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#カントリーヒューマンズ
莉奈
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旧国、戦争表現あり
戦争賛美×
キャラクターの死亡描写があります。
このお話はフィクションです。
日本side
「…..」
私には癖がある。不安になると、写真を眺めるという癖が。
「また写真見てるの?」
「…にゃぽん姉さん、」
無理に笑顔を作ってみたが、やはり無理だった。
最近、不思議な夢を見る。真っ暗で、寒くて、怖い雰囲気の場所にいる。かと思えば綺麗な青空を鳥のように飛んでいる。そしたら、どこか懐かしい、見覚えのある海に辿りついて、
「知りたい?」
「え、?」
なんのことかよく分からなかった。今私が知りたいことと言えば、写真に写っているお兄さん達のこと。
名前も知らない、軍服を着た2人のお兄さんの写真。片方は全力でピースしてて、晴れやかな笑顔だ。もう片方は、肩を組まれて嫌そうな顔、に見えるけど本当は嬉しい、そんな感じの2人の写真。
「….なんの、ことでしょう、」
「…じゃあいいわ」
「ちょ待って!」
「なによ」
珍しく、姉さんが冷たい。
「な、何を教えてくれるんですか、」
主語はなかった。ただ一言、「知りたい?」と。そりゃあ、このお兄さん達のことは知りたいに決まってる。
「その写真。訳もわからず見てるんじゃないの?」
「これ、は、そうですね、」
他にも写真はある。自分のことを好いてくれるパラオとの写真や、にゃぽん姉さんと父さんとの集合写真も。
だけど、この写真は気づいた時からずっとそばにあった気がする。
「じゃあ、教えてあげるよ。あなたの兄さん、そして、私の弟の話。」
「私の、お兄さん、」
「え、姉さんって何歳、?」
「は?黙れよいい雰囲気だったのに」
「だってぇ、!」
「概念なんだから年齢とかどうでもいいの!」
そんな話をしてるとき、目の端にもうひとりの人物が映った。
「あ、お父様、」
「空と海の話か」
誰のことだろう、いや、多分この写真のふたりの名前だ。どっちがどっちかは分からないけど。
「流石にね、何も知らないままこの写真見てるのは、なんか見てられないっていうか」
「そうか」
それならこっちの部屋の方がいい、と連れてかれるまま隣の仏壇のある部屋に移動し、お父様はそのまま離席した。線香の香りが漂う部屋で手を合わせ、姉さんの話に耳を傾けた。
にゃぽんside
「空、海、そっちは危ないよ」
私はにゃぽん。2人の弟がいる。
「ほらな、怒られるって言っただろ」
しっかり者の海と、
「海だって賛成してたじゃん!」
少しやんちゃな空。
私はこのふたりが大好きだった。
けど、平和な時間は一日に少しだけ。
『ウ〜、ウ〜』
不穏な音が鳴り響く。防空壕に逃げ込む合図。
「ね、姉ちゃん、」
「行くよ、手、繋いでてね」
「うん..」
幼い頃から『突然鳴る音は逃げる合図』教えられた訳じゃない。感覚的に、そうなってしまった。ただ、狭くて、暗い空間で縮こまっているのが「普通」だった。
「怖い、怖いよぉ…」
「…!!、、」
ポロポロと泣く空と、耳を塞いで静かに堪えようとする海。ごめん、ただ、その一言を伝えたくてたまらない。けど、言葉にならない。私も、怖いんだ。
なんでこの子達は、平和な環境にいられなかったの?なんで、お腹いっぱい食べれないの?なんで、お友達と遊ばないで、戦い方ばかり教えられるの?
お父さんは戦いに行きっぱなし。今、私だけで稼げる金なんてたかが知れてる。2人の子供に食べさせてあげれるだけ全然いい。
「姉ちゃん、?」
海が何かを察して声をかけてくれた。
「え、あぁ、ごめんね、もう少しだから、」
もう少しで空襲が収まる。もう少しで、この戦いが終わる。もう少しで───、
召集令状。私がこの世で最も嫌いな紙。ずっと、届くな、と願っていた。
逃れられない未来なのはわかってた。ある日、空と海に届いたんだ。
「…ありがとうございます。」
あの空と海が、立派になったな、敬語なんか使っちゃってさ。そんな気持ちの一方、やっぱり行ってほしくない。
「姉さん、僕、頑張るね。海も、姉さんも、父さんも、安全に暮らせるように」
「俺も、」
「これは、姉さんの独り言だからね。」
独り言だよ、”伝えたかった”けど。
「…行ってほしくないよ、姉さん2人の笑顔が大好きなの、ずぅっと眺めていたい。風邪は引かないで、怪我も、できるだけしないで。でも、もし怪我をして帰ってきたら、姉さんが手当するからさ、」
「死なないで。絶対死なないで欲しい、生きて、お父さんと一緒に帰ってきて、ここで、待ってるから。」
こんなこと言ったら、非国民だと非難されるだろうか。本心を言えば捕まるなんて、おかしいなぁ、
「「お国のために、行って参ります。」」
お国のために、か。いつからそんなことになったっけ。未来はどうなってるんだろう。平和かな。この国は、どうなるんだろう。
空と海の出発の日。
「せっかくだし、写真撮らない?」
「いいねぇ」
私の提案に、賛成!と頷く空。 それと、少し恥ずかしそうな海。
