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夕焼けの真っ赤な光の中
お互いを狂おしいほどの強さで抱きしめ合っている、俺と直哉の姿だった。
「……」
「……」
時間が、完全に静止した。
クラスメイトたちの目が点になり、開いた口が塞がらないといった様子でこちらを凝視している。
終わった。
今度こそ本当に、俺の高校生活も、人生も全部、音を立てて粉々に終わった。
「ち、違っ……!これは、その、違うんだ、ただの───」
あまりの恐怖とパニックで、顔から血の気が引いていくのを感じながら
俺は慌てて直哉の身体を突き飛ばして離れようとした。
だけど
直哉は、俺の右手を、骨が軋むほどの強い力でぎゅっと握りしめたまま
びくともせず、絶対に離そうとしなかった。
「おい、直哉!?何考えてんだよ…!」
焦って直哉の顔を見上げるが、あいつは驚く俺を長い前髪の隙間から一瞬だけ一瞥すると
何事もなかったかのように平然とした冷徹な顔で
呆然と立ち尽くしているクラスメイトたちへと視線を向けた。
そして、事も無げに、信じられない言葉を言い放ったのだ。
「あ、見ての通りです」
「お、お前……ッ、何言って───!?」
「え…?え、嘘、田口くんと、相川先輩って…?」
ざわ、とクラスメイトたちの間に、驚天動地の動揺とざわめきが広がる。
女子生徒の一人は、持っていたバインダーを地面に落としそうなほど目を見開いていた。
顔から、今度は火が出そうなくらい真っ赤に熱くなる。
羞恥心と恐怖で、立っていられなくなりそうだ。
なのに、直哉は俺の手を壊れ物を扱うようにぎゅっと強く握り直すと
ふっと、挑発するような、けれど最高に誇らしげな笑みを浮かべた。
「俺、兄さんの恋人なんで」
「っ……~~~!!!!」
死ぬ。恥ずかしすぎて今すぐこの屋上から飛び降りて異世界にでも転生したい。
俺は赤面した顔を片手で覆い、必死にその場から逃げ出そうと足を動かしたが
直哉の大きくて強い手は、俺の手首をがっちりとホールドしたまま、一ミリの退路もくれない。
「……兄さん、もう隠さなくていいよ」
直哉が、俺の耳元にそっと顔を寄せ
クラスメイトたちには聞こえないくらいの小さな、けれど酷く優しい声で囁いた。
「俺、兄さんのことが死ぬほど好きなの、ずっと自慢したかったんだから。だから、もう逃げないで」
「……」
その真っ直ぐで、あまりにも強すぎる言葉に。
俺の胸の奥が、じわっと、言葉にならないほどの熱い感情で満たされていくのを感じた。
周りの目なんてどうでもいい。
誰に何を言われようが、この手を離さない。
そんな、どこまでも呆れるくらいに真っ直ぐで、独占欲が強くて、愛が重くて。
だけど
そんな格好良くてずるいところが、俺は心の底から好きなんだと、ようやく認めることができた。
「……バカ直哉」
「うん」
「お前……本当に、愛も図体もデカすぎ」
「ふふっ、俺褒められてる?」
そう言って、悪戯っぽく、けれど世界で一番愛おしそうに微笑む義弟の顔に
俺はもう、深く溜息を吐いて呆れるしかなかった。
夕焼けの真っ赤な光が、ゆっくりと夜の帳に溶けていく屋上。
クラスメイトたちの喧騒を背に
俺たちの繋がれた手は、最後まで、どちらからともなく離れることはなかった。
───義弟の愛は、今日もウザイくらいにデカすぎる。