テラーノベル
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「言っても俺らまだ3年目じゃん? わからないならこれから覚えればいいだろ」
「……うん」
「あれが足りない、これが無い。 エアコン調子悪いな、大きな会議のセッティング。 急な来客時の対応も担当が来るまでの繋ぎも」
頰に触れてた手が、ギュッと太ももの上で握りしめてた真衣香の手を包んでくれる。
「社内イベントの企画も運営も、業者で行き届いてない掃除もお前がやらなきゃ誰がやるの?」
「そ、れは……特にいなくても誰でもできることで」
「違うよ」
卑屈な真衣香をピシャリと黙らせる強い声。
なんて強い声なんだろう。
優しいのに真っ直ぐ、強く強く心に届く声。
嘘じゃないってわかる声。
「みんな、立花の仕事を簡単だ、誰でもできる便利屋って言ってる。 お前も聞いてるんでしょ」
「そりゃ……、もちろん、聞いてるよ」
恥ずかしくなって、俯く顔を逃がさないとばかりに覗き込む坪井。 吐息が唇にかかる。
「でもみんな、咄嗟に自分で何もしない。 できない、お前がいてくれるから頼んで、自分の仕事に時間かけれる」
「……っ、そう、なのかな」
「うん。 今の立花が自信持てない部分と、仕事内容は別。 総務の立花真衣香はもっと自信持つべだから。みんな困ったら総務に行こって、お前の顔思い出してんだって」
固く握りしめた拳を包みながら、ゆっくりと指に触れ緊張を解いてく。
力が抜けた真衣香の手。
その指を、自分の指と絡めながら握りしめた。
感じる体温が、泣きそうなほどに暖かい。
視界が滲んでしまいそうだ、と真衣香は目を閉じた。
(見下されてると思ってたんだ、私)
マイナス思考にもほどがあると思う。
けれど、こうして坪井に何度も励ましてもらっても卑屈な気持ちが消えないくらいに長く自分以外の社内の……全ての人が、真衣香のことを陰でバカにしているのだと、考えていた。
考えれば考えるほどに下を向いて、仕事をした。
実際聞こえてきた声は、遠回しにそう言っていた声だったのだし。
きっと真衣香に限らずとも人間は自信がなければ、ほんの一部の声だとしても。
それが全てになって弱い心を支配してしまうものなんじゃないだろうか。
持とうと努力する自信を握りつぶすように……だ。
だから闘う勇気や抜け出す努力の方法、全部放棄して聞こえないふりをして。
真衣香は総務の仕事をこなしていた。
『このご時世、こんな理由で仕事を手放すなんて』
きっと世間一般の声はそれで間違いないだろう。真衣香自身も思ってきたからだ。
そんな生活は真衣香の持って生まれた性格にも影響を与えたように思う。
(社会人になったら、もっと自然に自分に自信が持てたりしないかって漠然と思ってたんだよね)
仕事をこなし日々を生き、追われる中で。
大人になっていけるんじゃないかと。
そうすれば自然と、人前で話すのが苦手だなんて子供みたいな苦手意識も消えて。
優里や、まわりの女の子たちみたいにキラキラと綺麗に輝いて。
素敵な彼氏ができて、それなりの女になれるんじゃないかって。
(ほんと、冴えない上に浅はか)
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