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・安土桃山は喋る時のみ一人称が「うぬ」です!!心の中だと「儂」になってます!
・「桃山」っていうのは江戸時代に付けられたらしいので、このお話の中ではまだお名前が安土になってます!
名前だけでも出てくる時代⤵︎
縄文.弥生.古墳.飛鳥.奈良.平安.鎌倉.南北朝.室町.安土(桃山).江戸
─────────────────
(1)
儂の時代は終わった。
…だから、もう役目はないと思っていた。
「は…?うぬが…次の時代の…世話…?!」
「そうだ。俺だって、室町と一緒にお前の世話しながら役目終わらせたんだからな?!当たり前だろ!」
役目終わらせながらって結構大変だったんだぞ!終わってから世話するんだったら俺たちよかいいと思うが…と戦国は呆れたように言う。
なんてこった…。思い返してみれば、儂が子供の頃に室町と戦国が共に遊んでくれたりした思い出もあった気がする。
(しょうがない…。)
「はぁ…。承知した。で、次の時代はどこじゃ?」
「あーっと…、今はまだ本家に居てな。ここに連れて来ないといけないんだよ。」
「うぬがここまで連れてこいという事か?」
「嗚呼。」
「お主が連れてこれば良いものを…」
「あ?」
「…連れてこれば良いんじゃろ、連れてこれば…。」
安土はある家の引き戸を目の前にし、音を立てながら引いた。
室町は少し前まで、この阿保ほど広い家に住んでいたこともあったと聞く。
そう、ここは本家だ。
そういえば、儂は初めて本家に来たかもしれない。理由があるとすれば、ついこの前時代の役目が終わったからだろう。
「邪魔する。」
下駄を揃え、家の中に入っていく。…やはり予想通りだだっ広い。
少し歩くと、ちょうど廊下を歩いていたのか、他の時代と出くわした。その時代は何かピンと来たような顔をすると、初対面であるのに、そのことを感じさせないような喋り方で話し出す。
「あ、なぁ、お前さんってこの前終わった時代?お前さんの次の時代の奴は確か…奈良と中庭にある茶室で茶でも読んでた気がする、ほら行ってきな。」
「…え、あ…?嗚呼。助かる、では失礼。」
誰なのか、いつの時代かなのかは分からないが助かったのは事実。
安土は言われた通りに中庭の茶室に行き、中に入ってみた。
「たのもう。」
「あー!やっと来たね、えーと…安土…くん?」
「そうじゃ。うぬが奈良か?」
「なんか言い方酷くない?いや、じゃなくて…そう、わえが奈良。平城京のね!んで、この子が次の時代の…ほら挨拶して!」
そう言う奈良の目線の先には、顔に大きく黒い横線の模様の少年がいた。
猫耳や尻尾など、隅々まで黒い線は入っているようだ。その少年は奈良から挨拶をしろと言われると勢いよく立ち上がる。
「おれはえど!!お前さんがあず…あづじ……あづち!安土だな!!よろしく頼む!!」
「わお元気だねえ江戸くん…」
「江戸…。よろしくたのもう坊主」
「うん安土くんは江戸って呼んであげなよ?!はぁ…突っ込み所満載だね…わえ本当はボケなんだけど。」
「ボケとか突っ込みとか何言っておるのじゃ」
「いやなんでもない…」
「おい!おれを話から置いていくんじゃねえー!!」
「あー…坊主、すまん。」
「そういえば、よくわえ達がここに居るって分かったね安土くん?」
もしかして全部の部屋回った感じ?と笑いながら言う奈良。
江戸はあれから「二人だけで話をするなんて酷だぞ!おれは酒の匂いのするあの二人のところに転がってくる!!」と言うと、茶室から出ていってしまった。
…なので、今は奈良と一対一だ。
「いや…途中で他の時代に会ったのじゃ。名前を聞き忘れてしまったのだが…」
「その子に教えてもらったって事?」
「そうじゃな。其奴が、お主らはここに居ると言うたのじゃ。」
「誰だったか知りたいから聞くんだけどさ、どんな見た目だったとか覚えてる?」
「はて…確か折烏帽子を付けておったな。」
「えっ」
「…え?」
奈良は驚いた顔でこちらを見てくる。何かまずい事でも言っただろうか…。
「めっずらしい…それ南北朝だよ。あの子、自分の時代終わって室町の世話したら直ぐに居なくなっちゃったんだ。」
戦国はもちろん、室町だって殆ど記憶には残ってないんじゃないかな…と顎に手を当てながら言う。
「うぬは其奴に会ったと言うのか。」
「多分だけどね?折烏帽子っていうと南北くんぐらいしか記憶に出て来ないからさ。…わえもあれから会ってないし、もはや生きてるかすら…って感じだったんだけど…。」
「はぁ。」
まあ、もう終わった時代だから死ぬとかないんだけど、と奈良は言うが、正直、其奴が誰だったとしても…生きていても死んでいても儂には関係がない。
それより、そろそろ戦国も家で儂を待つのに飽きてくる頃ではないか?
