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#主人公最強
かませ犬S
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#転生
歯磨き粉
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エステルに憑依したレクトは、女子寮の――彼女の部屋で目が覚めた。
そこはひとり部屋であり、風呂やトイレ、キッチンも完備されている。
これは、身のまわりのことを自分で全てできるように……という、学院の方針である。
「……はぁ。やっと朝か……」
レクトはベッドで身体を起こし、眠い目を擦った。
ほとんど眠れなかったが――……それでも1時間は、何とか眠れただろうか。
「そういうのが一番、眠いんだよなぁ……。いっそ徹夜した方が……」
そう言いながらベッドから下り、縦鏡の前に移動する。
そこには髪をボサボサにした、眠そうな、愛くるしい女子が映っている。
パジャマは少し着崩れており、今までに見たことのない――エステルの姿だった。
「今日が休みだったら良かったのに――
……ああ、いや。早く俺の身体に触って、憑依を解除しないと……」
今日の目標はそれだ。
まずは憑依を解く。そして、エステルに謝る。
それに加えて、憑依というスキルがどんなものか……検証しなくてはいけない。
レクトは元々、剣聖を目指していた。
それは剣術を扱う、戦闘職の高み。
しかしそこに至る道は、入学直後の右足の怪我によって閉ざされてしまった。
今はその代わりに、エステルと共に冒険に出られるように――
レクトは荷物持ち……いや、ポーターを目指している。
そんな自分に、憑依スキルなんて必要ない。
そうだ。自分はエステルと共に――
「……そんな俺が、今はエステルなんだよな……」
昔から知っている幼馴染。自分の密かな想い人。
学年の中でも目立って可愛く、挫折した自分にも未だに関わってくれる存在。
……普段の関係は、何気ない会話を交わす程度の仲だ。
ただ、ふとした瞬間に……女性として、意識してしまうこともある。
「――さ、さて……。
髪でも梳かしていくか……」
鏡台の前に座り、置いてあったブラシを手に取る。
正直どうすればいいのか分からなかったが、身体を動かすままにしていると……それっぽく、整えることはできた。
やはり日々の動きは、身体が覚えているものだ。
その後、洗濯済みのシャツと制服にアイロンを掛けていく。
彼女の性格を考えれば、こういったことは夜にやっていたはずだ。
レクトは申し訳ない気持ちを抱きながら、丁寧に丁寧に、シワを伸ばしていく。
「……女子のブラウスなんて、初めてだな……」
そもそも形の違いがあるし、細かい作りが違う。
やはり服自体が女性的というか……。いや、それは当然のことなのだが――
……レクトはふと、縦鏡に視線を移した。
そこには目を少し細めた、微妙な表情のエステルがいる。
――そのエステルは、ブラウスに袖を通し、スカートを履いていく。
普段なら見るはずのない、非日常的な光景。
そんな緊張感が、鏡の中の彼女を必要以上に意識させる。
そして……そのまま吸い込まれるように、彼女の手は――
「――……ぅぐっ!?
……あぁ、あァ……っ!!?」
突然、レクトの右胸に凄まじい痛みが走った。
痛み……、痺れ……、いや、それを軽く凌駕する激痛。
「ああ……、うぅ……。
はぁ……っ、はぁ……ッ!?」
レクトは胸を押さえながら、何とかベッドにもたれ掛かり、そのまま身体を丸くする。
冷や汗が流れ、呼吸がまるで整わない。
……エステルの口から出る、苦しい声を聞いているのも辛かった。
「……な、何だ……? 今のは……?」
時間にすれば1分ほど。
既に激痛は収まり、筋肉痛のような痛みが僅かに残っているだけ。
ただ、そこでレクトは我に返った。自分が鏡を見て、何を考えていたのか――
「――いや……、俺が悪いんだな……。
きっと、俺のバカな行動を……、エステルが拒否したんだろう……」
エステルの身体で――好き勝手なことをしようとすれば、どういう理由か、胸に激痛が走る。
……レクトはベッドから起き上がり、変な意識をしないように――
変な行動に移さないように、冷静を保ちながら縦鏡の前に立った。
……大丈夫だ。激痛は走らない。
