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父は恐ろしい人だ、僕がこの世で最も恐れている。
今日も癇癪を起こして物の雨が降り注いだ。頬をかすって血が出ようとも父の目に入らない。先程まで調理していたフライパンまでもが投げられ、太ももに当たった。熱く、痛く、重い。それでも物では足らなかったようで腹を殴られた。そこは昨日、蹴られた場所で、アザになっている。
気絶したように倒れ込んだ父を1度退かした。散らかったものを片づけて、父のベッドに寝かせる。兄の友人の家に避難している部活終わりの兄に声を掛けた。
「何でお前は逃げないんだよ」
「お父さんが可哀想に見えるからかな」
どことなく悲しげな表情をする兄の髪にキスを落として自室で眠った。
水筒と父のお弁当、朝ごはんを用意して兄と一緒に学校へ向かった。教室に行くと担任の先生に声をかけられ緊張する。父の影響からか大人、特に男性を前にすると緊張するようになった。関わっていけば払拭できるとわかっていても避けてしまって目が合わせられない。
先生に連れて行かれた先には数年経てば定年かと思われる女性の先生がいた。どうやら兄から家の状況について教えてもらったと言う。自身の言葉では父から逃げないと判断してのことだろう。冬だと言うのに防寒具の1つだって身につけない僕らを元気な子だと思っていただけだったろうに。けれど学校も教員も仲介に過ぎず、直接的な家庭への踏み込みは出来ない。出来るのは子供と家庭の状況を把握し、それに属する機関への通達程度だろう。
「僕はお父さんとお兄ちゃんが幸せならそれでいいんだ。だから僕のことは気にしないで」
小学6年生の僕には正直なところ、今から保護されてもこれまで誤魔化していた部分を大っぴらにする行為に値するので今更行われたところでメリットはない。保護されている間、父は一体どう変化するというのか。教員にも機関にもなんの期待も抱けなかった。だから保護されるのは兄だけでいい。父を壊れるまで見守ることが最優先事項。自分のことなど気にするに足りないことなんだ。
そうして僕は父の元に残り、小学校を卒業した。