(では小僧を掻っ攫って帰るか…)
「おい奈良、うぬは帰る。」
「そう?おっけー、多分江戸くん「酒の二人のところ」って言ってたし、…安土君が見たかは分かんないんだけど、茶室くる時に廊下があったでしょ?」
「ありましたな。」
「あの廊下を角まできたら、左に曲がって二個目の部屋に居ると思う!」
「説明が分かりやすいのか分かりにくいのか…。まぁ有難い、では失礼するのじゃ。」
「じゃーねー!あと、わえはまだここに居るから、なんかあったら来なね〜安土くん!」
(…わえ達が茶室でお茶も飲まずにただ話してたってこと、室町くんに知られたらマナーだとか茶を飲め〜だとか怒られちゃうなあ。内緒にしとこ…)
奈良に部屋を教わり、茶室を出て廊下に来たものの。
(…角まで来たら…左に曲がって…三つ目?いや二つ目…?いや、もう全部入ってしまえばいいのか。)
説明がたらたらと長かった上に、あまりイメージが出来ていなかったので結局何処かわからない。
一応…二つ目と三つ目に行く前に、一つ目の部屋も開けておこう、そう思い、障子を引くが案の定誰もいない。
少し中に入ると、右の部屋から話し声が聞こえる。
(これは隣…二つ目じゃな。)
わざわざまた廊下に出るのも面倒なので、中から隣の部屋に通ずる戸を引いた。
すると3人の姿が見える。…酒飲みの二人としか言われていなかったので、江戸以外誰が誰かは分からないが。
「失礼するのじゃ、おいそこの坊主、そろそろ行くぞ。」
「あ!あづじ!!じゃぁ平安と鎌倉、おれは行くな!」
「…あづじ?あぁ…安土か。嗚呼、行ってきなさい江戸。」
平安と鎌倉…記録で読んだことがある。平安京と鎌倉の柳営(幕府)…てか酒臭い…、何なんだこいつら…。
(それにしても、今喋ったのは平安と鎌倉のどっちだ?無言の方は狩衣…狩衣ということは平安か…。では今喋ったのは直垂の…鎌倉。)
「世話を任せてしまってすまぬな。平安、鎌倉。」
「いや…麻呂達は江戸の話を聞いていただけだ、何もしていない。」
「…そうか、まあ感謝する。では坊主、行くぞ。」
「おう!じゃあまたな二人とも!次来る時は酒臭いのは御免だからな!おれ!!」
「おい、平安ー!言われてるぞ!」
「は?おまっ」
「こっちにあづじの家があるのか?」
「そうじゃ。江戸もそこで住むことになるからの。」
「…!そうか!」
(初めてちゃんと江戸って名前呼んでくれた!!)
