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黒曜石のような塀と門が完成し、館は以前とは見違えるほど整備された。だが、その変化は館の内部にとどまらず、周囲の環境にも影響を及ぼしていた。
ある朝、セリオは館の窓から外の様子を眺めていた。塀の向こうに広がる森に、わずかな違和感を覚える。
「……妙だな」
目を凝らしてみると、森の一部の木々が以前とは異なる色を帯びていた。葉は深い紫や青みがかった黒に染まり、まるで魔力を帯びたかのように揺らめいている。そして、森の奥から低いうなり声のような音が微かに聞こえてきた。
セリオはすぐにリゼリアの元へ向かった。
「おい、リゼリア。館の周囲の森に変化が起きている。木々の色が妙に変わっていて、何かが住み着いているようだ」
リゼリアはセリオの話を聞くと、興味深そうに頷いた。
「やっぱり……館に放たれた魔力に惹かれて、何者かが集まってきたのね」
「何者か、か」
「魔界には、魔力の濃い土地に引き寄せられる性質を持つ魔族がいるのよ。特に植物系の魔族は、強い魔力を持つ場所に根を下ろし、集落を形成することがあるわ」
リゼリアは少し考え込み、軽く指を鳴らした。すると、塀の外の木々の間から、何かが音もなく動く気配がした。
そして、一体の魔族が姿を現した。
それは人型をしているが、体の大部分が植物でできており、全身に葉や蔦が絡みついている。瞳は透き通るような翠色で、じっとセリオたちを見つめていた。
「……やっぱりそうだったのね」
リゼリアが軽く微笑みながら言う。
セリオはじっとその魔族を観察した。敵意は感じられないが、こちらの様子を伺っているようだった。
「この者たちは敵か?」
「いいえ、たぶんこの館に住み着こうとしているだけよ」
リゼリアは落ち着いた声で答える。
「つまり、館の周囲に魔族の集落ができつつあるということか?」
「ええ、そういうこと。あなたがこの館の主である以上、どう接するかはあなた次第だけど」
セリオはしばらく考え込んだ。住人が増えることは悪くないが、どんな存在なのかを確かめる必要がある。
「……館の周りの様子を見てくる」
そう言って、セリオは剣を腰に携え、館を出る準備を始めた。
「一人で行くの?」
「お前が来たら、余計な誤解を招きかねない。俺一人のほうが警戒されずに済む」
リゼリアは一瞬何かを言いかけたが、すぐに口を閉じた。
「……わかったわ。気をつけてね」
「当然だ」
セリオは門を開き、館の外へと足を踏み出した。
不気味なほど静かな森。
だが、その奥には確かに何者かの気配があった——。