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母ちゃん、最後は何か汚い物でも吐き捨てるような口調になっていた。大学の先生たちとかって言ったら相当頭のいい人たちのはずだよな。それでもそんな汚い事が起きるのか?
そうか、確かに母ちゃんの言う通りかもしれない。俺は純を直接殴ったり蹴ったりはしなかったが、あの連中と一緒にいる時はまあ、それなりに純の事いじってたしな。ほんとは気が進まなかったけど、その場のノリっていうか、そういうのに逆らうとこっちが空気読めないヤツとか言われる、それが怖かったのもあったし。
でもそうなると新しい疑問が出てきた。純の幽霊という話が出た時、母ちゃんは全然驚いた様子を見せなかった。純の自殺の事はすぐに知っていたらしいが、今度の中三連続殺人とその話の関係にいつから気づいていたんだ?
俺の問いに母ちゃんはこう答えた。
「二人目、つまり玉城由紀夫君が死んだと聞いた時よ。一人目の東孝太郎君が死んだ時も念のため警察から連絡はあったのよ。でも、その時はこんな連続殺人に発展するとはあたしも誰も思っていなかったから、単なる事故だと考えた。でも、由紀夫君がわずか数週間後に殺された。ここで偶然じゃない可能性が高いと、あたしは思ったわけ。それにあの殺され方、二人とも異常と言うか、人間の仕業とは思えないわよね。純君の幽霊かも、あたしはそう考えた。ま、なんせ商売が商売だしね、あたしの場合」
「じゃ、じゃあもう警察にはその事伝えてくれてるんだね?」
だが、思いもよらぬ事に、母ちゃんは大きく首を横に振った。
「あのね、雄二。この科学万能の世の中で、連続殺人事件の犯人は幽霊です、なんて話を警察が信じてくれると思う? こっちが精神病院にでも連れてかれるのがオチよ。仮に信じてくれたとしても、警察にどうやってあんた達を守れる?」
俺は真っ青になってソファにへたり込んでしまった。確かにそうだ。相手が幽霊じゃ警察官のピストルなんて何の役にも立たない。それどころか自衛隊の護衛が付いたって、幽霊の復讐からどうやって守る?
「じゃ、じゃあ、俺はどうなるんだ?多分次は隆平でその次が俺だろ?このまま黙って殺されるのを待つしかないのか?」
自分でも声がブルブル震えているのがはっきり分かった。俺は死ぬのか? それも悟のようにこの世の物とは思えない、むごたらしい死に方で……
だが母ちゃんは自信に満ちた顔でこう断言した。
「自分の子供をむざむざ殺される、それをボケっと見てる親がこの世にいると思う?手はとっくに打ってあるでしょ」
「手は打ってあるって……幽霊相手にどうやって俺を守るんだよ? 相手は人間じゃないんだぜ。それも信じられない不思議な力を使って人を簡単に殺せる相手なんだぜ」
「そう、相手はこの世の者ではない、超自然的な力の持ち主。それに対抗できるのは同じく超自然的な力しかない。……あんた、ここまで聞いてまだ気がつかない?」
あっ! この世の物ではない超自然的な力で、そして純の幽霊ではない何か……美紅の事か!
「じゃ、美紅が俺たちの家に来たのって……」
「そう、あたしが沖縄から呼んだのよ。沖縄のユタもある種の霊能力者。つまりこの世の物とは違う不思議な力の使い手。そして美紅はそのユタの中でも特に強力な霊能力者の家系で、あたしの母さん、つまりあんたと美紅のおばあちゃんが認めた程の素質のあるユタ。殺人鬼である幽霊と戦ってあんたを守れる人間がこの世にいるとしたら、あたしの知る限り美紅だけよ。そして美紅はあんたの実の妹。つまり琉球神道で言う、兄を霊的に守る『をなり神』でもある。あんたを純君の幽霊から守れるとしたら美紅しかいない。だからおばあちゃんに頼んで美紅を東京に呼び寄せたのよ」
「ちょ、ちょっと待てよ! じゃあ、イザイホーとか言う物がどうとか、こうとかって、あれも……」
「それはそれで嘘じゃない」
俺の言葉を遮ったのは美紅だった。相変わらず無表情な顔で、俺の方を向きながら言う。