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ゆゆゆゆ
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青い人だぜ★
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空気は湿っていた。夜雨がレンガ壁を伝い、ぽたり、ぽたりと落ちるたび、路地裏の闇がじっと息をしているみたいだった。
チャンスは壁に背を預け、大きく肩で息をする。
なのに口元だけは笑っていた。追い詰められた人間の顔じゃない。むしろ――これから始まる何かに興奮している顔だ。
背後から、革靴が水たまりを踏み潰す音が近づいてくる。
マフィオソ(ドン・ソネリーノ)の手下ども。
シャツにベスト、黒ネクタイに武器を持ち、殺気を隠しもせず迫っていた。
チャンスは胸元を押さえる。
マフィオソから奪ってきた“ブツ”はまだそこにある。
普通なら震えてる場面だ。
だが、彼の胸を満たしていたのは恐怖じゃない。
――スリルだ。
生まれつきどこか壊れている人間だけが味わえる、破滅寸前の甘い高揚。
「……おや」
その声は、頭上から降ってきた。
「随分と派手なハエに追われてるね、ギャンブラー」
冷たい声だった。
ナイフみたいに薄く鋭く、夜気そのものを凍らせるような声。
チャンスはフェドラ帽の庇を指で押し上げる。
そこに立っていた男は、この腐った路地にはあまりにも不釣り合いだった。
鮮烈な黄色の髪。
闇に沈まない青いシャツ。毒みたいに鮮やかな黄緑のパンツ。
そして何より目を奪うのは――頭上に浮かぶ氷の王冠。
淡く光を放つそれは、まるで「近づくな」と世界そのものを威圧しているようだった。
iTrapped。
“Banlands”(バンランド)という地獄じみた隔離領域から、生還した男。
そして今もなお、そこへ取り残された仲間――Ellernate(エラーネート)とCaleb244(カルブ244)を救い出すため、利用できる人間を探していた。
彼はチャンスを見下ろす。
マフィアに追われながら笑っている男。
命の危険すらゲーム感覚で楽しんでいる狂人。
その瞬間、iTrappedの脳内で計算が走った。
(ただの成金じゃない)
(欲望に忠実で、金があり、裏社会にも顔が利く)
(それに――壊れてる)
氷の王冠が小さく煌めく。
iTrappedは微笑んだ。
完璧な笑みだった。
優しげで、穏やかで、救済者みたいな顔。
だが、その奥には人間味が一滴もない。
彼は泥に濡れた地面へ片膝をつき、チャンスへ手を差し伸べた。
「僕の手を取るかい?」
静かな声。
「命懸けのゲームの続きを、もっと“いい席”で見せてあげるよ」
その手を見た瞬間、チャンスの本能が警鐘を鳴らした。
危険だ、と。
この男はヤバい。
マフィアより危険だ。
笑顔の裏にあるものが、あまりにも冷たすぎる。
チャンスは“イカサマ”を嗅ぎ分ける勘だけは誰より鋭い。
だからこそ分かってしまう。
この男の微笑みは、どんな八百長より不誠実で、どんな殺し屋より冷酷だ。
――なのに。
心臓が高鳴っていた。
目の前にいる“氷の王冠の男”は、自分をもっと深い奈落へ連れていってくれる。
そんな確信があった。
チャンスはニヤリと笑う。
「いいぜ、乗った」
濡れたサングラスを指で押し上げる。
「あんた、どう見ても女神の代理人じゃねぇけど……」
彼はその冷たい手を掴んだ。
「最悪のギャンブルほど、勝った時の配当はデカいからな」
次の瞬間、チャンスの身体はiTrappedの方へ引き寄せられる。
友情なんてない。
信頼もない。
まして愛情なんて欠片もない。
あるのは――目的と狂気だけ。
それでも二人は、その瞬間確かに“共犯者”になった。