(2)
「今日からお前はここで住むのじゃ。」
「うおお…」
「なんじゃ?」
「さっの家よりもちっせえ…」
少し落ち込んだような声で言う江戸。なんだか小さいと言われるとイラッときたが…相手はまだ子供、気持ちを抑えて家の中へ入れる。
(まず戦国に連れてきた事を言わねばか…。)
「戦国ー!ちゃんと江戸を連れてきたぞ。」
土間から大きな声でそう呼びかけると、襖が勢いよく開き、中から顔だけがひょっこり出てきた。
…口には手のひら位の丸い煎餅を咥えて。
「んー、安土と江戸、おかえり!」
パキリ、と煎餅の割れる音が響く。
「滓が落ちる、食べ終わってから言うのじゃ…。」
「ただいまだ!!」
江戸は勢いよく言うと、間も無く不思議そうな顔を安土に見せ、口を開いた。
「なあ、あづじは「ただいま」って言わねえのか?」
「え…」
「そうだぞ〜安土ー!」
(戦国絶対に楽しんでるな…)
「…只今。」
安土がそう一言言うと、家中に喜びの声が響く。…少し恥ずかしいのでやめて欲しい所だ。
──それより…
「江戸、草履は内側から外側に向かって揃えて置く物じゃぞ。」
「うぇ、なんでだ?」
「そりゃあ、そういうものだからじゃ。」
「ふーん…分かったぞあづじー!」
それから、「まあ上がれよ」と戦国に誘導され、上がると丁度室町が飯を用意している頃であった。
考えてみれば時は夕刻。江戸はよっぽど腹を空かせていたようで、早く飯が食べたいのか室町の手伝いをしに走って消えてしまった。
「それにしても…さっきからずっと思ってたんだが、なんで安土お前、江戸からの呼ばれ方「あづじ」なんだ?」
「…それは…うぬも分からぬ。」
「お前、名前「あづじ」だと思われてるんじゃねえの?」
頬杖をつき、笑いながら言う戦国。
なんだかそれが本当な気がしてならない。
「やめるのじゃ…。なんかそんな気がしてくるでの。」
室町と江戸が配膳を始めた頃には、二人ともすっかり仲良くなったようだった。
「こいついい奴だなあ!お前らと違って」
米をつぎ始めると、室町はにこやかに言う。江戸も少し嬉しそうな表情になり、えへへ、と笑った。
「手伝ってくれるなんてなあ。大助かりだった!」
「よかった!そう言われると少し照れるな〜…」
「それよりも「お前らと違って」の方が気になるんだが?」
「うぬ達、ではなく戦国だけじゃろ。」
「はあああ?!」
向かい合わせで座っている安土と戦国がヒートアップしていくのを横目に、江戸たちは別で話始める。
「米はこれで良いのか?」
一つ、米をよそった茶碗を見せた。
「おう、いいぞ…と、ちょっと待て、さっき一度で米をついだか?」
「んあ?嗚呼一回でついだぞ?」
「…気づいてよかった。あっとな、2回に分けてついだ方がいい。一回でついじまうと死んだ人に出す飯になるんだ。だから仏壇には一度でつぐんだぞ。」
「なるほど!そうだったのか!…理由も教えてくれるなんて、あづじと違って良い奴だな!」
「…あぁ?あず…?…まあ良い、気をつけるんだぞ」
「承知した!」
それから暫くして配膳も全て終わり、いざ食べようと皆で手を合わせる。いただきます、と声が合った。
「はー!美味かった!!」
「おうそりゃ良かった!」
「飛鳥の飯も美味いが、室町の料理も絶品だな!」
食べ終わるのは一瞬であった。
片付けも手伝おう!と江戸は机にあるものを少し持つと、室町について行った。
(働き者じゃの…)
安土は、儂とは正反対だと、そう思った。すると、同じく江戸の方を見ていた戦国が、何かを思い出したのか口を開いた。
「なー、安土。そういえばなんだが」
「なんじゃ?」
「昼間、奈良に用事があったの忘れててさ」
「うん?」
「…だから今日予定無いと思ってて…行けたのに行かなくて…えっと、だから明日行こうと思うんだが、江戸も行きたいって言うかなって思ってだな。」
「まあ言うじゃろうな。」
「やっぱ思うよな?!だからさ、江戸がもし行くならお前も来ないかなって思って」
