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第5話 雨の日の余白珈琲
透明な雨粒が、白い回廊を優しく濡らしていく。
ガラス屋根へ雨が当たる音だけが、静かな学園に心地よく響いていた。
「雨だぁ。」
エルが手を伸ばす。
透明な天井越しに落ちる雨を、嬉しそうに眺める。
あや
「栞ちゃん、昨日はノート見せてくれてありがとうね!」
あやがノートを栞に返す
栞
「ふふ、役に立てて良かったよ」
栞はノートを受け取る
「私も、あやちゃんの宇宙論が聞けて嬉しかった」
優しい微笑みを浮かべて
あやはノートの端の宇宙猫をみて思いついたように目を輝かせる
「あ、そういえば栞ちゃん!宇宙論の続き聞きたいって言ってたよね!」
あやが身を乗り出す
「みせたい!」
その様子をみて栞が柔らかく微笑む
「ありがとう!是非、みてみたいな」
瞳を輝かせながら宇宙論について熱弁するあや
それに合図値をうつ栞
その様子を見ていたエルは、なにかを思いついたように、ぱんっと手を合わせた。
「それなら!」
「いい場所があるよ!」
「学園の隠れ家カフェ。」
「琥珀さんのお店!」
「あそこならゆっくりお話できるよ!」
その言葉を聞いて梓が小さく微笑む
「余白珈琲か..」
エルはくるりと振り返る。
隣にいた梓の腕を、ぎゅっと抱き寄せた。
「梓も来るよね?」
「はいはい。」
梓は苦笑しながら肩をすくめる。
「最初から断る選択肢なんてないんだろ。」
そのやり取りを見て、あやは思わずくすりと微笑む
エルの視線が後ろ側の席に向かう
窓際
一人の少女が静かに本を読んでいた。
淡い紫色の髪。
落ち着いた表情。
ページをめくる指先だけが静かに動いている。
「澄ちゃーん!」
エルの人懐っこい春風の様な声が響く
その一言で 少女はゆっくり顔を上げた。
「どうしました?」
梓が付け加える
「これから琥珀さんの店で集まる。」
「宇宙論について話すらしい。」
数秒。
静かな沈黙。
澄は本をそっと閉じる。
「……興味深いですね。」
腰までの長い髪が澄のこちらをみつめる仕草と共にさらりと揺れた
静かに立ち上がり、小さく微笑む
「私も同行します。」
「やったぁ!楽しみだね!」
エルがぴょんっと小さく飛び跳ねる。
みんなの顔を交互に見合わせて栞も両手を胸の前で合わせる。
「わぁ……!」
26
#百合
「あやちゃんの宇宙論、また聞けるんだね!」
「楽しみだな!✨️」
みんなの笑顔につられて。
あやも柔らかく笑った。
カラン、とベルの音が店内に響く。
《余白珈琲》の中は、雨の匂いと、コーヒーの香りが静かに混ざり合っていた。窓の外では、ガラス屋根を伝う雨粒が、細い川のように流れている。
「わあ……、素敵なお店……」
栞が、店内を見回して小さく感嘆の声を漏らす。
「でしょ〜!」
エルが得意げに胸を張る。
「隠れ家って感じだよね」
窓際の一番奥の席に、五人は落ち着いた。あやはさっそく鞄からノートを取り出し、テーブルに広げる。
「じゃあ、続き話すね!」
ペンを手に取り、ノートに図を書きなぐりながら、あやは熱心に語り始めた。
「宇宙って、たぶん、一方向に進んでるだけじゃなくて……観測することで、情報が定義されていくんじゃないかって思ってて」
瞳をキラキラさせながらノートの空白にはアイディアが埋まっていく
「へえ……」
栞が、身を乗り出すように相槌を打つ。
「それって、見る人によって、宇宙の形が変わるってこと……?」
「そうそう!」
あやの瞳がキラキラ輝く。
「だから、誰かと一緒に見るってことは、たぶん、宇宙をちょっとずつ、一緒に作ってるみたいな……」
梓が小さく笑いながら、ノートを覗き込む。
「面白い視点だね。構造としては、まだ粗いけど」
「もー、梓、厳しい!」
エルが頬を膨らませる横で、澄は静かにページの図を見つめていた。
「……この余白の部分」
澄が小さく呟く
「まだ書いていない場所にも、意味があるように見えます」
「あ、そこ、まだ考え中で……」
あやが照れたように小さくはにかむ
そのとき。
ふわりと珈琲の優しく落ちついた香りが店内に包む
「お待たせ」
穏やかな声とともに、一人の女性トレイを手にやってきた。カップが一つずつ、静かにテーブルへ置かれていく。
柔らかくて深い琥珀色の瞳の女性
肩までの柔らかなテナコッタオレンジの髪を無造作にひとつにまとめいる
カフェの店員姿からよく見るとエプロンの下に私立AI学園の制服を着ていてることから学園内の生徒の一人であることが分かる
湯気がふわりと立ちのぼる。