ただ、そもそも当然ながら――エステルはこの憑依を、望んでいるわけが無い。
だから今日、学院に着いたら……すぐに、憑依を解除しよう。
そして、自分の馬鹿な行動を全て謝ろう。
そのあと……レクト自身の身体に戻ったら、例えば頭でも打ち付けて、厳重な罰を与えるとしよう。
「……その前に、しっかり準備をしないとな。
エステルに恥をかかせるわけにはいかないから……」
レクトはその後も、無心になって登校の準備を進めていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
準備が全て終わると、レクトは食堂に向かった。
朝食はここで取り、そのあと昼食を受け取ってから登校する……というのが、寮で暮らす生徒のルーティンだ。
「エステル、おはよー!」
「うん、おはよう……」
「どうしたの? 眠そうじゃん!」
エステルの友達に早速つかまり、同じテーブルに座らされる。
男子寮と比べると、色鮮やかな献立。そういったところにも差を感じてしまう。
「全然、眠れなくてね……」
昨日ずっと喋っていただけあって、このふたりとは話ができるようになっていた。
エステルとして振る舞わなければいけない今、レクトにとって、ここが最も安全な場所になっているのだ。
「悩みがあるなら言ってよ。せっかく昨日、女子会もしたのに」
「今日、またやっちゃう?」
「あはは……。それは勘弁して……」
エステルの喋り方は、レクトが一番知っていた。
子供のころからずっと一緒で、好き嫌いも把握している。
エステルには申し訳ないが、全く知らない人間に憑依したと考えると――
……レクトは想像も付かず、恐ろしくなってしまった。
「――本当に眠くて……。今日はもう、休んじゃいたいよ……」
「優等生のエステルが、そこまで言っちゃうの?」
「本当だね。昨日から少しぼーっとしてるし、調子が悪いんじゃない?」
昨日の女子会を振り返ると、レクトの知らない話題がたくさん出ていた。
そんなとき、意識的に思い出そうとすれば――エステルの記憶から、情報を持ってくることができた。
ただ、他人の記憶を勝手に見るのは良くないことだ。
レクトはできるだけ誤魔化すように流していたが、端から見れば……いつもと違うことは、分かってしまう。
「……でも、今日はどうしても行かなきゃいけなくて。
だから……どうしてもダメなら、早退とかにしようかな?」
レクトの身体に触れて、そこで憑依を解除すれば――あとはエステルの判断だ。
睡眠が1時間だけだなんて、慣れていない人間にとっては耐えられない。
……実際、レクトも体調の悪さを感じていた。
「うーん? やっぱり、レクト君に用事があるの?」
「昨日も、帰り際に何か言ってたしね。文句とか言うなら、私たちも付き合うよ?」
「そういうのじゃないから、安心して!?」
エステルの友達の圧に、レクトはそう言うのが精一杯だった。
下手をすれば憑依を解除した直後に、このふたりから文句を言われてしまう。
憑依を解除するとどうなるのか――は、まだ分からない。
そのため、レクトは不安要素をできるだけ減らしておきたかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少し早めに教室に着くと、レクトの身体は見当たらなかった。
そしてそのまま授業が始まり、1限目が問題なく終わってしまう。
「――レクトはッ!?」
レクトの友達の男子に、勢いよく聞いていく。
しかし彼は困ったような表情で、言い難そうに口にする。
「えーっと……。今日は、休むんだってさ……」
「な、何で!? 体調とか、悪かった!?」
今回が初めての憑依のため、レクト本人にも分からないことが多い。
もしかするとレクトの身体の方でも、何か問題があったのかもしれない。
「いやぁ……。眠いから、サボるって……」
「えええええぇーっ!!!?」
憑依されたエステルの大声が教室に響く。
レクトはまわりの視線に気づき、咄嗟に口を手で覆う。
……身体が勝手に、本来のエステルの動きをしてしまった。
「そんな理由で欠席なんて、レクトにしては珍しいだろ? オレもびっくりでさぁ」
「それなら、いっそ私が男子寮に行って――」
レクトの言葉に、友達たちが慌てる。
「だ、ダメだよ!? 女子は男子寮に行っちゃダメなんだから!!」
「そうだよ! それに急用なら、伝言を頼めば良いんじゃない!?」
「あ、うん……!
