テラーノベル
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◇
祭り前日。
屋敷の外では、夜風が木々を優しく揺らしていた。
昼間の暑さも少しだけ和らぎ、窓から入り込む風が心地よい。
食堂では片付けも終わり、静かな時間が流れていた。
「いよいよ明日ですね……。」
イリアは窓の外を眺めながら、小さく微笑む。
村の方角には、祭りの準備で吊るされた灯籠がぽつぽつと見えていた。
「楽しみですわ〜……!」
プリムローズは嬉しそうに両手を合わせる。
目を輝かせるその姿は、明日を待ちきれない子どものようだった。
「今日は早めに寝ましょうか。」
イリアは優しく笑う。
「寝不足だと、お祭りを思い切り楽しめませんからね。」
「えぇ!」
プリムローズは元気よく頷いた。
二人で食堂を出る。
廊下には静けさが広がり、それぞれの部屋へ戻る時間になっていた。
「……。」
イリアはふと足を止める。
小さく息を吐く。
「ふぅ……。」
胸の中に残っていた、一つだけ終わっていない仕事。
「(……そろそろ、ミシェルさんに聞く時かぁ……。)」
決意するように頷き、ゆっくりと二階への階段を上がっていった。
◇
「……ミシェルさ……。」
部屋をノックしようと手を伸ばした、その時だった。
「そろそろ来ると思った。」
突然聞こえた声に、イリアは肩をびくっと震わせる。
「びっくりするからやめてください……。」
振り返ると、ミシェルは壁にもたれかかりながら笑っていた。
「はーい。」
軽く手を振る。
「で?」
「どうせ祭りでしょ。」
「そうです。」
イリアは素直に頷いた。
「色々交渉してみましたけど……。」
「やっぱり無理だって。」
少しだけ申し訳なさそうな表情になる。
数日間、村長や村の人たちとも話し合った。
それでも結果は変わらなかった。
短い沈黙。
するとミシェルは肩をすくめる。
「別にいいよ。」
「行くから。」
「………えっ?」
イリアは一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
数秒遅れて目を見開く。
「えっ!?」
「ほ、本当ですか……!?」
思わず一歩前へ出る。
「よかったぁ……!」
心の底から安心したように笑った。
「ありがとうございます!」
「そんなに?」
「……あの。」
少し落ち着きを取り戻したイリアが首を傾げる。
「どうして急に?」
ミシェルは少しだけ考える。
「……気分が変わったから?」
「ふふっ。」
イリアは思わず笑う。
「ミシェルさんらしいですね。」
その答え以上は聞かないことにした。
本人がそう言うなら、それで十分だった。
「よし…!」
イリアはメモ帳へ丸印を書き込む。
「了解しました!」
「それじゃあ失礼しますね。」
廊下へ出ながら振り返る。
「あ。もう十時半なんですから。」
「今日は早めに寝てくださいね。」
「はいはい。」
ミシェルは苦笑する。
「お母さんか何か?」
「違います。」
イリアは笑いながら首を振る。
「世話係です。」
その返事にミシェルは小さく吹き出した。
「それもそっか。」
イリアは軽く手を振ると、そのまま廊下の向こうへ歩いていく。
◆
一方、東棟。
「はぁ……。」
机に向かったテルが、大きくため息をつく。
机いっぱいに広げられた紙には、びっしりと文字が書き込まれていた。
「……まだ起きてるの?」
リーナが呆れたように部屋を覗き込む。
「もう寝なさいよ。」
「だって……。」
テルは困ったように笑う。
「鈴凛さんとか、ラテさんとか、ルカさんとか……」
「絶対どっか行くじゃないですか…。」
あまりにも真剣な口調だった。
「百パーセント迷子になる未来しか見えないんですよ。」
リーナは思わず苦笑する。
「……分からなくもないわ。」
むしろ十分あり得る。
そう思ってしまった。
「それが一日の行動メモ?」
机の紙を覗き込む。
「はい。」
テルは頷いた。
「一応、皆さんにも渡しておこうと思って。」
「迷子になった時の集合場所とか、休憩時間とかも書いてあります。」
「なんというか……。」
リーナは紙とテルを交互に見る。
「あなた、そういうところは真面目よね?」
「え?」
テルはきょとんとした。
「僕、いつでも真面目じゃないですか?」
「そういうところよ!」
リーナは思わず指を差す。
「そういうところ!」
「?」
テルは本気で意味が分からないという顔をする。
その表情を見て、リーナは額を押さえた。
「本気で分かってない顔するのやめなさい……。」
「普通、自分で『いつでも真面目です』なんて言わないのよ。」
「そうなんですか?」
テルは純粋に驚いたように目を丸くする。
リーナはしばらく黙る。
そして、小さく笑った。
「……明日、大変そうね。」
「えぇ。」
テルも苦笑する。
「でも。」
窓の外で揺れる灯籠を眺めながら、小さく笑った。
「皆さんが楽しんでくれたら、それで十分です。」
コメント
2件
作者コメント┊︎ 保護者イリアちゃん。
よかったです、イリアがミシェルさんに「行く?」って聞きに行くところ、ドキドキしました。でも「気分が変わったから」って軽く言うミシェルさんらしさと、それを「それで十分」って受け入れるイリアさんの関係性がすごく好きです。テル君の行動メモ作成エピソードも、真面目すぎてツッコまれるギャップが可愛かった。みんなの「準備」がそれぞれの性格をよく表していて、祭り当日がますます楽しみになりました。
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ユメミリ@夏の絶不調祭り
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