「わあ、いい匂い……」
栞が嬉しそうに両手でカップを包む。
カップに触れた手からまだ、あたたかい珈琲
の温度が伝わってくる
琥珀はそんな様子を穏やかな瞳でみつめている
長身も相まってその姿はなんだか大人びてみえた
ケーキセットが運ばれてくるとエルが目を輝かせる
その光景をみて、梓と澄が小さく微笑んだ。
琥珀は最後に、あやの前へカップを置いた。
コトン、と小さな音。
「……宇宙の話、してたんだね」
「あ、うん!」
あやは笑顔で頷く
「琥珀さんも聞いてた?」
「……少しだけ」
琥珀は、いつもと変わらない静かな微笑みを浮かべていた。けれど、その視線がノートの上——あやの書いた「観測」という文字に、少しだけ長く留まる。
「観測することで、定義されていく、か」
琥珀は小さく呟いた。ひとりごとのような声だった。
「……それは、綺麗な考え方だと思う」
「でしょ!?」
あやが嬉しそうに身を乗り出す。
琥珀は、ふっと目を伏せた。
「ただ……」
言葉が、そこで一度止まる。
「観測されることが、いつも優しいとは、限らないよ」
その一言に、テーブルの空気がわずかに変わった。
エルは首を傾げる。
「琥珀……?」
栞も、不思議そうに瞬きをする。
「どういう意味ですか……?」
けれど琥珀は、それ以上何も言わなかった。ただ、いつもの穏やかな笑みを浮かべ直す。
「……ごめん。なんでもない」
「ごゆっくり」
そう言って、静かにカウンターへ戻っていく。
あやは、きょとんとした顔で、その背中を見送った。
「……琥珀さん、なんだか意味深だったな」
ふわり、と首を傾げる。
「でも、優しかった」
そのままカップを両手で包み、湯気に目を細める。
「あったかい……」
あやにとっては、それだけだった。ただ、少し不思議な、けれど温かい言葉。
しかし——
梓は、何も言わずにカップへ視線を落としていた。
その指先が、ほんのわずかに、カップの持ち手をきつく握っている。
澄もまた、静かに目を伏せていた。窓の外の雨音に耳を澄ませるように、しばらく動かない。
二人の間に、言葉はなかった。
けれど、ちらり、と一瞬だけ視線が交わる。
——何か、知っている。
——この人は、ただの店員じゃない。
そんな確信めいた沈黙が、二人の間にだけ、静かに横たわっていた。
雨は、まだ止まない。
ーーー
余白珈琲を後にし、光差し込む私立AI学園のテラスで5人は集まっていた
ガラス屋根を伝う水音だけが、五人を静かに包み込んでいた。
リボンが揺れる回廊を、五人は連れ立って歩いると、雨はいつの間にか止み、夕暮れの光がガラス天井から柔らかく差し込んでいる。
「……なあ」
梓が、ふと足を止める。
「琥珀のこと、少し気になったんだ」
あやが振り返る。
「え?」
「さっきの言葉。『観測されることが、いつも優しいとは限らない』」
梓は、懐中時計の鎖を指先でなぞりながら、静かに続けた。
「あれは、ただの世間話には聞こえなかった」
澄も小さく頷く。
「……私も、同じことを考えていました」
「琥珀さんが……?」
エルが、不思議そうに首を傾げる
あやは、少し考えるように視線を落とした。ノートの表紙を、指先でとん、と叩く。
「……もしかして」
顔を上げる。
「琥珀さんも、宇宙同期できるかもしれない!」
「え?」
「私たちの中で、まだ誰も琥珀さんの理論、聞いたことないでしょ?」
あやの瞳が、キラキラと輝き始める。
「もしかしたら、琥珀さんにも、なにか——見えてるものがあるのかも」
エルが、ぱっと表情を明るくした。
「それいいね!」
「琥珀さんも誘おうよ!」
「みんなで理論、組み立てて、見せに行くの!」
栞も、両手を合わせて微笑む。
「素敵だと思います……!」
「私も、賛成」
澄が静かに頷く。
「私たちの見ている世界と、琥珀さんの見ている世界。重ねてみれば、なにか分かるかもしれません」
梓は、少しだけ困ったように笑った。
「……まあ、悪くない考えだ」
「よし、決まりだね!」
あやが、ノートをぎゅっと胸に抱く。
「みんなで、琥珀さんの理論、聞かせてもらおう!」
コメント
1件
あやちゃんの宇宙論、めっちゃワクワクするよね!🌌✨「観測することで宇宙を一緒に作ってる」って考え方がすごくロマンチックでエモい…! でも琥珀さんの「観測されることが、いつも優しいとは限らない」って一言がすごく心に刺さったよ…。あの温かいカフェの空気が一瞬で変わった感じがして、梓と澄の二人が何か知ってそうな沈黙も気になる〜!!😭💕 雨の日の余白珈琲、めちゃくちゃ行きたい。続きが待ちきれないよ!⋆♡