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アンドレアはうなずいて画材をバッグにしまい、小女に手を振って家へと歩き出した。いつものように、アンドレアが一度振り返った時、少女の姿は見えなくなっていた。アンドレアはいつもの独り言をつぶやいた。
「不思議な人だな。どこに住んでいるんだろう?」
アンドレアが少女と初めて会ったのは、一か月ほど前、そして両親の死後三か月が経った時だった。
気を紛らわせるために廃墟の隅で絵を描いていたアンドレアの後ろから突然のぞき込んできた年上の少女にアンドレアは驚いた。もうすっかり暗くなった夜だったが、少女はにこやかな微笑みを浮かべて次々に質問してきた。
「絵が上手いのね。でもどうして抽象画ばかり描くの」
生まれて初めて異性の魅力という物に気づいたアンドレアはいつの間にか答えていた。他人と口をきいたのは二か月ぶりぐらいだっただろうか。
「僕はこういうのが好きなんだ。この世界には、描きたくなる物が他にないから」
「じゃあ、私を描いてくれない?」
「おねえさんの肖像画ってこと?」
「うん!」
少女がうなずきながら見せた底抜けに明るい笑顔を見て、アンドレアは断る理由を探すのをやめた。そして月明かりのある雨の降っていない日だけを選んで、その廃墟で少女の絵を描くことになった。アンドレアがその場所へ来るのはすぐに分かるから事前の約束は必要ないとその少女は言った。最後にアンドレアは疑問を口にした。