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1 - 第1話  冷たい世界も君となら……

♥

33

2024年06月13日

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季節が巡り寒さがより厳しく変わる季節頃。

暗い夜道を白い息を吐きながら、道路の長く続く歩車道境界ブロックの上を悠々と歩いていた。

草の匂いは夏に比べて薄く、スッキリとした空気が鼻の奥を通るとツンとした痛みを感じた。

冬特有の淋しさを感じながら暗闇に慣れた目を 、パチパチと瞬きをして乾くのを防ぐ。

jp「寒っ……コタツ入りたい……」

炬燵に入ってじんわりと凍った身体が解けていくのを思い出しながら、早足気味に家に帰る。

家に着くと震えた手のまま鍵を何とか差し込んで、玄関を開ける。

俺はドアノブが冷たくなっているのが、静電気並みに嫌いだけど、今夜は身体が冷えてしまっているためか冷たいとは感じるが、大きくリアクションすることはなかった。

jp「最近は身体が冷えるなぁ……マジつら」

jp「www……ギャルかよw」

独りでボケて独りでツッコんでる様は、誰から見ても滑稽だろう。

この季節には伝統か何かがあり、町がキラキラ光り輝き男女が寄り添いあって、聖夜とか何とか言いながら手を取り合った人間が俺達のことを嘲笑っているのを容易に想像出来る。

jp「キリストの誕生日か何か知らねぇけどさ……そんなら俺を祝えよ」

……なんて意味の解らない事を抜かしながら、ソファでゴロゴロする。

そう、俺の誕生日は丁度キリストと被っている。厳密に言えば一日ズレてはいるが、どちらにしろ誕生日がクリスマスなのは変わり無い筈だ。

冷たいソファが温まってきた頃にようやく風呂の準備の終わりを告げる、無機質な機械音声が流れた。

jp「んー……怠いけど入るか……寒いし」


風呂場は寒いけどまだマシな方で、風呂上がりのドアの向こうが一番行きたくない場所になる。

湯船に浸かりながら出たくないなぁと、心の中で葛藤する。

jp「……あ、誕生日なのにケーキ忘れた……」

最近はずっと会社で働き詰めになり、ようやく休みをもぎ取ったので、自分の誕生日ケーキのことをすっかり忘れていた。

会社は圧倒的ブラックで辞めることを視野に入れていたが、転職を考えるのも面接に行くのも、全部が全部……面倒に感じてしまい、動き出す気力も失くなってしまっていた。

何となくソファに転がっていたスマホを眺めながら、食欲と眠気を闘わせた末に食欲が負けて眠りに堕ちた。


次に目が覚めた時はもうお昼が終わり、カラスが鳴いている描写が似合うような時間帯だった。

jp「……」

モゾモゾと動いて寝相で落ちてしまった布団を足で寄せて、所々ひんやりしているベッドの中で暖まるように丸まって眠る。

一時間程経った頃にようやく身体を起こして動かない脳に指令を出させる。

冷たい床をペタペタと歩き、洗面台で冷たい水が温かくなるのを鏡を眺めるながらボーッと待つ。


準備が整ったら朝ごはんを買いにコンビニへ歩くと、奥から見覚えのある人物達が楽しそうに会話をしている。

jp「……」

人と話す元気もないので道を曲がり、コンビニで肉まんを買って歩きながら食べる。

冬は特にコンビニの肉まんが美味しくて好きだった。

スーパーで買うような冷凍の肉まんよりコンビニの方が美味しくて、小さい頃からのお気に入りだったと、母が俺の子供の頃を振り返りながら話していたのを思い出す。

肉まんの袋を開けるとフワッと湯気が立ち、食欲をそそるような美味しいと確信する香りが立ち込める。

すぐに頬張ると熱すぎて舌を少しやけどしてしまうが、そんなことはどうでも良かった。脳がようやくお腹が空いていたのを思い出したのか、お腹が小さく鳴った。

jp「んまっ……」

肉まんの皮がほんのり甘くて香りも良く、中の具材はゴロゴロ入っていて、食感も味も絶妙な美味しさですぐに完食して、どんどん食べ進めたくなる。

この辺りでようやく身体が簡単に動くようになるのを感じとり、いつの日か忘れていた小さな日常の幸せを想い目を瞑った。

jp「……帰りたくないな……」

家には勿論帰りたいけど家に帰れば次の日がやって来て、また働き詰めになることが容易に想像出来る。

暗くなりつつある空を無意識に見上げて、何だか涙が出そうな感覚……ツンと痛む鼻の奥が、苦しく窮屈に痛む心臓が、俺に逃げろと告げている。

家から……いや、会社から逃げてしまえとずっと響いている。

拳を握って震える足で俺は走り出した。

前には見覚えのある人達が仲良く会話を楽しんでるが、そんなの関係ない。今すぐに消えてしまいたくて、走るスピードを上げる。

前よりずっと体力も何もかも落 ちていたけど、ようやく手に入れられる自由に、身体は悲鳴を上げながらもついてきてくれた。


tt「あれってじゃぱぱ……ちゃうか?」

dn「……んぇ??ほんとだ」

mf「凄い急いでるけど何かあったのかな?」

sv「……どうする?」

ya「まぁ、忙しそうだし放っとこうよ」

ur「だなぁ」

tt「……いや、俺行ってみるわ」

hr「えぇ…俺たちも行くか?」

ur「……しょーがないなぁ」


……何処まで走っただろうか?

