『起立。礼。』
その一声で眠くて眠くて仕方がない、5時間目が始まった。席につくなり、机に溶けたように倒れ込むのはもう仕方がないことで。
昨日、ししろとゲームしすぎた…なんて頭では反省するのもこれで7度目。
「今日は文化祭の出し物について決めます」
そんな声を右から左へ聞き流す。文化祭の出し物かぁ〜、何すんだろ……。そんなこと考えながらうつらうつらと意識が転々とする。
ついに、限界を迎えたポルカは意識を完全に離してしまうことにした。
「ん…るん…おまるん、おまるん」
「ん〜…なに?」
「ずいぶん、ぐっすりだったね?もうそろそろ役を決め始めるみたいだから、おまるんも参加させようと思って。」
「役?」
「うん、うちのクラスは劇をすることになったんだよ。その、役」
「ちなみに、これがあらすじ」
ラミィから手渡されたあらすじをみると、そこには誰でも知っているような代表的な物語が書いてあった。
『まずは王子役からかな。だれかしたい人いる?』
その声に反応するのは、1部の女子。『獅白さんがいいんじゃない?』『かっこいいし!』『獅白さんが迎えにきたら私死んじゃうかも…!!』
そんな意見で。ししろの方をちらっと視線をやっても、ししろは特別驚く様子も、嫌がる様子も見せず、軽くOKを出していた。
『じゃあ、王子役は獅白さんだとして…姫役は誰がしようか?』
「あ、じゃあ、あたしが決めてもいい?」
『獅白さんの相手なんだしいいんじゃない?』
『じゃあ誰がいいとかあるかな?』
珍しいな〜、あのししろが自分から相手を選びたいだなんて。
(…誰にするんだろ〜)
「おまるん」 指差し
「………はぁ!!!??」
一瞬にして静まり返った教室には、寝起きとは思えないような声が響いて。
教室からは否定の声も、賛成の声も聞こえないまま、
「じゃあ、相手は尾丸さんに決定でいいかな?」
「いや、ちょっ…!?」
「なーに?あたしの相手は嫌?」
「違っ、違うけど!!」
『えっと…尾丸さん、嫌かな?嫌なら全然断ってくれてもいいからね、!!』
教室中の視線が集まり、空気をこれ以上壊すこともできずに、頷くことしかできず、ししろの相手の姫役はポルカに決定してしまった。
そのまま授業は順調に進んで、あっという間に放課後になってしまっていた。
特に部活も入っていないポルカはまっすぐ帰宅でもしようしたのだが………なぜかもうクラスメイトの残っていない教室にはポルカとポルカの隣に獅白ぼたんが座っていた。
2人とも、視線はスマホで、会話もこれと言ってなく、なんでここにいるんだっけ……となるポルカである。目の前のスマホ画面には大きくゲームオーバーの文字があらわれ、一息ついた後スマホを伏せて置き、隣のホワイトライオンへ視線を向けることにした。
「…なんでポルカなわけ?」
「んー?文化祭の話?」
「うん」
ずっと気になっていたのである。どうしてポルカなのか。ししろならポルカよりもラミィや他の可愛い子とかの方が絵になる。なにより、この作品には……………
「うーん…」
「特別理由ないの…?それなら別の人の方が、ラミィとかの方が良くなかった?」
「なんでそう思うの?」
“なんで”それはわかっていっているのか。
それともなお、ポルカと視線がぶつからないスマホへ集中しているから適当に流しているだけなのか。もう、いいか。言ってしまえ。
「だって、この劇…っ、その、キス、シーンがあるじゃん……」
「うん、だからおまるんなんだよ」
視線はぶつかっていないのに逸らすかのように。少し、体温を上げて言う。
それに反応するように、目線をポルカに移して、当たり前。とでも言いたげなように微笑んでその台詞を吐くししろはポルカの意識を掴むには十分すぎた。
「…へ?」
「なんでかあたしもわかんないけど、キスするなら、できるなら、
___________おまるんがいいと思った。」
「…好きだよ。」
「…っはぁ!?//」
急な告白に、ポルカの心臓はどくどくしっぱなしで、落ち着くにも落ち着けず、言葉にしようにも、言葉にできず、口をぱくぱくとさせながらただその余裕そうなししろを見つめるだけだった。
「ほんとに、ポルカでいいの?」
絞り出した言葉は、教室の静寂さに飲み込まれて消えてしまいそうな小さな声で。
だけれど、その言葉はしっかりライオンの耳には届いたようで、おまるがいい。なんて返事に一瞬、耳を疑って、目頭が熱くなるとほほ同時に視界は潤んで見えなくなって。
「ねぇ、キスの予行練習しようか?」
ポルカの涙を拭って、獲物を見つけたような、だけどとても優しい瞳で聞いてくるししろに胸をきゅんと掴まれたように体温は上がっていく一方だ。
「劇の、練習じゃなくて、ししろのくれる、恋人の本番のキスがしたい…」
そういえば、薄墨色の瞳が揺れ動いてゆっくり近づいてくる。きゅっと瞳を閉じれば、ふわっとししろの匂いが香って、ちゅっと唇に柔らかさを感じた。
2人きりの教室には、窓から差した夕陽の光がひとつの影を作っていた。
コメント
3件
感動…涙止まんねぇ~( ;∀;)
めっちゃ、好きです! フォロー失礼します🙇