「ちょっと、エトワール様、レイ卿とはどういう関係なんですか!」
「お姉様、アルベド様とはどういう関係なのですか!」
「ふ、二人とも落ち着いて。後、凄く近い」
アルベドが去って、私は何度も何度も彼女たちに呼びかけられたが気づかずにいると、今度は私の所まで来て、先ほどの事や、アルベドとの関係についてしつこく質問された。その目は怒りと不満で一杯で、私とアルベドの間に何もないですようにと祈っているようだった。
私だって、何にもないつもりだが、アルベドが毎回のようにあんなことをしてくるため、私はどうしたら良いのか分からなくなってしまっているのだ。いつも不意打ちで。酷い話だ。やられるこっちのみにもなって欲しい。
「それに、レイ卿あまりにもエトワール様に馴れ馴れしかったですが、エトワール様は許しているんですか?」
「ゆ、許しているというか、彼奴出会った時からあんな感じだし……もう慣れたというか。ああ、でも全然さっきみたいなのは慣れてないしやめて欲しいし、会うたびやることがエスカレートしていっているような気がして」
と、私がアルバに言うと、何てことだとアルバは頭を抑えて首を横に振った。
そうして、何かを決心したかのように私の両手を掴んで目に炎を浮べたようにメラメラとしたオーラを放ってアルバは言う。
「エトワール様が命じてくれれば、例え公子であろうと私は彼の首を落としに行きます」
「ちょっと、それは過激かな……それに、そんな命令アルバに出せないよ」
私がそう返してもアルバは納得がいかないというように私の両手をギュッと掴んでいた。相変わらず過激で、私のこと大好きだなあと感心しつつ、トワイライトはふて腐れているのか、頬を膨らまして俯いていた。
「トワイライト? ど、どうしたの?」
「だって、お姉様にアルベド様がき、キスをしていたので。キスをしたら子供が出来るのでは無いんですか?」
「ん?」
「違うんですか?」
全く予想もしなかった言葉がふってきたため、私は一瞬焦ってしまったが、それはそれとして子供が親に聞かされるような嘘を信じているトワイライトが可愛く思えてしまった。私がキュンと彼女の言葉にうたれていると、トワイライトは本当に悲しそうな表情になった為、私はこのままでいけないと説明しようと思った。
でも、どう説明すればいいのか分からない。私だって、キスしたことないし、最近はされるというか、手の甲か髪か、アルベドは頬にしたけど自分からはしたことがない。キスをしたら子供が出来るなら、皆とっくに出来ているのでは無いだろうかと私は思う。コウノトリが赤ちゃんを運んでくると一緒の話だと私は思うがこれも通じるか分からない。
そんな感じに私が何て説明するべきか迷っていると、トワイライトはさらに続けた。
「私が、お姉様にキスしてもお姉様との子供を身ごもれるわけでも、お姉様が身ごもることが出来るわけでも無いじゃないですか。でも、私だってお姉様とキスしたいです」
「えぇ……」
「それなのに、私の方がお姉様を思っているというのに、私の目の前で……」
と、ヤンデレモードに入ったようにトワイライトはブツブツと言い始めた。
私のこと身ごもりたいとか、身ごもって欲しいとか彼女も彼女で頭のねじが何本か抜けていると思いつつ、それでも可愛い妹だと許してしまう自分がいるのも事実だった。だが、彼女の言葉を聞いて、キスで子供が出来ると思っているだけで、コウノトリ云々でないことは知っているようだった。
そんな感じで、二人とも、アルベドに対してぶつくさ言っていたけど、これを彼が聞いたらどう思うだろうかと気になってしまった。どうせ、笑ってマウントを取るんだろうが、私は彼の恋人でも何でもないので、それが何の意味をなすのか分からない。
本当にからかっているだけなのかも知れないし、まさか本気というわけではないだろう。彼の表情からしてそうに違いない。
「ま、まあその……本当に、彼とのあいだには何にもないから」
「本当です!?」
「本当ですか!?」
と、二人はまえのめにになって私に聞いてきた。もう、これは拷問に近いと苦笑いを浮べつつ、私はもう一度違うと言った。
