私が菊さんに会っていることを、母に知られたのです。母は焦ったように「だからお国様の話はしなかったのに!」と私を叱りつけ、この辺りで有名で高価な羊羹を買い、菊さんのもとへ、私を連れて謝罪しにいったのです。
「この度は、うちの愚息が失礼いたしました……これからはこのようなことがないように躾けますので……」
「ふふ、大丈夫ですよ。私も幸太郎のおかげで楽しかったのですから。」
「そんな……! ほら、幸太郎。お国様の寛容さに感謝なさい。あ、こちら、お詫びの品でございます……つまらないものですが……」
「そんな、いいのに……あ、羊羹! ありがとうございます」
ぺこぺこと頭を下げる母と、その母を見て愛おしそうににこにこと微笑む菊さんを見て、なぜだか不思議に思ったのを覚えています。同じ人間のすがたをしているのに、二人の雰囲気がまるで違っていて、菊さんが本当に人間でないことを知って、少し寂しくなりました。
そして、その帰り。母は語気を強めて、私にこう言いました。
「いい、幸太郎。お国様はね、天皇陛下様と同じくらい高貴な方なの。崇高な存在なの。もう二千年も我が国、日本を守ってくださっているの。だからね、あんたみたいな人間が、お国様のそばにいようだなんて考えないでね。……あの方の見た目もそうでしょう。人間らしくない美しさがある。これが、国の美しさなのよ。」
と、ぎゅっと私の手を強く握りしめました。
だけど私にはしっくりきませんでした。たしかに菊さんの姿を見て、人間らしくないと思ったことはありますが、菊さんを高貴な人だとは到底思えなかったのです。菊さんの柔和な微笑み、親しみやすい温かい眼差し、温かく優しい手は嘘ではないと、偽物ではないと、そう、思ったからです。