「あ、いろはちゃ〜ん!!」
「沙花m…!?」
後ろから名前を呼ばれる声が聞こえて、その主の名前を呼びながら振り返ろうとすると、腰あたりに衝撃を感じると同時に沙花叉の匂いがふわっと風真に伝わって。
「急に抱きついたら危ないでしょ!!沙花叉!!」
「えっへへ〜ごめーん」
…いつもよりもするシャンプーの香りが風真の鼻へ届く。もしかして、あの沙花叉が…
「お風呂上がり?」
「そー!よくわかったね?いい匂いするでしょ〜」
そう言って頭を擦ってくる沙花叉に、それが普通なんだけどなぁ。なんて思いながらも今日だけは褒めてあげることにして、綺麗な銀色の髪を撫でてみる。
「ん、へへ…」
先程の動きは止まって頭を撫でられていることを感じているように目を細めて笑った沙花叉に風真もつられて頬が綻んでしまう。
「でも、沙花叉。風真のシャンプー使うのは禁止でござるからな。」
「げっ…バレた?」
ホロックスは自分の部屋以外のキッチンや洗面台などが共通である。そのためお風呂も共通で洗剤類を全て揃えようと相談したものの、やっぱり髪質に合う合わないがあるみたいで、それぞれシャンプーを持参していた。
風真はそれを1番最初に気づいていた。普段風真が気に入って使っている好きな香りが、好きな人から香っているのだ。気づかないわけがない。だから、頭を撫でてしまったのかも。なんて今、理由がわかってしまう。
別に、そこまで使われたくないわけではない。ホロックスのみんなは大好きだし、特別自分の香りが人から香るのは嫌ではない。
だけれど、沙花叉は例外だ。好きな人から自分の香りがするのは、さすがに風真にもくるものがある。こんなの、マーキングみたいじゃないか。飼っているネコがご主人様に匂いをつけるみたいに。他の野良ネコを触って帰るとイヤな顔をしてくるみたいに。それを一度想像してしまえば、そのことに頭が支配されるのは風真の悪いところである。
「ごめんね、いろはちゃんの匂いが気になっちゃってさ…沙花叉からするいろはちゃんの匂い、沙花叉にも刺激ちょっと強くてさ、もう使わないから許して?」
わかってしているであろう上目遣いと、風真が断れるわけがない言い方。
……………刺激が強い?つよいってなんだ?そこまで匂いが強いものじゃないはずなんだけど………つよい…
考えながら自分の前髪を少しくんくんと嗅いでみる。
「あ、刺激が強いっていうのは、臭いとかそういうことじゃないよ!!」
「え、じゃあどうゆう?」
「あー……、沙花叉には、ずっといろはちゃんに抱きしめられてるみたいな…感覚だからさ。すごい、その、ドキドキするんだよね」
頬を赤く染めて、恥ずかしがりながら言うその姿は風真の理性が砕けるような、音を響かせるぐらいに可愛かった。
「…いいよ。やっぱり同じシャンプー使っても。」
「…え?」
「風真に抱きしめられてるみたいでドキドキする沙花叉、可愛いから。」
我慢できなくて、次は正面から風真が沙花叉をぎゅっとする。風真のお気に入りの匂いと、どこか感じる沙花叉の匂いが香って風真の鼻を刺激する。
「へ!?ちょ、 いろはちゃん!?」
風真の胸の中でジタバタと焦っている沙花叉の耳は真っ赤で、離したくない気持ちを抑えて、腕の中から解放すると少し荒くなった呼吸と、赤色に染まる頬にもう一度抱きつきたいとなる気持ちを抑える。
「でもやっぱり、沙花叉から沙花叉の匂いがしないのは、少し寂しいでござるな。」
銀色の髪を少し掬って、にこりと沙花叉の目を見ていう。少しでも沙花叉にこの好きが届くように。
「…ずるい。今日のいろはちゃんはめちょずるい……!!」
「…こんなの、好きになっちゃうじゃん!!」
「なってよ。」
「風真を好きに、大好きになって?」
目を見つめて視線を交わらせながら少し低い声で真剣に言えば、沙花叉の瞳が揺れ動いて、やっぱり、今日のいろはちゃんはずるい!!おかしい!!なんて言って、走って逃げてしまった。逃げらてしまったのに、なんだか、悪い気もしなくて。
「答え、聞けなかったけど、断られてもない…でござるよ、沙花叉。」
まだ、好きでいていいのかな、期待しちゃっていいかな、なんて1人で考えてまだ、ここに残るお気に入りのシャンプーの香りを楽しんでいた。
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てぇてぇ
この話大好きてぇてぇ