テラーノベル
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大学2年、8月。
母親「ねえ、あんた今年20じゃなかったっけ。」
直弥「…そうだけど。」
母親「いつまでここにいるつもりなの?もう大人でしょ?年内には出てってよね。」
直弥「…わかった。」
冬花の家。
「はい、これ。」
浴衣を渡される直弥。
「……え?」
「直弥の。」
「え?」
「買った。」
「……。」
「着て。」
「……うん。」
部屋で着替えて出てくる。
「冬花」「帯って、どうやって巻くの」
なんかぐちゃぐちゃになってる。
「貸して。」
冬花が慌てて帯をほどく。
「えーっと……。」
「……。」
「……。」
「…………。」
「……。」
「……。」
「貝の口ってどうやるんだっけ。」
「……。」
「動画で見たんだけど。」
「……。」
結局。
蝶結び。
「……できた!」
「これでいい?」
「うん!」
「……。」
「かわいい。」
「僕?」
「浴衣!」
縁日。
見知らぬおばちゃん。
「あらあら、その帯!」
「ちょっとあんた、来なさい!」
冬花「あっ……。」
直弥を引きずるおばちゃん。
「せっかくの美形が台無しだよ!!」
「一本独鈷が勿体ない!!!(帯の話)」
直弥「……。」
おばちゃん「あんた細いねぇ!身幅余ってるじゃないか!」
直弥「⋯すみません。」
おばちゃん、腕をぺちぺち。
「ちゃんと肉食ってんのかい!」
直弥「……食べてます。」
おばちゃん「もっと食べな!」
「男は祭りの日くらい腹いっぱい食うもんだよ!」
冬花は横で
「……すみません。」
って小さくなってる。
帯を直し終えて。
おばちゃん、
直弥の背中を思いっきり叩きながら
「はい!これで男前!」
「彼女さんも次はちゃんと覚えな!」
「焼きそばでも食うんだよ!!」
って屋台の方を指差して去っていく。
数秒の沈黙。
冬花「……ごめん。」
「冬花がうまくできなかったから。」
冬花は少し泣きそう。
直弥「……大丈夫。」
「冬花が着せてくれて、嬉しかった。」
「……ありがとう。」
冬花「……。」「へへ。」
「焼きそば、食べよっか。」
直弥「⋯うん。」
「今年も来れてよかった。」
花火の下、冬花が言う。
直弥「…そうだね。」
「直弥はもう少し射的とかスーパーボールすくいとかうまくなろうね。
ひとつも出来ない人なんて初めて見た。器用そうなのに。」
「…ふふ。」小さく笑う直弥。
「これで終わりかな」大輪の花火を見て言う冬花。
「来年も行こうね」
「うん。」と直弥。
祭りの帰り。
人もまばらになってきた夜道。
「…ねえ、なにかあった?」
「え?」
「なんかきょうの直弥、元気なさそうに見えたから。」
「⋯そんなこと、ないよ。」
「⋯そう?」「困ってることがあったら言ってね」「…冬花は、直弥といたいの。」
「…うん。」
冬花「……帰りたくないね。」
少し間。
直弥「……うん。」
冬花がそっと直弥の手を握る。
夜道を歩いていく2人。
椎名林檎『長く短い祭』。
コメント
1件
わあ、もう第16話なんですね。読んでいて夏の夜の空気がふわっと立ち上ってくるようでした。 直弥くんの浴衣姿、冬花ちゃんが一生懸命帯を結んでくれるシーンがとても可愛くて、おばちゃんに「美形が台無し」って言われちゃうところも含めて愛おしいです。花火の下で「来年も行こうね」って言える距離感、本当にいいなあ。 最後、手を握って歩いていく場面には胸が温かくなりました。この終わり方、とても好きです。えぬたさんの描く空気感、繊細で素敵でした🌸