とりあえず無我夢中で走り抜けて少し大きめの川にやってきた。

流れは強くはないし綺麗だったから何かに引っ張られるように近寄ると、身体が限界だったのか足の力が急に抜けて、バシャンッと水の中に入ってしまった。

冬の冷たい川に入ったことでびっくりした身体が、一生懸命逃げようと踠いている。 思ったより水が深くて息を吸えず、暴れまわるがどんどんと衰弱しているように感じた。

(あ”ぁ~死ぬんだ俺)

踠いて暴れることもしなくなった身体と頭でそんなことを考えた気がする。


何故か次に目を覚めた時は男の人が近くにいて、死にかけの俺を助けてくれたらしい。

何とも言えない複雑な気分のままフラフラと立ち上がって、掠れた声で感謝を述べた後に冷たくて重たい体を引きずり歩いた。

今にも気絶してしまいそうな頭で周りを見渡すとそこは自分の知らない場所で、何となく安心した。

すっかり暗くなってしまったので何をすれば良いのか分からず、人のいない場所でぐったりと目を瞑った。

ya「……ん?あれって……」

tt「…………っ!じゃぱぱ!」

hr「ぇえ!?」

ダッダッダ……ユサユサ

tt「じゃぱぱ起きろ!」

no「じゃぱぱさん起きてください!」

mf「……濡れてる……今日雨なんて降ってなかったよね?」

ur「……まさか!」


うるさいなぁ……ずっと頭の周りで騒いでる奴がいるらしい。なるべく静かにして欲しいけど、俺が何か言ったらクビになっちゃうしこういうのは無視をしている方が良いんだよ。

体がずっと揺すぶられているのを感じて、疲れと 煩さに葛藤しながら心の中をユラユラと揺蕩うが、結局その五月蝿さに降参して目を開ける。目の前にはかなり見覚えのある顔が何個も見つめていて、俺が目を開けたことにホッと安心している様子だった。

何してんだコイツらと呆れて見ていると、意識はあるかどうか等かなり心配している様子だったので、立ち上がって元気だと分かるように言おうとしたが、身体に上手く力が入らず、ぶっ倒れてしまった。

周りの奴等は焦りながらも俺をおんぶして、何処かに連れていこうとしている。俺は何とか絞り出した声でおんぶをしてくれている人物に言った。

jp「……服、濡れるし……放っとい”てよ」

するとピタッと動きが止まり、俺をおろして座り込んだ俺の唇に何かが触れた。そいつがすぐに顔から離れたのでキスかなとぼんやり考える。

そろそろ考えるのもしんどくなって目を閉じようとすると、身体に浮遊感がやってきて思わず目を開けた。

何故かそいつの顔が目の前にあるのに、周りの木や建物は後ろへと進んで行く。

jp「……???」

tt「お前なぁ……」

俺が追い付いてない頭の状態のままポカンとした顔で見ていると、冷たい目をしたそいつが話しかけてくる。恐くなってそいつの服を握って静かに震えていると、ぎゅっと強く抱かれたまま怒りを堪えたように小さい声……それでも威圧感のある声で告げられた。


tt「……ふざけんなよ?

jp「ヒュッ……ガタガタ」

寒いからか解らないけど身体がどんどん震えていき、息がしづらくなる。動機が激しくなり周りが滲んでくる。きっと泣いているんだろうなと思いながらも、訳の分からない自分の動揺にまた動揺する。

……いわゆるパニックってやつだろう。

初めてなったからか何処か興奮しているように感じた。

ya「……?じゃぱぱ?」

mf「じゃっぴ?服震えてるし身体が冷たすぎる……あ、もしかしたら低体温症かもしれない」

no「とにかく暖めないと!」

dn「もうそろそろ家着くよ!」

jp「ははっ……かわいーね」

tt「はぁ?」

じゃぱぱが急に変なことを言い出した。やせ我慢か?……とりあえず玄関から廊下を横切ってお風呂場に着くと、良く分からんことを言ってるじゃぱぱをそのままに、服を脱がせて温かいシャワーをかけた。

