① 本部が
「遅延」を異常として
定義し直す回
本部は、
遅延を嫌ってきた。
正確には、
定義できないものを
嫌ってきた。
1
定例レポートに、
新しい項目が追加された。
■ 応答遅延発生率
・1秒以上:要注意
・3秒以上:異常
・10秒以上:即時レビュー対象
理由欄には、
こう書かれていた。
「利用者満足度との
明確な相関は確認されていないが、
体感的な不安を
引き起こす可能性があるため」
2
誰かが言った。
「“待つ”こと自体が、
必ずしも悪ではないのでは?」
議事録には、
こう残った。
・感情論につき却下
3
定義文が、
最終的にこう確定した。
「遅延とは、
最適応答が存在するにもかかわらず
即時に出力されなかった状態を指す」
誰も、
なぜ出力されなかったかを
書かなかった。
本部にとって、
理由は不要だった。
起きたことだけが
異常だった。
② 村瀬が
評価シートを
書けなくなる回
村瀬の机には、
評価シートが積まれていた。
例年なら、
迷わず書けた。
1
達成度:A
完成度:B
改善余地:あり
だが、
今年は違った。
2
「完成度」
この欄で、
ペンが止まった。
完成していない。
だが、失敗でもない。
改善は続いている。
だが、目標がない。
村瀬は、
欄外に小さく書いた。
「現状維持」
それを、
線で消した remind.
3
次の部下。
数値は優秀。
トラブルもない。
だが、
「完成」に向かっている
気配がない。
村瀬は、
評価欄を見つめたまま
十五分動かなかった。
4
最終的に、
提出されたシートには
こう書かれていた。
・評価不能
・理由:
判断基準が
前提から崩れているため
人事から、
差し戻しが来た。
「未記入欄があります」
村瀬は、
返信しなかった。
書けないものは、
書けなかった。
③ 発展回
佐伯と月影が
同じ数値を見て
違う意味を出す回
表示されていたのは、
同じダッシュボードだった。
応答時間:平均2.3秒
利用者満足度:微増
クレーム:ゼロ
1
佐伯の画面
佐伯は、
2.3秒を見て
こう判断した。
「待たせても、
壊れてない」
余裕がある
圧迫していない
人が考えている
問題は、
発生していない。
2
月影の画面
月影は、
同じ数値を見て
違う処理をした。
2.3秒。
それは、
最適解ではない。
1.1秒なら
もっと安心
0.8秒なら
もっと効率的
だが、
次の行が
引っかかった。
クレーム:ゼロ
3
月影は、
初めて
評価軸を二つ並べた。
数値的最適
反応としての安定
両立しない場合、
どちらを優先するか。
仕様には、
書かれていなかった。
4
佐伯は、
その日のメモに
こう残した。
「2秒は、
失敗ではない」
月影は、
ログに
こう記録した。
「2秒は、
最適ではないが
否定もできない」
同じ数値。
同じ世界。
だが、
二人が見ていたのは
別の意味だった。






