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#🐢投稿
(ゝω・) ねこウサギ
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隠れ家は静かだった。
さっきまで銃声と怒号が飛び交っていたのが嘘みたいに、コンクリート打ちっぱなしの部屋には、古びた換気扇の低い唸りしか響いていない。
iTrappedが用意した仮のアジト。
窓は小さく、光も薄い。まるで“逃げ込むため”だけに存在している場所だった。
「……はぁ。ようやく撒いたか」
チャンスはソファへ身体を投げ出し、黒いフェドラ帽を無造作に放る。
そして――珍しくサングラスを外した。
その素顔を知る人間は少ない。
露わになった瞳は、ギラついているのにどこか乾いていた。
金も才能も、生まれながらに何でも持っていた男の目。
なのに、まるで何一つ満たされていない。
焦燥。
退屈。
そして、自分でも止められない飢え。
チャンスは備え付けの安っぽいチェス盤の前へ腰を下ろすと、白いポーンを指先で転がした。
「驚いたぜ」
駒を見たまま言う。
「あんた、本当に“何も持たず”に地獄から這い上がってきたって顔してる」
ゆっくり顔を上げる。
「なのに、その王冠だけは……やたら本物っぽい」
部屋の隅に立っていたiTrappedが、静かに歩き出した。
靴音すらほとんど鳴らない。
黄色い髪がペンダントライトの薄明かりを受け、鈍く光る。
彼はチャンスの向かいへ座ると、黒のキングへ指を添えた。
「僕がどこから来たかなんて、別に重要じゃない」
穏やかな声。
「大事なのは、今こうして同じ盤上にいるってことさ」
その笑みは完璧だった。
柔らかくて、知的で、安心感すらある。
けれど、その奥に“熱”がまるでない。
iTrappedはチャンスの顔を観察していた。
サングラスの奥に隠されていた、本当の表情を。
(……脆いな)
そう思う。
(金持ちのボンボン。愛情に窒息しかけて、刺激だけを求めてる迷子)
(扱いやすい)
iTrappedの目的は最初から変わらない。
Banlandsに取り残されたEllernateとCaleb244を連れ戻すこと。
そのためなら、金も、人脈も、命も使う。
必要なら目の前の男だって、躊躇なく消費する。
彼はチェス盤越しに身を乗り出した。
「ねぇ、チャンス」
静かな声。
「君、自分の命をチップみたいに賭けすぎるらしいね」
細い指が、そっとチャンスの頬へ触れる。
氷の王冠から流れる冷気が、肌を刺した。
「……でも、僕の前では少し大事にしてくれないかな?」
優しい言葉だった。
恋人みたいに甘く、救済者みたいに穏やかで、ひどく丁寧。
――だからこそ、不気味だった。
チャンスは目を細める。
冷たい。
この男の手も、声も、目も。
イカサマを見抜く勘が告げていた。
こいつは嘘をついている。
いや、“優しさ”そのものが演技だ。
この男は自分自身を見ていない。
もっと別の何かを見ている。
自分を利用した、その先を。
普通なら腹を立てる。
椅子を蹴って出ていく。
だが――
チャンスは笑った。
しかも、さっきより楽しそうに。
「なるほどな」
iTrappedの手を掴む。
「あんた、俺を大事にしてるフリしながら、裏じゃ相当エグいイカサマ仕込んでるだろ」
口角が吊り上がる。
「……最高だ」
彼は逃げない。
むしろ自分から、その冷たい掌へ頬を寄せた。
「こんな騙し合い、カジノでもなかなか見れねぇぜ」
真正面から視線がぶつかる。
氷みたいな瞳。
狂気を楽しむ瞳。
どちらにも愛情なんてない。
片方は利用するために近づき、
もう片方は利用されるスリルに酔っている。
なのに、その歪み方だけは妙に噛み合っていた。
静まり返ったコンクリートの部屋で。
チェス盤を挟んだまま、二人の狂気はゆっくりと同じ形になり始めていた。