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◻︎新しい我が家の家族の形
大輝を家族として迎え入れるために、戸籍に入れた。
学校は智之と同じ学校へ転校することになった。
それらのことについては、沙智と夫が前もって大輝に話しておいたようだ。
「急に転校することになって、お友達とのお別れがちゃんとできなくて、ごめんね。でもすぐ近くだからまた会いたくなったら、連れて行けるからね」
「……ううん、いい」
あまり表情が変わらなくて、どう言えばいいのかわからなかった。
母親が亡くなり、施設行きのはずが父親の家に行くことになり、本人が望んでいたかどうかわからないまま、義理の母親と腹違いの弟ができ、転校することになる…。
大人だったとしても、その状況の変化にはついていけないだろうし、ましてや事情がまだよくわからない同級生には、説明もできないだろう。
家族4人がそろった最初の日。
私は家族会議と称して、話し合いをすることにした。
「さぁ、座って!これからのことを少し話しておきましょう」
「これからってなに?」
「とくに智之に、聞いてほしいかな?大輝も良く聞いてね」
「俺は?」
「あなたは我が家の大黒柱なんだから、デンとかまえてなさい」
「わかった」
「まずは、大輝、今日からあなたはうちの長男になります。智之のお兄ちゃんということね」
「え?ホントだったの?お兄ちゃんが来るって」
「あれ?信じてなかったの?」
「だってみんなが、弟よりあとにお兄ちゃんができるわけないって言うから…」
「それが普通なんだけどね…」
その後、智之にもわかるように大輝のことを話した。
「いまはまだちゃんと理解しなくてもいいから、とりあえずは兄弟として仲良くしてちょうだいね」
「よくわからないけど、よろしく、大輝兄ちゃん」
智之は、大輝という兄ができたことがうれしくてたまらない様子だ。
立ち上がって握手を求められた大輝も、そっと手を出した。
「ね、お母さん、友達が色々聞いてきたらなんて言えばいい?僕、うまく言えないよ」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから、それでいいよ。ごちゃごちゃ言うやつがいたら、お母さんは魔女だからだよって言っちゃえ!」
「香織!そんなこと言わせたら友達になんて言われるか、わからないよ」
慌てたように言う夫。
「だって、僕、魔女の子で悪魔の子だもんね、平気だよ」
笑って答える智之。
「いいのか、そんなことで」
「あなたは我が家のことを何も知らないのね、仕方ないけど。我が家の細かいことをいちいちみんなに説明するつもりはないけど、嘘や憶測で話が広がるのは避けたいと思う。もしかしたらそのことで大輝がつらい思いをすることがあるかもしれない、その時は、あとの家族みんなで大輝を守るからね、安心してね」
ガタンと立ち上がったのはまた智之。
テーブルの真ん中に右手を出す。
「ほら、お父さんもお母さんも、お兄ちゃんもこうやって手を出して!」
「あ、うん」
「うん」
「よし」
4人の手のひらが重なった。
「今日から毎日楽しいぞ!オーッ!!」
掛け声をかけたのは智之。
「なんか違う気がするけど、オーッ!」
こんな家族があってもいいと思った。
お風呂を上がってリビングに戻ったら、大輝の姿がなかった。
___あれ?
ふと、庭を見たらお骨の小瓶を埋めた八重桜のそばに、しゃがんでいる大輝が見えた。
「大輝…?」
「………っく…ひっ…く…」
背中を丸めて、声を殺して一人で泣いていた。
私は思わず後ろから抱きしめ、そっと背中をさする。
「悲しいよね…寂しいよね…我慢しなくていいよ」
つられて涙が出る。
大輝の気持ちと、息子を遺して逝った沙智の気持ちとを、推し量るだけで心が張り裂けそうになる。
「大輝のお母さんは、ここにいる沙智さんだからね。私はお母さんの代わりになれるように頑張るけど、ちょっとポンコツだから…」
「ぽ、んこつって?」
「うーん、ちゃんとできないかもってこと。でも頑張るよ」
「…ん…」
どれくらいそうしていただろう?
「あ…お母さん?」
「え?」
「今お母さんの声が聞こえた…」
「じゃあ、大輝のことを見てくれてるんだね?よかったね」
「うん!僕、明日から学校に行くよ」
「無理しなくてもいいよ?」
「今度の学校では、たくさん友達作るんだ!」
___もしかして、前の学校では友達に恵まれてなかったの?
「そうか、じゃあ私も、先生に挨拶に行かなきゃね!」
「じゃ、もう寝るから、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
パタパタとリビングに戻っていく大輝。
これからのあの子のことを考えると、いいことばかりではない気がする。
だけど…。
「沙智さん、私、頑張ってみるからね」
あらためて手を合わせた。
朝になった。
「智之!お父さん!なんで二人とも寝坊してるの?」
大輝だけがちゃんと起きてきて、朝ごはんを食べている。
「おかわり!」
「うわ、朝から食欲旺盛でいいね!」
「うん、こんな朝ごはん、初めてかも?美味しい」
「それはよかった」
少しだけ、ひまわり食堂風に、私なりにちゃんとした朝ごはんというものを作ってみた。
といっても、お味噌汁と卵焼きとサラダだけど。
「お兄ちゃん、早い!僕をおいていかないでね」
「大丈夫だよ、だって、僕、道がわからないから」
二人が元気よく出かけて行った。
近所の人が見たらこの光景をどう思うだろう?
___ま、関係ないか!
どう見えてどう言われても、迷惑をかけてるわけじゃない。
私たちが幸せならそれでいいんだと思う。
学校に行き、大輝のことを説明した。
明らかな嘘偽りで誤魔化さないでくれるように、お願いした。
「そうは言ってもねぇ…」
年配の女教師は眉をひそめている。
「とにかく、大輝はうちの子で、智之の兄です。そこだけは周知していただきたいです。大人が偏見を持って見なければ、子どもは受け入れてくれると思うので。よろしくお願いします」
わかりました、と了承の言葉はもらえてほっとした。
___そうだ、ひまわり食堂にも報告に行かなくちゃ
私はマドレーヌを20個焼いて、美希に報告するためにひまわり食堂に向かった。