テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
さかなな
738
『お餅』🌹
651
今日は土曜日。
つまり、学校はお休み。
そんなわけで、朝方、僕は自宅のリビングに置かれたソファーに腰掛けながらコーヒーをすすっている。真っ白なレースのカーテンから入る陽の光を心地良く感じながら。
時間がゆっくりと流れる休日の中、僕は考えていた。明日は三月三日。桃の節句だ。
が、しかし。僕は別段桃の節句について考えているわけではない。
明日は小出さんのお誕生日なのだ。
「やっぱり楽しみだなあー」
何が楽しみなのかと問われるなら、それはもちろん、小出さんのお誕生日会に招かれているからに他ならない。
「ついに使う時が来たってことか」
なくすことがないように、机の引き出しの中に仕舞い込んで大切にしてた『小出千佳お誕生日会チケット』を見てはニヤけている今時分である。
「小出さんのお家にお呼ばれされるだなんて、夢のようだなあ。小出さんのお父さんにもお母さんにも会うことになるし。緊張しちゃうけど」
どうして緊張するのかというと、それは、小出さんのご両親にお会いした際に交際させてもらっていることを報告してお許しをいただきたいからである。
つまりは小出さんのご両親公認での交際になれるかどうかってこと。緊張するのも当たり前だよね。
そして僕は今、考え、悩んでいる。とは言っても、それはとても幸せな悩みなんだけど。
「どうしようかな、プレゼント」
そう、お誕生日プレゼント。小出さんが十七歳になるお祝いに、僕はぜひプレゼントを贈りたいのだ。彼女の笑顔のために、思い出のために、気持ちを込めたプレゼントを。
しかし──
「女の子って、お誕生日に何をプレゼントしたら一番喜ぶんだろう……」
僕は生まれてこの方、女の子にプレゼントを贈るなどというイベントに遭遇したことがない。いや、お母さんと妹にはあるか。
しかし、身内以外となると、ない。皆無。非モテの僕にそんな機会はなかった。なんて悲しい現実だろうか。
だから、悩む。分からない。女の子が喜ぶプレゼントチョイスが分からない。全くと言っていい程に。
プレゼントを贈るからには、小出さんをガッカリさせたくはない。が、ない頭をフル回転させるも思い付かない。
「むむ……むむむ……」
「ねえお兄ちゃん? どうしたの? さっきから五十嵐を噛み潰したみたいに難しい顔しちゃって。変なものでも食べた?」
「なんだ風子《ふうこ》か。って、五十嵐ってなんだよ。『苦虫を噛み潰したような』、だろ」
園川風子《そのかわふうこ》。中学一年生の十三歳。僕の妹である。
とはいっても、性格は全く違うけど。積極的だし、クラス委員長を務めているまとめ役だし、その上、勉強も運動もできる優等生だし。
その上、見た目もまあまあ可愛い。サラサラで艶やかな黒髪がよく似合っているし、女子っぽさ全開だし。こういうのを親バカって言うんだっけ?、いや、違うか。兄バカかな? そんな言葉があるのかは知らないけど。
でも、風子のことを一言で言い表すなら『おバカ』かな? だからこそ、兄として不思議に思う。どうして勉強ができるのに、ここまでおバカなんだろうかと。
「あれ? そうだったっけ? 合ってると思うんだけど」
「合ってない。いや、合ってるわけがないだろ。あのさ、どうしたらそういう間違い方ができるんだよ。そもそも、僕が五十嵐さんとやらを噛み潰したら大事件だっつーの」
「えー。こんなことないよ。苦虫も五十嵐も似たようなもんじゃん」
謝れ。この世の全ての五十嵐さん全員に対して謝れ。全力で。
「なによお兄ちゃん。私の顔じっと見て。もしかしてブラコンになっちゃったとか? 私の可愛さに見惚れちゃったとか? だとしたらキモいんだけど」
「そんなわけがないだろ! 僕にはれっきとした小出さんっていう彼女がいるんだから! 風子なんか比べものにならないくらいに可愛い彼女がな!」
それを聞いた途端、風子は目を丸くしたまましばらくフリーズ。そしてポケットからスマートフォンを取り出した。
なんか嫌な予感が……。
「あ、あのー。風子さん? 一体どこに電話をしようとしてるのかな?」
「うん。救急車。ついにお兄ちゃん壊れちゃったみたいだから」
「失礼すぎるでしょ、それ! って、ちょっと待って! 本当に電話かけようとしないで! スマホをタップしないで!」
慌てて風子からスマートフォンを取り上げたけど、時すでに遅し。風子は番号を入力して通話ボタンを押した後だった。
が、スマホを耳に当てると、聞こえてきたのは時報だった。
ば、バカで助かった……。
「……あのさ、風子。どうして僕に彼女ができたことで、そんなに驚いてるの?」
「え? 当たり前じゃん。お兄ちゃん、友達すら一人もいないし」
グサッと胸に何かが刺さって膝から崩れ落ちた僕である。いや、事実であるんだけど……普通、本人に向かってそういうことを言うもんかね。
「どうしたのお兄ちゃん? グッタリしちゃってるけど」
「ごめん、今は一人にさせて……」
小出さんへのプレゼントを何にしようか考えなきゃいけないのに、朝からすでに僕の精神メーターはゼロ。
妹よ。どうしてくれるのさ!!
【続く】
コメント
1件
お誕生日会の準備、めっちゃキュンキュンしました〜!!✨ 小出さんのご両親に挨拶するって意識してるのがもう尊すぎる😭💕 妹・風子ちゃんの「五十嵐噛み潰した」とか救急車発言、ツボりすぎて朝から声出して笑いましたwww プレゼント悩む主人公の純粋さが可愛くて、次の話が待ち遠しいです⋆♡ 十色さん、素敵なエピソードありがとうございます🌸