「よかった。本当に何にもないなら安心です。ですが、エトワール様が選んだお方と言うことであれば、護衛である私は何も言いません、エトワール様が幸せになれるならそれで……ですが、エトワール様を困らせるお方はまず、私を倒してからエトワール様に告白して欲しいですね」
「まず、そこなんだ……」
「ダメです。お姉様は私のものなので、お嫁に行ったりしないで下さい!」
「と、トワイライトも」
トワイライトは私に抱きついてきて、行かないでというように純白の瞳を潤ませた。その仕草に表情にまたうたれるが、私だってお嫁に行きたいとか願望がないので、望んだ形ではないかも知れないが、トワイライトの容貌は応えられそうだと思った。
アルバもアルバで、エトワール様に見合う男か見定めるために決闘を申し込むとか言っているし、本当に二人らしいと思った。この二人がいる以上、攻略は上手く進まないだ漏斗も思ってしまった。
それは置いておいて、私はトワイライトに好きな人はいないのかどうか尋ねてみた。彼女はきょとんと首を傾げて、何故その雇用な事を聞くのかと疑問視かないと言った表情で私を見つめてきた。
「トワイライトだって、好きな人が出来たらその人と幸せになりたいって思うんじゃない?」
「私は、お姉様一筋だって前も言いました。撤回はしません」
「ええ、でも……いい人一杯いるじゃん」
「お姉様以上にいい人なんているわけ無いです!」
と、私の言葉を全部無視して、私がいいとトワイライトは言い張った。
ヒロインがこれでいいのかと思いたいが、彼女も一度こうと言い出したら聞かないタイプな事はここ数日で分かったので、これ以上聞かないことにした。トワイライトも怒ったら怖いと思ったし、何より、誰かと結ばれたら私もちょっぴり悲しいから。
そんな風に思っていると、坂の上から一人のメイドが降りてきた。
「エトワール様!」
「リュシオル!」
それは、水色の髪のメイドでわたしの親友であるリュシオルで、遅いとでも言うように息を切らしながら私の方に走ってきた。
「もう、何処まで行っていたの」
「え、えっと城下町をプラプラと……」
「それにしても、時間がかかりすぎじゃない? もう日も沈んでいるし、夕食の準備も……何か、あったの?」
「そ、それは……ま、まあ後で話すから、取り敢えず聖女殿の方に戻りたいな。疲れちゃって」
私は上手いこと誤魔化そうとしたが、彼女に嘘は通じないことを思い出し、リュシオルが私の顔を見てか、少し香る磯の匂いに気づいてか知らないが私達がただ城下町をプラプラと歩いていたわけじゃないことを察して、私達に背を向けた。
「夕食の準備は出来ていますので、エトワール様、トワイライト様お疲れだと思いますが、もう少しだけ歩けますでしょうか」
「は、はい、私は大丈夫です」
トワイライトはそう返事をして私をちらりと見た。私もコクリと頷いてリュシオルの後に続いた。
「エトワール様、私は寄宿舎の方に戻るのでここで」
「うん、今日はありがとう。またね」
「はい、よい夢を」
と、アルバは私達とは反対方向に歩いて行ってしまった。今日は、色々と助けてもらったから、彼女にはゆっくりと休んで欲しいと思った。
そうして、坂を少し歩いたところで、私はふと彼のことを思い出し足を止めた。
それは、亜麻色の髪の元護衛騎士の彼がいないと言うことだ。一緒に転移してきたことは覚えている。だが、アルベドと会話している最中に何処かに行ってしまったのだ。
「お姉様、どうしたんですか?」
「ごめん、先行ってて、ちょっと落し物しちゃって」
「私も一緒に探しましょうか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう、すぐに追いかけるから待ってて。それで一緒にご飯食べよう?」
「はい、ではお待ちしていますね」
と、トワイライトは返事をしてリュシオルの後に続いていった。
落し物など嘘で、私はグランツを探す為に彼と一番最初に出会ったところに向かうことにした。何故だかそこにいる気がしたから。
(いくら何でも可笑しすぎるのよ。トワイライトの護衛だって言うのに何もなしにいっちゃうだなんて……)
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