「…まあ、ここで行かないと言っても、江戸に引き摺られながら連れていかれる気がするがのう。」
「まあまあ。」
二人で話していると、開けっぱなしだった襖の向こうから江戸が来て、さっさと膳を片付け始めた。
「何の話してたんだ?」
丁度良い所に来たな、江戸、と軽く言いながら戦国はさっき安土に言ったことを軽く説明する。
「おお!なるほど!本家か!いきたいぞ!」
「ほーらいいよった。こうなればどちらにしても、うぬの意見関係ないじゃろ…」
「なあ、あづじは行くのか?」
目を輝かせながら言う江戸に、安土は「面倒くさい、行きたくない。」など言える訳がなかった。
(3)
朝、目を覚めた安土は体を起こした。横に謎の違和感があり…見をやると、江戸がいる。
(…儂は昨日一人で寝た気がするが…)
まあ別に二人でも一人でも変わらない、のそりと立ち上がり、着替えを始める。
後から起こしてやるか、と考えながら。
それからしばらくすると、江戸は、安土が起こしに行く前に起きてきた。
「んもうねむにゃすぃえやゔあいんだぞ…」
「…おはよう。ちゃんと人に伝わる言葉を喋るのじゃ…。」
呂律の回っていない下で発する言葉はまるで異国語のよう。
結果、なんと言っていたかはよくわからないが、なんとか聞き取れたのは、「にどね…して…え…」と、「おれぁもっとおおきくなったらずっと寝れるせーかつをおくるんにぃぁ」だった。
「ひとまず江戸、朝飯がもうすぐでできると室町が言っておったから食べるぞ。」
朝食を食べれば、目も覚めるかもしれない。
「しょーち…」
「ご馳走様でした!うまかった!それとなんだか目が覚めた気がするぞ!これすごいぞあづじー!!」
「さっきのが寝起きとはいえ…テンションが全くと言っていいほど違うのじゃ…」
目が覚めて、何を言っているか分かるぐらいになれば良いだろうと思っていたのだが…。
予想以上に元気になり、安土も少し驚いてしまう。
「てんしょん?」
「いや…なんでもない…。」
「お、食い終わったか。じゃあ、この皿下げるぞ〜。戦国、多分今自分の部屋にいるから呼んできてやってくれな二人とも。」
横で新聞を読んでいた室町は、江戸が食べ終わったのに気がつくと、そう言って皿を洗い場に持っていった。
「じゃあおれが戦国を呼んでくるから、ちゃんとまってろよあづじー!」
「はいはい。」
二つほど襖を部屋を通り、廊下に出、少しだけ進んだところに戦国の部屋はある。江戸は、早く本家に行きたい一心から小走りで戦国の部屋まで行った。
「おはよう戦国!起きてるかー?」
勢いよく障子を開けると、戦国と一つの箱がそこにいた。
「おー、江戸か!おはようなあ。そろそろ本家行くか?」
「行くー!…というか、戦国は何してたんだ?」
「ああ、奈良に渡すものをこの箱から出してたんだ。俺は今日奈良に用事があるからな!ほれ」
戦国は、江戸にその渡すものをパッと見せると、立ち上がり
「じゃあいくか!」
と笑った。
「誰かいるかー?戦国だがー!」
本家に着き、戦国が戸を叩く。
すると、何やら奥から足音が近づいてきて、ガラリと戸が開いた。
開けたのは縄文だったようで、直後は突然の訪問に少し驚いたような顔をしていたが、
「はーい…って、戦国と安土、多分江戸…かな?ほら入りな入りな〜!」
「すまんな。戦国の用事だというのに、うぬと江戸もきてしもうた。」
「いやいや、いつでも来て良いんだからね?!」
一応ここ、君たちの実家みたいなもんなんだから!と縄文は言う。
「んはは、…そんで、俺は奈良に用事があるんだが…。何処にいるか分かったりするか?」
「奈良?奈良だったら…庭にいるんじゃないかな?」
「え!このなんか美味そうな匂いと関係あるのか…?!」
縄文の言葉に、江戸は目を輝かせながら言う。
「なんかね、古墳と飛鳥が、鎌倉と平安に作って欲しいって頼まれてた煎餅を作ってるみたいだよ。」
