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宮侑は、普段から自信に満ちていて、挑戦的で、バレー以外には割と無頓着なくせに、彼女のことだけには異常なまでに感情が振れやすい。
その侑が、🌸の入院を知った瞬間――
笑顔のまま固まった。
「……は? なにそれ。聞いてへんねんけど。」
言葉は軽いのに、声の奥が低い。
怒っているのではなく、“不安が変換されてこうなるタイプ”だ。
侑はマイペースで、普段は他人に急かされるのが大嫌い。
だけどこの時だけは、自分で勝手に早歩きしていた。
廊下でスタッフに場所を聞く時も、珍しく丁寧。
「〇〇号室……はい、ありがとうございます。」
普段の生意気さや毒舌は、彼女のことになると全部消える。
ドアの前で一呼吸。
侑は手をポケットに入れたまま、小さく舌打ちした。
「……緊張してどうするねん、俺。」
自分の感情が乱されるのが嫌いなくせに、
彼女のことだけは乱されても拒めない。
ドアを開けた侑は、わざといつも通りの口調で言う。
「お前、思ったより元気そうで安心したわ。
勝手に心配させんなや、アホ。」
言葉はキツいのに、表情は柔らかい。
そしてベッドのそばに来て、手元の点滴の位置を確認してから、
荷物を静かに置く。
普段の侑からは想像できないほど“慎重”。
ベッドの位置を直してあげたり、落ちたものを拾ったり、
侑はずっとそばで動く。
「ほら、飲み物。
言われんでも飲め。俺が見張っとったるし。」
命令口調なのに、全部優しい。
これが侑の“過保護モード”だった。
しばらく話した後、侑はふと視線をそらして呟く。
「……ほんまにビビったんやからな。
連絡遅れたら、俺、めっちゃ焦るねんで。」
素直に言えないから、声が少し拗ねている。
根は純粋で子どもっぽいところがそのまま出ている。
⸻
帰り際、侑はドアの前で振り返った。
「俺にぐらい気ぃ使わんでええから。
元気になるまで、俺が全部面倒見る。」
優しさと、独占欲の入り混じった言葉。
でもその独占は、彼女のことを大切にしている証だった。
「次来る時は、もっと元気な顔見せぇよ。……ええな?」
侑は少し照れたように笑い、静かにドアを閉めた。
入院して二日目。
🌸が静かにスマホをいじっていると、病室のドアが コンコンッ と少し強めに鳴った。
「入るで。」
返事する前に、侑がスッと入ってくる。
いつもの余裕顔だけど、目だけがずっと彼女の方を追っていた。
「ほら、これ。フルーツゼリー。食べやすいやろ。」
言いながらテーブルに置くが、その位置が気に入らないのか、
すぐに向きを直し、さらに近づけ、結局本人の手の届く位置にぴたりと置く。
「……最初からそこ置けば良かったんじゃない?」
そう言われて侑は一瞬むっとする。
「黙れ。お前が取りやすいベスポジ探しとんねん。」
言い方は尖っているのに、やっていることは完全に優しい。
⸻
そこへ看護師さんが様子を見に来た。
「体調どうですか?」
「はい、大丈夫です!」
🌸が笑うと、侑は少しだけ眉を寄せる。
「……元気そうやな。」
看護師さんが出ていった後、侑はぽつりと呟く。
「知らん人の前やと強がるくせに。
俺の前ではちゃんとしんどい顔しろや。」
独占欲丸出しのわりに、さっきはちゃんと頭を下げていたのが侑らしい。
ベッド横の椅子に座ると、侑は黙って🌸の指先を見つめる。
「熱、もう下がった?」
「うん、ほぼ平気。」
そう答えると、侑はむすっとして背もたれに寄りかかった。
「……ほんま、俺ビビったんやからな。
なんも言わんと倒れんといて。」
素直じゃない声に、子どもみたいな本音が混ざっていた。
飲み物を飲んでいないと気づけば、
「ほら、飲んで。俺が見とったる。」
毛布が少しずれていれば、
「寒ない? はい、これ。」
と静かに直す。
すべてが自然で、慣れている。
“彼女が体調を崩した時モード”の侑は、いつもよりずっと丁寧だ。
ゆっくり話していると、侑が急に笑顔になる。
「なぁ、早よ元気にならんと困るわ。
お前おらんと、練習終わりにテンション下がんねん。」
それは素直な甘さ。
でもその次の言葉は侑らしい。
「しかも、俺以外に弱ってる顔見られるとか嫌やし。それにここも早く独り占めしたいからな。」
そう言って侑は私の唇を指でなぞる。笑顔で言うのに、言葉はちょっと刺さる。
けれどその“独占欲”は、全部大切に思ってる証拠だった。
面会時間ギリギリになり、侑が立ち上がる。
「明日も来るから。
何時になるか分からんけど、絶対来る。」
🌸が「無理しなくていいよ」と言うと、
「無理やない。俺が来たいだけ。」
と即答。
ドアの前で振り返ると――
「ほら、ちゃんと寝とけよ。
……俺の心配増やすな。」
そう言って、少し照れたように手をひらひらさせて帰っていった。
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