都内にある若井の自宅は、いつもと変わらない空気を纏っていた。
使い込まれたギターアンプ、雑多に積み上げられたCDや雑誌、そして何より、どこかホッと落ち着く、滉斗自身の匂い。
幾度となく訪れたこの場所は、大森元貴にとって第二の家のようなものだった。
テーブルの上には、コンビニで買ってきたスナック菓子と、飲みかけの缶ビール。
スピーカーからは、洋楽のゆるいインストゥルメンタルが流れている。
いつもの宅飲みの光景。十数年来の幼馴染であり、同じバンドのメンバーとして、毎日顔を合わせるのが当たり前になっていた。
「ね、若井」
元貴が、頬杖をついてぼんやりと天井を見上げながら呟いた。少しだけ潤んだ瞳は、ビールのせいか、それとも他の何かのせいか。
「ん? なに、元貴」
滉斗は、慣れた手つきでポテトチップスを皿に移しながら、優しい声で応じる。その声のトーンが、元貴の心をいつも穏やかにする。
「俺さ、最近思うんだよね。このままでいいのかな、って」
突然の真剣な問いかけに、滉斗は手を止めて元貴を見る。その瞳には、いつものお調子者な元貴には珍しい、微かな不安の色が揺れていた。
「ミセスのこと? それとも、恋愛とか?」
滉斗は敢えて軽く問いかけたが、元貴は苦笑して首を振った。
「どっちも、かな。いや、ミセスは、まあ……頑張るしかないんだけどさ。恋愛、ね。俺、なんか最近うまくいかなくて。っていうか、うまくいったことないんだよな、結局」
元貴はグラスに残ったビールを煽り、深く息を吐いた。
「いつも、なんか違うって思っちゃう。頑張って好きになろうとするんだけど、気づいたらまた一人で、みたいな。若井はさ、どうなの?」
問われた滉斗は、一瞬言葉に詰まった。
特に、彼が今感じている「好き」という感情が、あまりにも元貴自身に向いているから。
「俺は……まあ、ぼちぼち、かな」
曖昧な返答に、元貴は不満げにアヒルみたいな口を尖らせる。
「なんだよ、ぼちぼちって。もしかして、今好きな人いるの? え、誰? 教えてよ!」
好奇心いっぱいの瞳で覗き込まれ、滉斗は思わず視線を逸らした。
顔が熱くなるのを感じる。
こんなにもストレートに、自分の心を抉るような質問をされると、隠しきれない衝動が胸の奥から湧き上がってくる。
「べ、別にいないよ。元貴こそ、最近連絡取ってる子とかは?」
話題を逸らそうとすればするほど、元貴は面白がって追及してくる。
それがいつもの彼で、滉斗はそんな元貴の子供っぽい部分も、愛おしく思っていた。
「いないってば! マジでいないの! だから、こうして若井に寂しがり屋モード発動させてるんでしょーが」
元貴はそう言って、滉斗の腕に頭を擦り寄せてきた。
体温が、シャツ越しにじんわりと伝わってくる。
いつもの甘えん坊な仕草。
けれど、今の滉斗にとっては、その一つ一つが胸を締め付けるように切ない。
(ああ、俺は、いつからこんな風に、元貴のことを見てたんだろうな)
滉斗は、元貴の柔らかな髪の毛にそっと指を滑らせた。
友人の枠を、とっくに飛び越えてしまった感情。
気づいていないのは、きっと元貴だけだ。彼の頭上から、そっと息を吐き出す。
少しだけ、いつもより甘い匂いがした。元貴が最近使い始めたシャンプーだろうか。その匂いも、今の滉斗には抗いがたい誘惑のように感じられた。
その日の夜は結局、恋愛の話はそれ以上深まらなかった。
翌日から、二人の関係には目に見えない変化があった。
スタジオで、リハーサル中に元貴が歌いながら滉斗と目が合う回数が増えた。
休憩中、元貴が当たり前のように隣に座って水を飲むようになった。
ほんの些細なこと。でもそれまで当たり前だったはずの距離が、一歩ずつ縮まっていくような感覚がむず痒い。
ある日の深夜、またしても滉斗の部屋で二人きり。
バンドの打ち合わせが長引き、解散した後も、結局いつものように滉斗の部屋に流れ着いた。
飲み交わす酒の量は、いつもより多かったかもしれない。
「てかさ、若井ってマジで彼女いないの?」
元貴が、頬を赤く染めて尋ねた。呂律が少しだけ怪しい。
「だから〜、いないって!」
滉斗は苦笑しながら答える。元貴がここまで酔うのは珍しい。
普段は完璧主義者で、自己管理もしっかりしている彼が、
こうして無防備に酔いつぶれる姿は、滉斗にだけ見せる特別な一面だったりするのだろうか。
「ふぅん……。だってさ、若井って意外とそういうの詳しいじゃん?」
元貴はニヤニヤしながら、からかうように滉斗を見た。滉斗の心臓が、ドクリと跳ねる。
「……何が詳しいんだよ」
滉斗は努めて冷静を装ったが、声が少しだけ上ずる。
「だって、なんかエロい話とかになると、若井の方が詳しかったもん。
え、もしかして風俗とか行ったことあんの? マジで?」
