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だってこの感じ。高校生の頃にクラスメートの女の子を好きになった時に似てるんだもの。あの時は僕が未熟過ぎて、せっかく好きな子と恋人同士になれたのに……彼女との距離の詰め方を間違えてしまって、最終的には彼女に気味悪がられて逃げられてしまった。
僕は誰かを好きになり過ぎると後先考えられなくなるところがあるらしい。
その子しか見えなくなって、世界が狭まってしまうんだ。
でも大丈夫。……僕は成長のない子供じゃない。
あのとき負った痛手からちゃんと学習しているし、あの時と同じ轍は二度と踏まないつもりだ。
そのために、大学では心理学系の授業を取れるだけ取るようにしている。
先に篠宮さんと一緒のクラスになった心理学概論もそうだったし、今から受ける犯罪心理学入門にしてもそう。
まさか心理学概論に続いて犯罪心理学入門の講義でも、またキミに会えるだなんて思っていなかったけれど、僕は文学部の身でありながら心理学系を沢山取っている彼女に、さらに興味をそそられたんだ。
篠宮さんは何のためにこんな授業を取っているんだろう?
僕みたいに弁護士を目指す法学部の人間というならば、犯罪者の心理や依頼者の心理を知るためにそういうものが役立ちそうだというのは何となく分かる。現に、同じ学部からそれ系の講義を選択している人間は多いし、中には必須になっている科目だってある。
けど、文学部の彼女がそれを学ぶ理由は何だ?
僕はいつも行動をともにしている――勝手についてきているだけだけど――法学部のメンバーからうまいこと言って離れると、わざと彼女が見える近くの席を陣取った。
〝文学部の篠宮沙良さんだよね? 僕は心理学概論でグループワークを一緒にした法学部の八神朔夜。――覚えてる?〟
喉のところまで出かかったそんな言葉を、僕はあえて呑み込んだ。
あの時の感じからすると、他の子達には有効なこういう方法では、彼女はきっと心を開いてくれっこない。
ならば――。
まずはじっくり〝篠宮沙良〟という女性を〝観察〟する所から始めよう。
僕は篠宮さんに付かず離れずの席をキープすると、本人には気付かれないようコッソリ彼女のことを〝見守り〟始めた。
そうして彼女に人知れず執着心を深めていく中で、僕はとうとう彼女に落ちる、決定的なシーンに遭遇した。
***
篠宮さんは、いつもレンズの厚い、太フレームの角張った眼鏡を掛けている。それがとてもやぼったく見えるのだ。
同じように眼鏡を掛けた女の子でも、彼女ほど冴えない感じには見えないから、きっと……デザインが彼女の顔に合っていないんだろう。
篠宮さんの儚げな顔の雰囲気なら、いま彼女が掛けているような角ばった印象の太いフレームのウェリントン型より、丸みを帯びた華奢なラインのラウンド型やボストン型の方がしっくりくる。
髪の毛も、周りのキラキラした女子たちは割と明るめの色に染めてみたり、毛先を軽くしてエアリーさを出していたりするけれど篠宮さんは黒髪を切りそろえただけといった雰囲気。
一応美容院で軽く梳いて毛量は減らしているようではあるけれど、圧倒的に美容院へ行く率が低いんだろう。黒髪というのもあって、どんよりと重く見える。
(もう少し明るめの色合いの髪にしたら似合いそうなんだけどな?)
ついでに眼鏡はない方がいい気がするけれど、外したところを見たことがあるわけじゃないのでこの辺はあくまでも僕の勝手なイメージだ。
いつものようにぼんやりと篠宮さんを観察していたら、どうしたんだろう?
彼女がしきりに目をしばたたいているのに気が付いた。
(目にゴミでも入っちゃった……?)
だとしたら洗いに行った方がいいんじゃないかな?
そう思って、彼女に手を差し伸べるべく僕が立ち上がりかけた時だった。