テラーノベル
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待った無しで、夜桜目掛けてやってくる橘さんの豹変ぶりに、月陽も何やら夜桜がやらかしたことを感じ取る。
「何やったんだよ」
あ、やばい!月陽さんが初めて自分から声かけてくれた!って、それどころじゃない!
ここは無い去勢を貼ろう。
「ナンモダヨ」
ロボットみたいな声が出た。
まともに月陽さんのことが見れない。
……彼女も取り繕う人の1人なのかな。
月陽はジト目を向けて、「目、めっちゃ泳いでるよ」
私が言い訳をしようとするが、悪鬼の声で言うタイミングを失った。
「夜桜昨日バイトサボっただろ!」
やべぇ、そう言えば昨日サボったわ。
で、今日遅刻……では、まだ大丈夫!あと10分ある。
月陽は可哀想な人を見る目で、夜桜を見る。
「サボりかぁ」
月陽は、夜桜を擁護しなかった。
夜桜にとってそれは初めての事だっかもしれない。
客観的に見ても夜桜の容姿は優れている。
それこそ、幻想を押し付けられるほどには。
内心嬉しかった。
だからこそ、(ダメ人間判定しないで!)
「サボってねぇよ!」
焦って、暴力的な声質で大声を上げる。
「アアン!?」
ひえっ、橘さんマジおこ。
月陽は橘さんに向けて労うような表情を見せる。
その顔私にも!
「…寝坊しただけですぅ」
夜桜の勢いは既になく、肩をすぼめ小さくなってボソボソ口にする。
笑いを堪えるような声がして、向かいを見れば、月陽が下を向いて震えていた。
素の月陽が垣間見えた。そして、その素は誰かに偶像を押し付けるわけでもなく、ただ素直に純粋だった。
夜桜にはそれがとても嬉しくて、柄にもなく手離したくないな、と思ってしまった。
欲してしまった。その純粋さ、素直さを。
距離を詰めるならここだな。
人と偽り続けた経験は距離のとり方を学ばせてくれた。まさか、こんな所で日常の虚栄が役立つとは思いもしなかったけれど。
「あ、てめぇ月陽ぃ、何笑ってんだよ!」
「えええ、笑ってっ、フフ、ないっ、アハハハ!」
「大爆笑じゃねぇか!」
クラスではあんなに自分を殺してた月陽が笑ってる。
私のまでは、前だけではキラキラと輝いて見えた。
ドキドキした。頭にカーっと熱が上がる。
体が火照って仕方ない。
しかし、夢の時間は儚くとも刹那。
橘さんによって終わりを迎えた。
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