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閑話休題「黒瀬の弱点」
訓練室。
個人戦ブース前。
モニターを見ていた三上が、感心したように息を吐いた。
「……また勝ったのか」
ブースから出てきた黒瀬は、 汗を拭きながら小さく頷く。
「まあ、一応」
「いや“一応”じゃねぇのよ」
モニターには、 さっきの試合ログが映っていた。
バッグワーム。
接近。
カメレオン。
至近距離。
ダブルハンドガン。
ベイルアウト。
最近の黒瀬は、 かなり完成されていた。
「ほんと負けねぇな、お前」
三上が呆れたように言う。
黒瀬は少し考える。
「……そんな事ないですよ」
「いやいや」
「普通に負けてますし」
その返答に、 三上は少し眉を上げた。
「誰に?」
黒瀬は端末を操作する。
対戦履歴。
そこに表示された名前を見て、 三上が目を見開いた。
「……玉狛第二?」
「はい」
「空閑遊真?」
「最近B級二位になったエースの人です」
「知ってるわ」
即答だった。
黒瀬は対戦履歴を見ながら続ける。
「最初は結構勝てたんですけど」
「お、おう」
「種割れた後、かなりきつくなりました」
三上が少し真顔になる。
「……どんな感じで?」
黒瀬は静かに説明する。
「まずずっとレーダー見られます」
「嫌だなぁ……」
「射程圏入ってカメレオン起動した瞬間に、レーダーに映るのでそのままグラスホッパーで横飛びされて」
黒瀬は少し間を置いた。
「そのままこっち来ます」
「うわ」
かなり嫌だった。
黒瀬の戦い方は、 奇襲前提。
だが遊真は、 その“奇襲に入る瞬間”を狩ってくる。
距離をズラしながら接近。
そのまま間合いを潰される。
「今どれくらいなんだ?
「……五分五分くらいです」
数秒、 三上が固まった。
「いや待て」
真顔。
「B級二位エースと五分五分って、お前どんだけ強ぇんだよ」
「いや、かなり負けますよ?」
「感覚バグってんだって」
黒瀬は少し困った顔をする。
だが実際、 本人の感覚ではそうだった。
対策されるときつい。
距離を詰められると危険。
位置が割れると崩れる。
無敵とは程遠い。
「あとハウンドにも弱いですしね」
黒瀬が何気なく言った。
三上が顔を上げる。
「あー……」
納得した顔。
その横で、 ジュースを持った水瀬がのんびり頷いた。
「だから最近ハウンド持ってる人とよく当たるんですね〜」
「やっぱ増えてます?」
「増えてる増えてる」
かなり実感こもっていた。
「黒瀬くん、隠れながら動くからハウンド相性悪いもん」
「ですね」
ハウンドは厄介だった。
避け続けるのが難しい。
結局。
シールド。
位置露出。
そこから追われる。
黒瀬のテンポが崩れる。
「まあでも、お前普通に強いだろ」
三上が言う。
黒瀬は少し考える。
「……条件次第じゃ三上さんにも普通に負けますよ」
「いやそれはない」
即答だった。
黒瀬が静かに首を傾げる。
「じゃあやりますか?」
「……は?」
数分後。
個人戦ブース。
設定。
開始距離8m。
障害物無し。
超近距離戦。
観戦席。
「何その条件」
奈央が少し呆れる。
「黒瀬くん不利すぎません?」
「本人が言い出したので」
水瀬は少し嫌そうな顔をした。
「これ黒瀬くん嫌な条件だなぁ……」
転送。
開始。
8m。
近い。
近すぎる。
開始と同時。
黒瀬が横へ動く。
同時にカメレオン。
だが。
距離が近い。
三上は迷わず突っ込んだ。
「そこ!」
接近。
速い。
黒瀬がハンドガンを構える。
だが間に合わない。
距離を潰される。
さらに横移動。
逃げ場がない。
近接継続。
シールド。
崩される。
《BAIL OUT》
光が弾けた。
静寂。
観戦席。
「うわぁ……」
水瀬が小さく声を漏らす。
奈央も苦笑した。
「かなり極端ですね……」
ブースから戻ってきた黒瀬は、 特に悔しそうでもなかった。
「……ほら」
三上は少し複雑そうな顔をする。
「いやまあ、勝ったけど」
「こういう条件かなりきついです」
黒瀬は冷静だった。
「近距離維持されると崩れるので」
三上はモニターを見る。
確かに。
黒瀬は、 “戦う距離”をかなり意識していた。
一発で詰め切られない距離。
逃げられる角度。
射線が通る場所。
それを維持しているから強い。
逆に言えば。
維持できなければ脆い。
だが。
三上はそこで気づく。
――なのに。
ランク戦では、 黒瀬はその状況をほとんど作らせない。
位置を隠し。
距離を測り。
逃げ道を残し。
有利だけ取ってくる。
三上は深くため息を吐いた。
「……でもまあ」
黒瀬が視線を向ける。
「その条件避けながら点取ってる時点で、お前普通にやばいけどな」
黒瀬は少し困ったように視線を逸らした。
「……ありがとうございます?」
「褒めてねぇ」
その横で、 水瀬がのんびり笑う。
「でも黒瀬くん、“嫌な距離”維持するのほんと上手いよね〜」
奈央も頷いた。
「だからランク戦だと強いんですよね」
三上はソファへ座り込みながら、 小さく笑った。
「……何だかんだ、うちのエースだわ」
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み ん と