元貴の瞳が、興味津々といった様子でキラキラと輝く。滉斗は、観念してため息をついた。
「別に、経験があるとかないとかじゃなくてさ。そういうの、単純に興味があるっていうか……。まあ、男なら誰だって、そういう衝動はあるだろ」
言葉を選びながらそう言うと、元貴は「ああー」と納得したような顔をした。
「衝動、ねえ…。俺にもあるよ、そりゃ。まぁ一人で解決してるけどさ」
その言葉に、滉斗の全身に電気が走ったような衝撃が走った。
元貴の口から、まさかそんな言葉が出るとは思っていなかった。
元貴は、どこかロマンチックな恋愛を夢見ていて、そんな現実的な話をする姿は想像もしていなかったから。
「……元貴も、するの?」
思わず、そう聞き返していた。声が、ひどく掠れている。
「するよ、当たり前じゃん。男だし。若井はしないの?」
元貴は、何の気なしにそう問いかけてくる。その無邪気さが、滉斗の理性を蝕んでいく。
「……するよ。そりゃ」
「どんな感じ? 俺はさ、好きな曲聴きながらとか、そういうパターン多いんだけど。ギターでフレーズ作って、ちょっと溜まったな、って時にギター置いて、そのまま……」
元貴は、何とも言えない表情で言葉を濁した。その仕草が、妙に生々しく、滉斗の脳裏に刺激的な想像を掻き立てる。元貴がギターを置いて、その白い指が、彼の秘部に触れる瞬間。
「……元貴の、そういう話、初めて聞いた」
滉斗は、乾いた唇を舐めた。視線が、元貴の潤んだ唇に吸い寄せられる。
「別に隠してたわけじゃないけどさ。……なんか、そういう話、男同士で盛り上がること、あんまなかったじゃん? 若井は?」
元貴は、身を乗り出して尋ねてきた。その瞳は、好奇心でいっぱいの子供のようだ。けれど、その視線が滉斗の心の奥底を覗き込んでいるような錯覚に陥る。
「俺は……そうだな。……結構、頻繁にする方、かな。元貴みたいに、音楽と結びつけてとかは、あんまりないけど。
ただ、その、溜まっちゃうと、どうしようもなくて……」
滉斗は、少し恥ずかしそうに言葉を続けた。普段は決して口にしないような、個人的な、そして性的な話題。それが、酔いの勢いもあって、止めどなく溢れ出てくる。
「へぇ……意外。若井って、もっと淡白なのかと思ってた」
元貴は目を丸くして、それからくすりと笑った。
「意外でもないだろ。男なんて、みんなそんなもんだって」
そう言いながら、滉斗は元貴の顔をじっと見つめた。
その笑った顔が、あまりにも愛おしくて、今すぐにでも触れたくて、たまらなくなる。
「んー……でも、俺は若井みたいに頻繁にはしないな。なんか、あんまりそういう気分にならないっていうか……。結局、本番がいいなって思っちゃうし」
元貴は、何気なくそう言った。その言葉が、滉斗の脳裏に、ある確信を呼び起こした。
女性としか経験がないと言っていた元貴。
その繊細な性格や、感受性の豊かさから、もし、自分が思っている以上に、深い快楽を感じられる身体だったら……。
長年秘めてきた元貴への愛情と、深い性の好奇心が、滉斗の胸の奥で、熱い衝動が膨れ上がる。
「元貴……」
滉斗は、ゆっくりと元貴の顔に手を伸ばした。
彼の頬に触れる指先は、微かに震えていた。
元貴は、その温かさに驚いたように目を見開いた。
「なーに、若井?」
問いかける声は、ひどく甘く、酔いに溶けている。その無防備さに、滉斗はもう、抗えなかった。
「……俺は、元貴とだったら、きっと、本番じゃなくても、最高の気分になれると思うんだけどな」
そう囁くと同時に、滉斗は元貴の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
うおおおおおやっと出せた‼️‼️
ずっと前からちまちま書き進めてて、今日やっと出せた‼️
てか三人称視点でノベル書いたの初めてなんだけど?????大丈夫これ??書けてますかわたし
ノベルの短編集は絶対作りたいと思ってたから、やっと今回できましたこれからよろしくね︎^_^︎
ねぇほんとに語りが多くて申し訳ないんだけどさ
題名の通り酔った勢いって超絶いいよね。
まあそりゃ酔った勢いでヤったら次の日記憶ないんじゃない❓それってなんか嫌じゃない❓
みたいな人いたらマジで勘違いね???
受けは記憶なくなって攻めだけ覚えてて、「思い出させてあげるね」もいいし‼️
攻めが記憶無くして「えっと…昨日ってなんかあったっけ?」みたいなさ‼️‼️逆もまたいいよ!!!!!!!分かってくれる??これ!!!
短編集なのに早速複数話編成で申し訳ない
次回ヤりま
コメント
7件
すきぇす、、
最高です本当に👍🏻👍🏻
いや酔った勢いっていいっすよね。いやまじでいいっすよね。 大人のエロさと甘いエロさが融合するんっすよね。まじいいっすよね分かります。