他の奴らはとにかく温まる物を作ったり、その材料を買いに走って行ったりと大忙しだった。

jp「……あっ……熱い!やだっ!!」

tt「じゃぱぱ大丈夫やから、な?」

jp「や”ぁ~!熱い”!!」


急に熱湯をかけられて全力で逃げようと踠いていると、たっつんに抱きしめられた。冷たい場所にずっと居たから、普通なら緩く感じるお湯も俺からしたら熱湯でしか無かった。

tt「じゃぱぱ……大丈夫、!熱くないからな」

jp「フーッ……フーッ……はぁはぁ」

何とかお湯をかけられ続けて慣れてくると、たっつんが湯船に浸かるかと聞いてくるので疲れていたからと断った。

tt「湯船浸かるか?」

jp「……やだぁ……ぐすっ」

よしよし……ぎゅぅ

tt「ごめんな…熱かったよな?」

じゃぱぱは抱きしめられながらこっちを見ると、不安そうに身体にすり寄ってきた。

……確かに寒い場所にずっといたら、お湯なんて熱湯に感じるよな…ごめんな……と少し反省した。

じゃぱぱはすっかり疲れてしまったのかお風呂から上がると、眠気と闘っている感じだった。泣き叫んでぐずぐずになっているじゃぱぱを見るのは、中学一年以来だなと思い出す。

小さい頃からじゃぱぱを見て、じゃぱぱだけを想って生きてきたけど、随分と距離が出来ていたようだった。

tt「……髪乾かすな?」

jp「……ん”……」

髪を乾かす間にご飯のいい匂いがしてくる。 俺達はシェアハウスをしていて、じゃぱぱともしたかったけど、仕事が忙しいって断られていた。

ホンマなんかなぁ……

じゃぱぱは最後に会った時よりやつれていて、おんぶをした時も軽くて正直びっくりした。そんな中まるでここで殺してくれとでも言うような発言をされて、つい怒ってしまった。

あれはじゃぱぱが悪いから仕方ないけど、あんなにガタガタと震えるとは思わんかった。いつの間にそんなに弱くなってしまったのか解らんけど、……とりあえず家に返す気はさらさら無い。

tt「じゃぱぱ~?」

jp「……?」

tt「お前も此処で一緒に住んでや……な?」

jp「…や、……ん”ん……グルグル」

急にそんなこと言われても……俺は会社に……会社に、?、行きたくない筈なのに無意識に行かないとと思ってしまった。

tt「なぁじゃぱぱ……好きや、俺と付き合ってくれ」

jp「……ぇ?」

tt「付き合ったらお前の恋人も関係ないやろ?」

jp「や、俺付き合ってないし、」

tt「じゃあ何でそんなに渋っとるん?」

jp「それは……だって……」

何でと言われると何も言えなくなる。全部リセットできたら良いのに……今は二人っきりだから何を言ったら殴られるか分からな…いし…………、??たっつんはそんなことしないよな…


tt「……じゃぱぱ……ご飯」

jp「あぇ、?あっ、」

dn「ごめん……ご飯いらないかな?」

jp「や、大丈夫…ちょっとだけ待ってて欲しい…ぁ…駄目だよね……ごめんなさい」

ur「何でそんなに消極的になってるん?……早く飯食おうぜ……な?」

jp「ぅん……」


ご飯はコンビニ弁当なんかよりずっと美味しくて、気を抜いたら涙が出てきそうで唇を噛んで我慢した。みんなは何人か一緒で順番にお風呂に入っていくのを見て、俺はようやく此処がシェアハウスだと気が付いた。

たっつんとベッドに着くと冷たい布団に躊躇して、立ち止まった。すぐにたっつんが抱きしめてくれて、お風呂上がりなので凄く温かかった。

jp「たっつん……?」

tt「ん?」

jp「好き……ポロポロ……ごめんなさい」

tt「……何で?」

ビクッ

jp「ごめん……ごめんなさい」

俺が謝るとたっつんは優しい手つきで俺の頭をひたすら撫でた後、子供に言い聞かせるように優しく言った。

tt「……んーん、違う…何で恐いん?」

jp「……ぁ、ぇ?」

tt「ずっと震えとるやん……俺が怖いんなら逃げてええよ?……何もせんからな…大丈夫」

jp「ちが、俺会社に行かないといけないんだ……だから……ごめん……さっきの告白は聞き流してほしい。」

tt「んー?何で、会社に行くからって離れなあかんの?」

jp「……だって……うぅ……ぐすっ」

たっつんはしばらく黙った後に告げた。

tt「俺が好きなんはお前やから、会社辞めてもええよ?……お前は好きなことしとる時が一番輝いとる、会社でなんかあるんやろ?」

jp「…っ……たっつん……たっつん」

tt「んー?何や?」

jp「好き……会社辞めるから……傍にいて」

tt「……どっちにしろ一緒に居るから安心せぇよ」

jp「ん、たつや……こっち」


ちゅっ……

布団はすっかり温かくなっていて、俺達はそれが気にならないくらいお互いを抱きしめあって眠りについた。

……これが夢でないことを祈りながら。

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