「??」
理解が追い付かない俺を放置し、テオは喋り続ける。
「だって鳴き声も足音も、魔物の種類によって全然違うし。さらに同じ種類でも、個体によって微妙に出す音が変わるんだ。それさえ聞き分けられさえすれば、どんな魔物が何体いるか分かるじゃん! ゴブリンなんか特に分かりやすいよね~、あいつら手に持った武器を振り回しながら歩くからさ、その物音で簡単に装備武器が割り出せるし。後は音の大きさとかで、何となくの距離をはじき出せばOKだよっ」
テオの説明だけ聞いていれば、まるで“いとも簡単な事”かのようにも思えてくるのだが――
俺は溜息をつきつつも、一応質問してみる。
「それさ、俺にもできるかな?」
「んー……練習すれば、できるかも?」
「……まぁタクトの場合は、【気配察知】スキルの習得をがんばったほうが早くて確実なんじゃない?」
笑いながらも今度こそ真面目に答えるテオに、俺も「だよな」と同意した。
その後テントを片付け、階段を下りて3階層へ到着した俺とテオは、順調に4階層、5階層へと進んでいく。
スキルを習得しやすくなる【スキル習得心得LV1】のおかげか、これを覚えたいがために率先してゴブリンを倒しまくったおかげか――3階層の中盤あたりで俺は無事に【気配察知LV1】スキルを習得した。
習得後は、【気配察知】スキルを常時展開しながら移動する癖をつけるよう練習。
少し手間取ったものの、5階層の終盤に辿り着く頃にはだいぶ慣れ、多少雑談しながらダンジョン内を探索できるまでになった。
余裕がでてきた俺が、歩きながらボソッと言う。
「だねっ。このダンジョンに入ったばかりのタクトったら、ず~っと顔が強張って、全身に変なチカラが入りまくってたし!」
【気配察知】スキルさえ常時発動しておけば、近くに魔物などが来た場合はお知らせウィンドウがピコンッと開くため、それを確認してから戦闘態勢を取れば十分間に合う。
適度にON/OFFを切り替えられるおかげか、本日の探索を始めて約4時間が経ったにも関わらず、まだそこまで疲れを感じていない。
昨日からの確実な成長を感じた俺は、この調子で頑張ろうと思うのだった。