セリオの館は、森の奥にひっそりと佇んでいた。以前の持ち主である魔族の貴族が滅んでから長らく放置されていたため、館の周囲は荒れ果て、草木が無造作に絡みつき、外界と館を隔てるものは何もない。
しかし、リゼリアはその状況を快く思っていなかった。
「このままじゃ不用心すぎるわね。館に相応しい塀と門を作りましょう」
館の地下に封印されていた魔族の魔力を利用すれば、大規模な建築も可能だとリゼリアは考えた。
地下に降りると、そこには魔族が鎖に繋がれ、無気力に座り込んでいた。その体からはかすかに魔力が漏れ出ている。
「お前の魔力、少し使わせてもらうわ」
リゼリアが指を鳴らすと、魔族の体から紫紺の魔力が滲み出し、彼女の手のひらへと吸い込まれていく。魔族は低いうめき声を漏らすが、抵抗する気配はない。
「これだけあれば十分かしら」
リゼリアは館の外へ戻り、周囲の地面に複雑な魔法陣を描いた。セリオも興味深そうにその様子を見守っていた。
「随分と大掛かりだな」
「せっかくなら立派な塀と門を作るべきでしょう? 館の主として、それくらいの威厳は必要よ」
リゼリアは魔法陣に手をかざし、呪文を紡ぐ。すると、大地が震え、黒曜石のような漆黒の塀が地面からせり上がるように出現した。鋭利な棘のような装飾が施され、見た目にも威圧感のある仕上がりだ。
「……すごいな」
セリオは驚きを隠せなかった。
「ふふ、門も作るわよ」
リゼリアがさらに魔力を注ぐと、館の正面に巨大な門が現れた。魔界特有の魔金属でできた門は、不吉なまでに鈍く光り、中央には魔法陣が刻まれている。
「これで館も立派になったわね」
リゼリアは満足げに微笑む。
セリオは新たに築かれた塀と門を眺めながら、小さく息を吐いた。
「……城のようになったな」
「館よ。まだ城じゃないわ」
リゼリアはくすくすと笑うが、どこか嬉しそうだった。
こうして、館は魔界の中でも一際目立つ存在となりつつあった。
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