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好きです、なんて。
柄にもないね。
レオヴィル 戯れ
は、と湿った息が漏れる。高まっていく快楽に抗うように、首に回した手に力を込めた。花が落ちるように自然に、彼は痕を残す。付けないでと散々言っているのに、何時も聞いてはくれない。
肩元に噛み跡が1つ、そして、右太腿にキスマークが3つ。決まってこの組み合わせ。拘りがあるようには見えないが、何時でもこの位置、この量だった。
「…ヴィル、」
行為中、彼は幼子のように名を呼ぶ。存在を確かめているのか、或いは縋っているのか分からないが、優しい響きがどうしようもなく好きだった。
全部を受け入れたいと、ここまで感じるのは。後にも先にもきっと彼だけだ。
「ヴィル、…ヴィル」
するりと肌を伝う手付きが驚く程優しくて、溶けてしまいそうになる。来る絶頂を感じて、ヴィルは躰に力を込めた。
「上がったわ」
「…おう」
事後の風呂は決まってヴィルが先だ。保湿やケアで時間が掛かり、後だとレオナをイラつかせるからだ。ヴィルと入れ替わりで、レオナは風呂に赴く。すれ違いざまに口付けを落とし、何事も無かった様に部屋を出た。
1人になった部屋で、ヴィルは部屋の片付けをする。皺になったシーツを剥がし、散らかした己やレオナの服を畳んでいく。この時間がヴィルは嫌いではなかったし、ラギーにも礼を言われる事が多い。レオナはどうしようもなくだらしないと受け取られがちだが、実際はそんなことも無い。ヴィルは知っている。凛と、或いは精錬としたレオナを。そう、ヴィルの入学式の時の彼は、確かに背筋が伸びていたような気がする。それも、気の所為かもしれないが。
ドア元で音がし、視線を動かす。そこには髪もろくに拭いていないレオナの姿があった。
「アタシがケアしてあげるとは言ったけど…髪くらい拭いてきなさいよ」
「いいじゃねぇか、お前がやれ」
「はいはい」
駄々っ子顔負けの態度に可笑しくなり、くすりと微笑む。屈んだ彼の髪を念入りに拭き、馴染ませるようにオイルを塗りこんでいく。枝毛はカットし、長さもある程度整える。毛量が多いためパックは諦めた。
「次、顔」
「ア”?顔?ベタベタするからヤ」
「駄目。早く」
「…好きにしろ」
化粧水、乳液、パック。ヴィルに負けずとも劣らないその顔に塗り込んでいく。ヴィルはこの時間が至福であった。
ヴィルは、仕事でなかなか時間がとれない。忙しくあちこちを走り回っているし、学園にいたとしても寮長の仕事が忙しい。レオナと学園で過ごす時間は、本当に些細なものだった。だからこそ、そこに全霊を使いたかったし、精一杯癒されたかった。それくらい、レオナが大切だった。
「…好きです、キングスカラー先輩…」
「なに?」
「いや、お前の告白」
「本当になに?揶揄ってるの?」
「違ぇよ。……デカく、なったなって」
身長の話だろうか。確かに、あの頃より随分伸びただろう。急な発言に、ヴィルは首を傾げた。
「…懐かしいな」
呟いたレオナの表情が驚く程穏やかで、言葉の真意を察する。ふ、と含み笑いを零して、ヴィルは答えた。
「そうね。…懐かしくなるくらい、月日が経ったのね」
まだまだ未熟だった頃の自分は、レオナのだらしなさを知って落胆した。自分勝手な理想の元しか相手を見られなかった。それが、こんなにも愛しい存在になるだなんて。成長した、とは、レオナ精一杯の褒め言葉なのだろう。
「終わったわ。お疲れ様」
「お疲れしたのはお前だろ」
「あら、そんなことも無いわよ」
アタシはレオナが大好きだから、苦じゃないのよ。
付け加えた言葉に、レオナは顔を背けた。
「寝ましょうか」
敷き直したシーツに2人で寝転ぶ。照明の落ちた部屋では月明かりだけがお互いを照らしていた。ヴィルの華奢な躰を守るように、レオナが腕で包み込む。ヴィルの乳白色と、レオナの緇が混じり合う。まるで色を分かち合うように。
「おやすみなさい、レオナ」
「…おう」
短い返事の後、ヴィルの額に口付けを落とす。温かさに包まれて、ヴィルは眠りに落ちた。