テラーノベル
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放課後の生徒会室。
私の周りはいつも以上に賑やかだった。
「ねえ玲。早く次のゲーム勝負しよ!」
袖をきゅっと引っ張る律。
「こ、今月の予算書だ! ちゃんと確認しろよな!」
顔を赤く染めながら書類を差し出す豪。
「玲、デートの場所ですが……僕が選んでもよろしいですか?」
おっとりと微笑む絢。
「会長様は人気者だね~。そうだ、今から二人で抜け出さねぇ?」
楽しげに誘ってくる烈。
(みんなして私に構ってくれて可愛すぎる……ここが天国か!?)
限界オタクは、本日も幸福の過剰摂取で瀕死だった。
そんな時――。
生徒会室の重厚な扉が、静かに開いた。
カチャリ。たったそれだけの音だった――。
室内の温度が、数度下がったような錯覚を覚える。
「……随分と賑やかだな。」
ブルーブラックの髪。
西日にきらりと光る銀縁眼鏡。
すべてを見透かすようなライトブルーの瞳。
静かな足取りで立っていたのは――前生徒会長、黒崎冴だった。
その瞬間――
さっきまで騒いでいた四人の空気が、ぴたりと止まる。
「…………。」
そして全員が、ほぼ同時に悟った。
――目が、笑っていない。
「私の可愛い後継者を、随分と他の犬たちが囲んでいるようだな。少し、玲と二人で話がしたい。席を外してくれるか?」
「……は、はい。」
「お、お邪魔しました!」
「失礼します……。」
「……じゃあな、会長。」
逆らったら終わる。
本能でそう察した四人は、玲へ名残惜しそうな視線を送りながら、生徒会室を後にした。
バタン。
静寂が落ちる。
(あれ? なんか急に空気重くない?)
そんな私の前へ、冴はゆっくりと歩み寄ってきた。
一歩。また一歩。逃げ場を塞ぐように。
そして――
執務机の椅子に座る私を閉じ込めるように、両側の肘掛けへ手をついた。
「……っ」
逃げ場のない距離。
銀縁眼鏡の奥――氷のように冷たい瞳が、真っ直ぐこちらを見下ろしている。
「玲。朝、私に『全力で頑張る』と言ったばかりだというのに……随分と他の男たちに安売りされているじゃないか。」
ライトブルーの瞳が細められる。
「私が磨き上げた宝石を、他の犬たちに好き勝手触られるのは……気に入らないな。」
極上の低音。
静かな圧力。
圧倒的な支配者の気配。
にもかかわらず――
(ひゃああああああん!!)
私の脳内は、別の意味で大爆発していた。
(冴先輩の椅子閉じ込めドン!! 独占欲全開の冷たい瞳!! 怒らせたら一番ヤバい裏ボス設定そのまま!! 最高のごちそうすぎる!!)
恐怖どころか、感動で胸がいっぱいになる。
私は、憧憬の眼差しで目を輝かせた。
「冴先輩にそんな風に言ってもらえるなんて……本当に幸せ者ですね!」
「……っ、お前……。」
初めて黒崎冴が、本気で目を見開いた。
今までなら誰もが怯え、言葉を失った。
以前の如月玲なら、息を呑み、謝罪を口にしただろう。
なのに――。
目の前の玲は頬を上気させ、まるで至高の宝物を前にしたかのように、自分を真っ直ぐに見つめ返してきている。
「……面白いな。私の圧を前にしてそんなに嬉しそうな顔をする人間は、お前が初めてだ。」
静かな声だった。
けれど、その瞳の奥には今までとは違う熱が宿っていた。
冴は片手を離し、眼鏡のブリッジを押し上げる。
そして、冷たい指先で私の顎をそっと持ち上げた。
「そんな瞳で私を見るのなら……」
ライトブルーの瞳が眼前まで迫る。
もはや、吐息まで届きそうな距離だった。
「もう二度と、他の奴らにその顔を見せるな。お前をここまで変えたのが誰なのか、忘れられないようにしてやろうか……。」
ヤンデレセリフの過剰摂取――!!
限界オタクの脳は、ついに容量オーバーを迎えた。
転生してからずっと目まぐるしかった。
推しとの遭遇。
想定外のイベント。
睡眠不足。
興奮状態。
「……あ」
視界が揺れる。
ぐらり、と身体が傾いた。
「……玲?」
スローモーションのように前へ倒れていく。
「――玲っ!?」
聞いたこともない声だった。
いつも冷静な冴が、焦ったように私の名前を呼ぶ。
「おい、玲!」
伸びてきた腕。揺さぶられる肩。
銀縁眼鏡の奥の瞳が、大きく揺れている。
(ああ……。)
薄れていく意識の中、最後に思ったのは――
(冴先輩の冷たい視線……もっと浴びたかった……。)
そんな、どうしようもなくオタクらしい感想だった。
限界オタク生徒会長・如月玲は、裏ボス先輩の腕の中で、静かに意識を手放した。
#ファンタジー
東屋 朧
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結愛
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コメント
1件
うわああ第7話も尊すぎる……!冴先輩の「他の犬たち」発言に椅子ドン、顎クイ、距離ゼロのヤンデレ連打、もう限界オタクの玲ちゃんと同じく私も昇天しかけた😇✨ 最後の「もっと浴びたかった」って思うところ、完全に理解するよ…裏ボス先輩の冷たい視線、こっちも浴びたい。気絶まで持っていく密度、痺れるわ…