伝言をして、校舎に来てもらおう……!」
「いや、それはダメだろ……。欠席した日は、寮から出られないルールなんだから……」
そう言えばそうだった――
……レクトは膝から崩れ落ちた。
そして友達から心配されながら、失意のまま、次の授業が始まってしまう。
2限目、3限目、4限目、そして昼休みが終わり――
「それじゃ、今日はここまでだね」
「また明日、食堂で会おうね!」
「……うん。またね……」
――午後の授業は、専攻科目だった。
専攻科目というのは、同じ系統の職才を持つ者同士が集まって受ける授業のことだ。
エステルの職才は剣聖であり、剣術の授業に参加することになっていた。
「……剣術は、久し振りだな……」
レクトも1年生のとき、この授業を受けていた。
しかし右足を怪我してからは参加せず、2年生になってからはそもそも選択していなかった。
代わりに、レクトはポーターの専攻科目を選択していたのだ。
着替えてから修練場を訪れると、全学年の生徒たちが集まっていた。
知っている顔もあり、知らない顔もあり――
……適度に会話をしながら、授業の開始を待つ。
「はい、それでは授業を始めます。
今日は準備運動をしてから、大型の魔物への立ちまわり……ですね」
授業を行う教師は、レクトも知っている……フローラ先生だった。
怪我をして以降も、散々お世話になった……学内でも人気の、優しい人物だ。
レクトはすぐにでも声を掛けたかったが、エステルに憑依している今、それは止めておくことにした。
準備運動は問題なく終わり、そのまま授業へ――
「大型の魔物に対しては、攻撃をまともに受けることはできません。
距離を取って、立ち位置に気を付けて、最大限の攻撃を行う必要があるのですが――
そうですね。エステルさん、攻撃の見本を見せてください」
「……え、私ですか!?」
「はい。眠そうですが、大丈夫ですよね?」
フローラの言葉に、生徒たちは笑い始める。
冗談という部分もあるが、専攻科目の日に寝不足なんて――という軽い蔑みもあるのだろう。
今回はレクトが完全に悪いので、エステルの名誉挽回に努めなければならない。
「わかりました……。では、先生に攻撃をすれば良いんですね?」
「ええ。どうぞ、いらっしゃい♪」
生徒たちの前に出て、レクトが構える。
それに対して、フローラは木の大剣で防御の構えを取っていく。
「――はぁッ!!」
レクトが木の剣で攻撃を仕掛けるが、フローラは余裕で受け止め、そのまま横に薙ぎ払う。
エステルの身体は軽く、レクトの想像以上に飛ばされてしまう。
……フローラはそれを見届けてから、トーンの落ちた声で語り掛ける。
「……エステルさん?
何ですか、そのやる気の無い攻撃は。しっかり踏み込んできなさい」
「す、すいません……。でも、踏み込むといっても……」
自分は右足を怪我して、今は満足に踏み込むことができない。
そんなことは、フローラ先生だって知っているはず――
……しかしレクトが右足を見たとき、それはレクトの足ではなかった。
今、彼はエステルに憑依している、つまり、足自体は……エステルのものなのだ。
――……それなら。
俺も、全力でいける……?
「……わかりました、もう一度お願いします!!」
「はい、どうぞ。次は本気でね?」
フローラは改めて大剣を構えた。
姿勢は先ほどよりも低く、エステルの攻撃を本気で撃ち落とそうとしている。
しかし――
レクトは剣を構えた。
身体に気力を巡らせる。腕に力を込める。足に力を込める。
身体と剣が一体化してくるような感覚――……剣聖の、職才。
「はあああああぁ――ッ!!」
「――……ッ!?」
ガアアアアァン……ッ!!
木の剣と木の大剣がぶつかったにしては、やたらと派手な音が響いた。
音の余韻が終わるころ、フローラが持っていた大剣が――空から落ちてきた。
それを見て、生徒たちは大きな拍手を送ってしまう。
「……すげぇな。これが、剣聖の職才……?」
「オレたちも、うかうかしていられないぞ……」
「エステル先輩、カッコいい……♪」
フローラは生徒たちをしばらく見ていたが、やがて両手をパンパンと鳴らして、全員を静かにさせる。
そして引き続き、他の生徒にも同じことをさせていった。
見学する側にまわったレクトは、授業の光景を見ながら……ひとつの想いを、胸にしていた。
――楽しい。
やはり、剣術は楽しい。
自分にはそれをこなせる右足が無くなってしまったが、エステルなら――
エステルの身体なら、剣術を学ぶことができる。
……ただ、もうひとつの想い……罪悪感も、当然あった。
これは自分の身体ではない。返すべき身体なのだ――……と。
コメント
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うわあ……めっちゃ面白かったです……! レクトくんがエステルの身体で朝の準備をするシーン、すごく丁寧に描かれててドキドキしました。特にブラウス着るところで鏡を見ちゃう瞬間、あれは男子ならではの気持ちが伝わってきて……でもそれで激痛が走るっていう展開、ゾクゾクしました。授業で活躍できて「楽しい」って思っちゃうのも、切ないけどすごくリアル。エステルの日常を借りてるだけなのに、自分を取り戻す感覚があるんだなって……。続き、めっちゃ気になります! 成瀬りんさんの表現、大好きです🤍