「じゃあ、撮るよ〜」
1枚目はきちんと立って、表情の引き締まった写真。
もう1枚は、日常を残したかったから、
「ちょ!今のいい!そのまま!」
「え〜これ?かっこよくないよー?」
「離れろ…!」
肩を組んで、全力で笑顔してくれた空。嫌そうだけど、内心嬉しいんだろーなっていう海。そう、これが、あの写真。
「ありがとう」
ポロッと口にでる感謝。
「なにそれやめてよー、最後みたいな」
「俺も、ありがとう、姉さん。」
海、いつの間に、姉さんって呼ぶようになったんだっけ。ずっと、姉ちゃんだった気がする、
「ねぇ、海、怖い?」
空の質問に、海が答える。
「怖い、けど、言ってられないだろ、」
「だよね〜、」
汽車が来る。大きな音を鳴らして。
「…征って参ります」
「姉ちゃん、体、大事にね」
そっちこそだよ。ずっと待ってるから、いつでも帰ってきてよ。綺麗な家も、美味しいご飯も用意して待ってる。本音は口に出さない。ただ、思うだけ。
「….立派に、務めてきてください」
声が震える。こんなこと思ってない。ただ帰ってきてくれたらいいの。ただいまって、言ってくれたら、声が聞こえたら、それだけでいいのに。どうして、幸せは無くなっていくんだろう。無くなった分だけ満たされようとする心は、いつも空っぽで、いつか、本当に大切なものが、そこにあったらいいんだ、って思う。
「お手紙、書くからさ」
「空、乗るぞ、」
「…うん、」
電車の窓越しに見えた2人の顔は、かっこよかった。けど、やっぱり弟だった。可愛くて、ちっちゃくて、大切な、私の弟だったよ。
息をうまく吸えないまま、視界がじわじわとにじんでいく。
「……やだなぁ」
声に出した瞬間、あぁ、泣いちゃうなって思った。
「いかないでよ……ねぇ……」
周りの誰かがこちらを見た気がした。でも、誰も足を止めない。誰も声をかけない。
「1人にしないで……」
人の流れの中で、自分の声だけが浮いていく。
「そらぁ……うみぃ……っ」
呼んだはずの名前が、万歳の空気に飲み込まれる。
「そばに……っ、そばにいさせてよ……」
もう立っているのかも分からないな。
「……っ、う……っ、あぁ……」
膝の力が抜けてその場に座り込んでも、やっぱり立ち止まる人はいなかった。
『拝啓
春とはいえ、まだ寒さの残る日々でございますが、皆様にはお変わりなくお過ごしのことと存じます。
このたび、特別攻撃隊に編入され、明日出撃することとなりました。急なことで驚かせてしまったかもしれませんが、どうか落ち着いてお聞きください。
姉さん、海、そして父さんと過ごした日々は、何気ないことばかりでしたが、今思えばとても大切な時間でした。姉さんに叱られたことも、海とふざけたことも、全部覚えています。
正直に申しますと、怖くないと言えば嘘になります。しかし、その言葉をそのまま書くのは、少し違う気もしております。
姉さんには、どうか体を大事にして、無理をなさらないでください。海はきっと生きて戻ります。どうかよろしくお願いします。
本当はもっと話したいことがありますが、うまく言葉にできません。
どうか皆様の暮らしが、少しでも穏やかでありますように。
敬具』
『拝啓
少しずつ夜の暑さを感じるようになってきました。皆様にはお変わりなくお過ごしのことと存じます。
このたび、出撃を命じられ、明日出発することとなりました。突然のこととなり、誠に申し訳ありません。
姉さんには、これまで多くのことをしていただき、感謝しております。空と共に過ごした時間も、私にとってかけがえのないものでした。
お国のため、務めを果たす所存であります。どうかご心配なさらぬようお願い申し上げます。
皆様のご健康をお祈りいたします。
敬具』
手紙はずっと届いてた。寝てしまったのだろうか、よく分からない鉛筆の跡がついてる紙もあった。『休めるときはしっかり休みなさい』と手紙も書いた。最後は違った。
可愛い鉛筆の跡じゃない。上手く消せなくて、折れてしまった紙じゃない。
紙に涙の跡がついていた。
「その後は、わからないの。空と海が、戦死したっていう知らせだけ。」
そうなんだ、では済まない話だと思った。私の姉は、こんなにも辛い経験をしていたのか。いつものおふざけが重いものに見える。
「じゃあ、私は3番目だったんですね。」
「そういうこと、」
微笑んでるけど、違う。話を聞いた今、私は姉さんに伝えたいことがある。
「姉さん」
「なに?」
「話してくれて、ありがとうございます、」
「うん、」
「私は、いなくなりませんから、」
「…なにそれ、」
姉さん、
「泣かせないでよ..」
泣くのを、我慢しないでほしい。今の私がいるのは、あの時代を生きた、生き抜いてくれたあなたたちがいるから。
あの写真は、ずっと仏壇に置いていたけど、小さい頃の私が手に取って、それから手離さなくなったらしい。
「空兄さんと、海兄さん、」
「ありがとうございます」
いつまでも見守ってくれている気がする。無意識のうちにこの写真を手に取ったのはきっと、暖かかったからだ。
またいつか───
声、聞いたことはないはずだけど…きっと、来てくれたんですね。
見てくれてありがとうございました。