テラーノベル
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久しぶりに佐久間の部屋に来た阿部は、2人でゲームに興じていた。
「そっちじゃないよ」
「えー、こっちのが先じゃないの?」
テレビ画面を見つめたまま、2人は言い合い、コントローラーを操作する。
「あ、これだよ、あべちゃん」
佐久間があるギミックに気付き、キャラクターを走らせた。ボタンを連打してギミックを解除する。画面が切り替わりムービーが始まり、ステージクリアのスコアが表示された。
「意外と時間かかってる」
「最初、ちょっともたついたからね」
2人は手元に置いたドリンクを一口飲んで、しばし休憩を取る。
「…そういえばさあ、照って普段、あべちゃんの事なんて呼んでんの?」
ふと気になって、佐久間が質問した。阿部はきょとんとして佐久間を見る。
「え?…”阿部”」
なんでそんな事、改めて聞くのか分からないと言う風に答えた。
「は?阿部って呼んでんの、あいつ」
「?いつもそうじゃん」
佐久間が引き気味なのがよく分からず、阿部は首を傾げる。
「いつもはそうかもだけどさー、2人の時は名前呼びとかあるじゃん!」
ピンと来てない阿部に、佐久間はもどかしくなりながら言った。
「あぁ、そういう話か」
阿部はようやく言われたことを理解する。
「…俺、気にしたことなかったわ」
「えぇえ〜?じゃあ、エッチしてる時も阿部呼び〜?」
理解できないという顔で佐久間が言う。
「おい、いきなりそこに踏み込むなよ」
阿部はちょっと赤面して、苦言を呈した。
しかし言われてみれば、セックスの最中にも”阿部”と岩本は言っていたなと思い出す。
「色気ねーわー。あべちゃんは、”亮平”って呼ばれたいとか思わないの?」
「…考えたことなかった」
岩本からの”阿部”呼びが、耳に慣れすぎていて、なんの不満も感じた事がなかった。
「2人でいる時くらい、特別感だしなよ〜」
「特別感か。…それは良いかも」
別に呼び方にこだわりは無かったが、特別な呼び方というのも悪くないな、と阿部は思った。
「あ、もし照が呼ばないってなったら、俺が呼んだげるね〜」
人懐こい顔で佐久間が言う。
「いや、なんでよ」
「…”亮平、こっち来いよ”って」
「ははっ、佐久間、無駄にイケボ」
阿部は笑って、飲み物を一口飲んだ。
「よし、じゃ、次のエリア行くか」
「オッケー」
2人はまた、コントローラーを手に座り直す。画面が切り替わると、さっきまでの話など忘れて、キャラクターを散策へと走らせた。
佐久間と名前の話をした数日後。
阿部は仕事終わりのその足で、岩本の部屋に来た。
「ひかる、明日早いの?」
荷物を部屋の隅に置いて、阿部が尋ねる。
「いや、ゆっくり。泊まって行きなよ。阿部のスケジュールが大丈夫なら」
キッチンで作業しながら、岩本が質問に答えた。それを聞いて阿部は、先日の佐久間との会話を思い出す。
せっかくだから、ちょっと提案してみようと思った。
部屋着に着替えてリビングに戻ると、岩本はまだキッチンで何かしていた。
「ねえ、ひかる」
「ん?」
岩本は作業の手を止め、振り向いた。
「俺のこと名前で呼んでみてよ」
阿部は単刀直入に言う。岩本は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに微笑んでつけていたゴム手袋を外した。
「いいよ。今、呼べば良い?」
「呼んで呼んで」
阿部は軽い調子で言って、両手を開いて待つ。岩本は歩み寄り、阿部を抱きすくめた。
「…愛してるよ。亮平」
そして、阿部の耳元で低い甘い声で囁く。
その瞬間、阿部が身体をこわばらせるのが分かった。
「ん?どした?」
てっきり、”俺もー”と返って来ると思っていた岩本は、身体を離し不思議そうに阿部を見る。
「あっ」
「…顔、真っ赤」
目が合って思わず吹き出す。阿部は顔どころか、耳から首まで赤くなっていた。
阿部は、大いに狼狽えていた。
自分の反応が想定外だった。
佐久間に呼ばれた時と変わらないつもりだったのに、 岩本に耳元で名前を呼ばれた瞬間、血が沸騰したみたいに身体が熱くなり、とんでもない恥ずかしさが襲って来たのである。
自分でも驚くほど、初心な反応をしてしまい動揺した。
「大丈夫?」
岩本は笑いを堪えながら聞いた。自分から呼んでくれと、言っておいてのこの反応だ。可愛くて仕方ない。
「あ、えっと、だ、大丈夫」
阿部はまだ顔を赤くして、しどろもどろに言う。
「これからも名前で呼ぼうか」
岩本はあえて聞いてみた。阿部の答えはわかっていたが。
「!?やっ、なんか、もう、分かったから。あ、現状維持、現状維持で!」
阿部は早口に言うと、岩本に背を向けそそくさとソファへと逃げていった。途中でカウンターの角に思い切りぶつかっていたので、相当動揺していたのだろう。
岩本は苦笑しながら、また自分の作業に戻った。
真っ赤な顔をして、狼狽えていた阿部を思い返す。名前を囁いただけなのに、あんな反応されるとは思わなかった。
(可愛かったな)
思い返して、ついニヤけてしまう。
(あ、セックスの時不意打ちで呼んだら、めちゃくちゃ可愛くなるやつじゃん?)
ふと思いつく。
呼ばれ慣れてくれば、阿部もあんな反応はしなくなるだろう。いわば期間限定の反応だ。それを楽しまない手はない。
絶対また呼んでやろうと、岩本は心に決めた。
阿部はクッションを胸に抱き、言いようのない恥ずかしさに悶えていた。
名前を囁かれた瞬間も、耳慣れないせいか恥ずかしかった。
が、さらに恥ずかしいのは、それが全部表に出た事だった。
あんな余裕のない感じで。
「…あぁああ」
羞恥心で居ても立っても居られず、思わず口から言葉が漏れる。阿部はクッションを抱いたまま、ソファに横になった。
この今の気持ちは、誰かに聞いてもらわないと、消化出来ない。
阿部はスマホに手を伸ばし、佐久間へLINEを送るべく、気持ちを綴り出したのだった。
コメント
2件
ふふふふふ🤭🤭🤭 尊い予感です🤦🏻♀️💛💚
うわあああ第16話もやばかった〜!!😭💕 「亮平」って耳元で囁かれて硬直→真っ赤になっちゃう阿部ちゃん、マジで尊死案件すぎるでしょ!!自分から呼んでって言っといてその反応は反則級の可愛さだよ…!岩本さんの「期間限定の反応」発言もニヤニヤが止まらん…👀✨ 佐久間が余計なこと言ったから始まった流れなのも含めて最高でした!!次も楽しみにしてます〜!!🌸