それを聞くと、江戸は「せんべい!」と喜び、ぴょんぴょん跳ねた。
「ははーん、だから奈良もそこにいるのか!なるほど…じゃ、俺は奈良ん所に行ってくるから、二人はなんか自由に遊んどけよな〜!」
そして、戦国は江戸たちをよそに、奈良の居場所が分かると直ぐに飛んで行ってしまったのだった。
「ねえ、江戸?で合ってるかな。戦国、向こう行っちゃったし3人で待ってよっか!」
「おー!な、あづじ!」
「え…ぇ…あ、嗚呼」
(儂が口を出す前に話がどんどん進んでいっている…)
縄文に案内され、家の奥に進んでいくと縄文の言っていた、庭からだろう、餅の匂いがふわりと鼻を通る。
縄文と弥生の部屋に着くと、縄文は「そうだ!ここで座って少し待ってて」と言い消えていった。
「どうしたんだろ〜な〜あいつ!」
「まあ、縄文のことじゃ。あの閃いたような表情からして何かを持ってくるのではないかの。」
「まあいいや…っと、なんか美味そうな匂いが強く…」
お!と江戸が何か嬉しそうな声をあげたので、安土はチラリと江戸の方を見やる。縄文が帰ってきたようだった。
「かなり早いお帰りじゃの…それは先ほど言っていた煎餅か?」
「そうだよ〜。江戸、食べるかなって思って少し貰ってきた!」
縄文は手に持っている、煎餅の乗った皿を二人に見せる。
「でかしたな!…えっと…そういえば、お前の名前、おれ知らない気がするぞ…!!」
皿を畳に置いた縄文はそれを聞くと、そうだったね!と何か思い出したようで、あぐらをかいて話し始めた。
「江戸がちょうど此処にきてた時は、弥生と古墳と一緒に俺買い物行ってたから…俺は縄文だよ。」
「縄文か!知ってるとは思うがおれは江戸だ!煎餅持ってきてくれてありがとうな縄文〜!じゃあいただき……って…え!!あづじ!食べはじめるの早!」
実は安土、二人が自己紹介をし合っている最中に一枚だけ食べ進めていた。
「いや…だって目の前にあって…食べたくなって…しまって……べ、別に良いじゃろ、別に無くなるものでも無、」
「無くなるだろ煎餅はあ〜!」
(にぎやかな子達だな〜)
煎餅で言い合う二人を見る縄文は、またこの家も賑やかになるなあと、そう思っていた。
そんな時、さっき縄文が出入りしていた戸の方から一つの影が近づいてきているようだった。
(4)
「あれ、南北?本家に居るの珍しいね。煎餅食べてく?」
「ああ、食べていく…」
煎餅でごちゃごちゃと話している二人をよそに、縄文は南北朝を部屋に入れる。安土達は気付いていないようで、話は終わらない。
「どうしてこんな久しぶりに家にいるのさ、南北。」
「いや、新しい時代が来たって言われたもんだから、どんやつかなあと思って来てみた。そんで、庭から侵入しようとしたら…なんか餅つきの用意あるしめっちゃ醤油の匂いするし…。挙げ句の果てには弥生に「お前!!前貸した本借りたまんま居なくなるんじゃねえ返せ!!」って一発殴られた…。」
「まあそりゃあ…ねえ、」
「そんで、此処にあるお餅は貰って良いのかい?」
「ああ、いいよ」
縄文もそう言うので、南北朝は目の前の皿に手を伸ばす。…が、それは目の前の江戸に止められてしまった。
それと同時に、江戸の隣に居た安土は口に咥えていた残り小さい煎餅を口内に含む。
「これひとり一枚で、安土が一枚食べて…残り二枚しかないのに…これじゃあ、おれか縄文の分なくなっちまうじゃないか!」
「まってまって!江戸、大丈夫だよ!俺の煎餅を南北朝にあげるだけだから!」
「な、なら良いけどよう…。…ん?あれ、じゃあ縄文が食べる分ないじゃないか!もー、おれの半分やるぞ縄文!」
「わ!本当?ありがとうね江戸〜!」
「なあ、そこの…あっと…安土?だったよな、俺たちなんか大人気ないな、…」
「まあ確かに…お前は子供からもはや半分奪ったようなものじゃからな。いやそれよりお前誰だ…?」
南北朝の言葉に、安土は噛んでいた煎餅をゴクリと飲むと一言言った。
