8月7日
世界に悪魔が降り立ったのではないか、と疑ってしまうほど暑い日が続く中、噴水の前で少年は絵を描いていた。言葉を持たない少年は絵を描くことで自分を構成してきた。少年にとって言葉は不要だった。筆さえあれば声は要らなかった。ペンさえあれば言語なんて必要なかった。集中力が極限に達した時、視界に誰かが映った。誰かは男だった。手と耳そして目がない不思議な男だった。不気味さからか、はたまた集中を削がれた怒りからか、少年は足早にそこを去った。帰り際、手に抱えたキャンバスや絵の具を煩わしく思ったのか、少年は宝物だったものをゴミ捨て場に廃棄した。両手が軽くなった開放感からか、家に帰るなり声高らかに少年は伝えた。「ただいま」
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