コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
廊下の窓から見える街の灯りが、床に淡く反射して揺れている。
隣には、葵がいた。
手を、しっかりと握っている。まるで、もう二度と離れないと誓うみたいに。
階段を上るたびに、胸の奥で何かがじんわりと広がっていく。
懐かしさ、切なさ、そして……覚悟。
一歩ごとに、過ごしてきた日々の記憶が胸をよぎった。
――初めて話した放課後。
――一緒に本を読みながら、笑い合った時間。
――文化祭で手をつないだあの瞬間。
――誰にも言えない気持ちを、二人だけで抱きしめた日々。
どれも全部、確かにあった。
誰に否定されても、消えることなんてない。
だけど……この先に未来は、なかった。
葵:「ねぇ、凛」
葵の声が、夜に溶けて響く。
凛:「……なに?」
葵:「もし、生まれ変わっても……また、凛に会いたい」
その言葉に、胸が熱くなった。
気づけば、葵の手をぎゅっと握りしめていた。
凛:「私も……絶対に、また葵に会いたい」
葵:「約束だよ」
凛:「……うん。約束」
最後の階段を上りきると、屋上への扉が目の前に現れた。
冷たい金属の扉を押し開けると、夜の空気が一気に流れ込んでくる。
ひんやりとした風が頬を撫で、髪を揺らした。
夜空は、驚くほど澄んでいた。
星が、まるで二人を見つめるように瞬いている。
街の喧騒は遠く、ここだけが別の世界みたいに静かだった。
葵:「……きれい」
葵がぽつりと呟く。
凛:「うん……ねぇ、葵」
葵:「なに?」
凛:「……怖い?」
葵は少しだけ黙って、そして小さく笑った。
その笑顔があまりに綺麗で、涙が出そうになる。
葵:「……怖いよ。でも……凛と一緒なら、大丈夫」
凛:「……私も。葵がいるなら、何も怖くない」
胸の奥に溜め込んできた想いが、少しずつ溢れ始める。
親の期待、周りの視線、噂、いじめ……全部、私たちを少しずつ追い詰めていった。
それでも、ここまで来られたのは――葵がいたからだ。
凛:「……ずっと、いっしょにいたかったなぁ」
震える声でそう言った瞬間、葵の瞳が潤んで、大きく見開かれた。
次の瞬間、彼女は勢いよく私を抱きしめる。
葵:「私も……ずっと、ずっと、凛と一緒にいたい……! 何があっても、凛といっしょに……っ!」
葵:「…でも!私は、傷つく凛を見るのは、もう、いや、だ」
涙と嗚咽が混ざって、二人でぐちゃぐちゃになりながら抱きしめ合う。
夜風の中、鼓動が重なって響いていた。
――きっと、今までで一番、心が近い。
顔を上げると、葵と目が合った。
涙で濡れたその瞳は、悲しみと愛しさと、全部が詰まっていて……一瞬で引き込まれた。
葵:「……凛」
凛:「……葵」
互いの距離が、ゆっくりと、でも確かに近づいていく。
夜空と街の光が二人を包む中、唇が触れ合った。
あたたかくて、少し震えてて……でも、どんな言葉よりもまっすぐに、気持ちが伝わるキスだった。
長いようで短い、たった一瞬。
唇が離れても、葵の手の温もりはしっかりと私の指をつかんでいる。
葵:「次は認められたいなぁ」
葵:「私の自慢の恋人だよって、みんなに自慢するんだ、!」
凛:「うん、!」
葵:「……行こっか」
凛:「……うん」
手を繋ぎ、二人で屋上の端へと歩みを進める。
風が吹き抜け、制服の裾が揺れる。
もう迷いはなかった。私たちは、お互いを選んだから。
葵:「手紙とか、置いとく?」
凛:「…誰に向けてよ、一番大切で好きな人は隣にいるのに」
最後に見つめ合い、小さく笑い合う。
葵:「来世でも……きっとまた、ここで」
凛:「うん。約束――」
――静かに、二人で。
夜空と街の灯りが、二人を包み込んだ。