テラーノベル
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会社を挙げての対策が始まり、宏太からのメールはシステム側でブロックされるようになった。
警察からも「警告」の手続きを進めると連絡があり、ようやく平穏が戻るかと思った───
けれど
「……先輩、顔色がまだ優れないですね」
お昼休み
高瀬くんが差し出したのは、温かいスープだった。
会社側が対応してくれているとはいえ
一度植え付けられた「監視されている」という恐怖は、そう簡単には拭えない。
「……ごめん。なんだか、まだ背中に視線を感じる気がして」
「……無理もないです。家の方も心配ですしね」
高瀬くんは真剣な表情で、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「警察の警告が出るまで、数日かかります。…あの、もし、本当に怖いなら。その……」
彼は少しだけ言葉を濁し、耳の端を赤くしながら続けた。
「……俺の家、来ますか?セキュリティ、うちのマンションはかなり厳重ですし。……何より、俺がずっと側にいられます」
「え……?高瀬くんの家に泊まるって、こと?」
「あ、いや!もちろん変な意味じゃなくて!ボディガードとしてです」
「わ、分かってるわよ…!」
「……先輩の家はもう知られてますけど、俺の家ならあいつも手出しできません」
昨夜、私の家で見た、あの「エプロン姿の彼」と。
今日、部長の前で見せた「鋭い騎士のような彼」。
どちらが本当の彼なのか、もう私には分からなくなっていた。
けれど、一つだけ確かなことがある。
今、この瞬間も、彼が差し出してくれているその手を、私は振り払いたいとは思っていなかった。
「……迷惑、じゃない?」
「───まさか。…むしろ、ずっとそうしたかったくらいですから」
彼がふっと見せた、少しだけ独占欲の混じった笑み。
仕事とプライベート。
その境界線が、甘く、静かに崩れ始めていた。
おまる
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