「えー、前に奈良の場所を教えてあげた奴だよ!」
「…!ああ、この前の!…というか、縄文達が言うにはあまり出てこないらしいの。なぜうぬのところには高い頻度で顔を見せるのじゃ?」
「なんというか…、普通、古い時代が目の前に来たら「記録で見た奴だ!!」みたいな感じで…少しは「おお」ってなると俺ぁ思うんだけれども…」
「ほう」
「お前さん、なんか反応が全くなくて…一周回って面白くなってきたもんだから、此処に現れる頻度増やしてみた。」
「…あー…なるほど…。なんていうか…好奇心的な感じなのじゃな」
「そうそう!だから俺のこと覚えてもらえるように頑張るから、お前さんも覚えててくれよな俺のこと!」
「…うげ」
(なんだか関わってはいけない奴な気がしてき…た)
「うげとは何だよ…まあ良い。暇だし、室町に会うついでにでも分家へ遊びに行こうか」
「いや辞めろ…うぬが家にいる時にも気を使わなくてはならぬのは嫌じゃ…。」
「…まあどちらにしろ室町には会いたいから行くのだがな!」
南北朝はそう言うと勢いよく立ち上がり、土間の方へ駆けた。
「はあああ!?お前わしの家に行くつもりか!!辞めろと言うとるじゃろ!!」
それを見た安土も南北朝を追いかける。そんな安土と南北朝の反対で話をしていて、静かな部屋に取り残された縄文と江戸の二人。
「二人が何を話してたのかは知らねえが…おれ達取り残されたな、縄文…。」
「そうだねえ…安土は帰っちゃったけど、戦国はまだいるから一緒に帰るって事で、そこは安心してね…。」
「戦国…そーだな…」
安土達が居なくなってから数十秒程、縄文が江戸に何時ごろ帰るかを聞いていた時だった。
向こうから…声の遠さ的に土間ぐらいからだろうか、安土の声が微かに聞こえたのだ。
『江戸!!教えてやろうぞ!草履を外向きに揃えるのはこう言う時のためじゃああああ!!』
「あ、あづじ!!…えっと…縄文、どーゆーことだ?」
「多分、外向きにしたらそのまま足をサッと入れるだけで履けるから…ってことじゃ無いかな?」
「なるほど!そう言うことか!!ありがとなあづじー!!!!」
江戸は土間の方へ叫ぶと、えへへ、届いてるかな?と縄文の方に振り向いた。
「届いてると思うよ」
と優しく縄文は答えてくれたのだった。
「ねーねー飛鳥〜!さっきさ、戦国が来たじゃん?」
「あー、さっき江戸と昼ごはん食べて帰っていきましたよね」
そうそう、と奈良は言うと、何処からか箱を一つ出した。
「これはなんですか?」
「うんとね、これ戦国がなんかくれた奴なんだけどさ。…見てよ…」
箱を開けると、少し雑だが、ちゃんと包装された茶器が出てきた。奈良は丁寧にそれを取り出すと、飛鳥に見せる。
「お、これ…茶器じゃないですか!どうしたんでしょ?」
「いやね?これともう一個、なんか手紙が入ってて。ほら読んでみてよ!」
「えっとー…?「奈良、お前俺の茶器割りすぎだから俺が厳選した中で一番価値がないものを持ってきた。存分に割れ」…って…いやそう言うことではないでしょうよ戦国…」
「でしょ?えちょっとそれでびっくりしたのがさ、その茶器の裏見てみてよ!」
「ん…?まって…これ作者……」
飛鳥に奈良は茶器を渡すと、裏が見えるように手で動かす。そこに書かれていたのは「戦国作」という、裏印のような感じでもなく、ただ適当に棒で削ったような文字だった。
「あいつの自作だったの!!なんか…いや、最初から割るつもりとかは微塵もないんだけどさ?割るの申し訳なくて…」
「じゃあ大切に使いましょうねえ奈良あ〜」
「笑うな飛鳥あああー!!」
「ほら、煎餅余ってますから、煎餅とその茶器でお茶でも飲んだらどうですか〜?」
弥生達によると、その日の本家は何だかいつもより賑やかだったらしい。
…食事中、それを聞いた一部始終を知る縄文は、間違いなく戦国と安土、そして江戸といつも現れない南北朝が居たからだと思っていたのだった。