ぼくが、村田先生に顔を向けると、村田先生は大きく頷いて咳き込み。血が少量地面に落ちた。
「そうだねー。これはある種の悲劇でもあるし、とても自然なことだったんだ。約200年前から続いていた不死の儀。それは子供を食すことだけど、その当時はそれしか食べ物がなかったんだね。でも、不老不死になった彼らは……私もだけど、ある一つの悪夢が起きたんだよ。これは村の黒い歴史の話だ……」
ぼくは静かに聞いていた。
悲しいのは、もうこりごりだけど、聞かないと前に進めない。
「それは……腐食作用だったんだ。そう……食べないといけない。生きていくには……確かに生きているわけではないけどね。そうしないといけない身体になってしまったんだ。でも、子供たち以外も食べた人もいるけど、要するに人間の肉を貪るアンデットになったんだよ。大人だと難しいから、仮死状態の子供を食すことで、彼らは私も羽良野先生も、今まで街の人々も死ぬよりも苦痛な腐食を凌いでいたんだね。そう。真相はこの街にあるんだ。今も生きているんだね。真相自体がね」
やっとのことで、悪夢のような話と一緒に杉林を抜けた。
目の前の道路には、道路標識以外は、電柱と看護婦長が乗った黄色い普通自動車だった。ぼくは、すぐさま看護婦長に父さんと母さんのことを聞いていた。
自然な反応? 多分そうだ。
「安心して、何もなかったのよ」
看護婦長はケラケラと笑った。
「…………よかった……」
「さあ、出発しよう。今度はこの街からも逃げ出さなければね」
村田先生のテープレコーダーの声が辺りに響いた。
車は住宅街の入り組んだ細道を軽快に走行していた。
血生臭いぼくたちを乗せて。
車窓からは、日の光を浴びる黒い街が佇んでいる。街の住人がいつの間にか生活の音を立てて、それぞれの出方で、それぞれの場所へと向かいだした。
ここには生活があるんだ。
黒く。残酷だけれども。いつもの生活があるんだ。
「君をおうちへ帰さないといけないな」
「もう。村田先生はー。当たり前でしょ」
運転している看護婦長と助手席に座った村田先生は、世間話のように話していた。村田先生も不死なんだ。時折、血を少量吐いては咳き込んでいた。
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