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「でも、おばあちゃんからはこう言われた。あたしのお母さんがあたしの力を必要としている。だから東京へ行って『えけり』を守れと。だから、あたしはここへ来た」
そ、そうだったのか。母ちゃんも美紅も最初からこの事を知っていた。そしてそれから何が起こるかも予期していた。俺を純の幽霊から守るために……俺だけが何も知らずに、何も気づかずにいたなんて。
ほっとしたのか、母ちゃんの気遣いに感激したのか、その両方なのか、俺は何が何やら分からない妙な気分になって、しばらくソファに座ったまま床を見つめていた。体が段々小刻みに震え始めるのを感じた。
確かに美紅の霊能力はすごい。だけど、今までは相手が普通の人間だったから効き目があっただけで、果たして幽霊相手に、それもあんなものすごい力を持った怪物のような幽霊相手にも通じるものなのか?
いや、それ以前に俺に美紅に守ってもらう資格があるんだろうか? まだ小六のガキだった頃の事で、俺にその自覚はなかったとは言え、純を自殺にまで追いやったこの俺に、人に命がけで守ってもらう価値なんてあるのか?
そう思うと体の震えが止まらなくなってきた。震えがどんどん大きくひどくなっていく。ふと気がつくと、美紅がまたソファの後ろ、俺の背後に立って両手で俺の頭の上の空間をなで回すような動作をしていた。ああ、これは番長の住吉の息を吹き返させた時のあれだな。確か「マブイグウミ」だっけ?
そして美紅が小さく「エーファイ」とささやいて俺の両肩に両手を置いた瞬間、俺は猛烈な眠気に襲われて前のめりにソファから転がり落ちた。俺の体は何か柔らかい物に抱きとめられた。ああ、これは母ちゃんの腕だ。何年ぶりかな、母ちゃんにこんな風に抱きかかえられるなんて……
「ニーニ、今は何も考えずにゆっくり休んで」
そういう美紅の声を聞きながら、俺はその場で気絶も同然の深い、とても深い眠りに落ちて行った。