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霊園を出て出発した頃には、空はすっかり夜の闇に染まっていた。宿泊先のホテルへ向かい、寛いで食事をとる。つけっぱなしのテレビを横目に、准と涼は窓際でこれからの人生プランについて話し合った。
「准さん、あの部屋ペットOKでしたね。俺、犬を飼いたいです。毛がもふもふしてるタイプ。シーズーとかヨークシャーテリアとか!」
「いやいや、猫だろ。犬なら百歩譲ってハスキー。大体あんな毛虫みたいなの、毛を巻き散らかして大変じゃん」
「そんな酷くありませんよ、昔飼ってましたから。もこもこしてもふもふしてる犬は正義です」
「分かった分かった。でも要検討な」
「お願いしますね。俺も、猫も検討しておきますんで」
巻き起こる口論とは真逆に、二人は密着していた。恋人としての距離。成哉は、自身の頭を准の肩に乗せた。
「引っ越して、新しい仕事を覚えて。お互い、また忙しくなりそうですね」
「そうだな。今ぐらいだな、こんなのんびりしてられんのは」
だけどこの時間は、もう誰にも奪われたくない。
守り続けていこう。准は成哉の頭を撫で、窓の外を眺めた。
真っ暗な夜空が広がる。その先には、小さくも存在感を放っている光。
……あぁ。
駄目だ。
また、思い出してしまった。
「准さん?」
「成哉。星、見に行こうか」
准は窓の外を見つめたままだ。そんな彼に、成哉は瞬きを繰り返していたが……やがて、徐に立ち上がった。
「見に行こう。約束しただろ? あ、公園で飲んでた時にしたやつじゃなくて。十五年前に、この地で交わした約束の方を」
「准さん……」
握った掌に、また強く力が込められる。
「ありがとうございます。でもすいません。俺そっちはあんまり覚えてません」
「正直で何より。まぁ俺がスッキリしないから、行くぞ」
「えぇっ、今からですか!?」
准は立ち上がって上着を羽織る。目の前で驚いてる彼を無理やり立たせて、車のキーをとった。
「うん、今でなきゃ駄目だ。だって本当はもっと早く」
十五年なんて時を待たず。
「……お前に会いたかったんだから」
空で光るあれを、今見たい。
一秒だって待てない。もっと早くに会って、約束を果たしたかったから。
彼の手を引いて、とにかく走る。
逸る気持ちを抑えられない。早く、早く。時間を蹴って、外へ飛び出した。