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「確かに特別なお店で、佳奈美と雅にぴったりなのは理解できました」
「だろう」
「半分は皮肉です」
ここは寿司から焼き肉、ケーキまである何でもあり系食べ放題。
いわゆる焼肉系食べ放題の店だ。
90分食べ放題に携帯電話クーポン使ってドリンクバーサービス。
税込みで三千円ちょっとのコース。
「取り敢えず自由に持ってきて自由に食え。あとは自己責任な」
そんな神流先輩の号令のもと、4人バラバラな夕食会は始まった。
取り敢えず僕はささやかにサラダと牛赤身、握り寿司を取ってくる。
先輩は既にサラダとドリンクバーでのんびりしている最中。
そして佳奈美と雅はまだ探索中の模様だ。
僕の分の肉が焼けてきた頃、2人が戻ってきた。
肉肉肉肉、ホタテ、イカ、野菜野菜野菜、ケーキケーキケーキという感じにどさっと戦利品を置く。
「取り足らないので追加行ってくるですよ」
「私もお供しますわ」
置いたまま出ていった。
これはまずい兆候だ。
取るのが楽しすぎて食べきれなくなる。
食べ放題あるある問題だ。
僕はもう自分の分を取りに行くことを諦めた。
最早そんな余裕は無いだろう、確信にも似た予感がひしひしと押し寄せる。
そして第2弾の補充をがっしり持って2人が帰って来た。
「さて、もう少し取り足らないので」
「ちょっと待て。まずはこれを消化してから」
2人を引き留める。
「ここはお残し厳禁。だからまずは2人ともこれ片付けて」
「はーい、わかったのです朗人先生」
「それはいいから、さっさと焼け」
何とかこれ以上の補充を阻止することに成功。
「このお肉は便利ですね。焼くと自動的に油がちゃんと出てきます。焦げ付き防止の加工でしょうか」
雅さん、それは脂の多い安いお肉だからです。
「うーん、寿司と焼き肉と綿菓子とケーキの食い合わせは良くない模様なのです」
だったら取ってくるな。
「でも楽しいですわ。こうやって好きな物を選んで焼いて、皆で食べて」
「それは正しいのです」
2人とも会心の笑みという奴を浮かべている、
こら僕、今の2人の笑顔に騙されるな。
まあそんな感じで我関せずの神流先輩以外の3人で集中攻撃。
何とか山になっていた在庫を片付ける。
まだ僕の取り皿に焼き終わった肉がうずたかく積まれているけれど。
「それでは探索を再開するのです」
「あ、私も行きますわ」
2人で元気に出ていった。
あ、何か疲れが……
「まるでお父さんだな」
神流先輩がにやにやしながらそんな事を言う。
「そう思うなら手伝って下さい」
「太るからやだ」
おいおいおい。
「先輩なんだから少しは面倒見て下さい」
「残念ながらそれは保護者の役割だな。自覚はあるだろ」
残念ながら無い訳でも無いのが悲しい。
「でも今のあの2人にはこういう楽しさも必要だろ。今まで色々セーブしてきた感じだからさ。羽目を外すのも経験だ」
あ、少し先輩としてまともな事を言っている気もする。
ただし注意すべき点がひとつある。
「何かその分僕が犠牲になっている気がするんですけれど」
「運命だ。潔く受け入れろ」
「嫌です」
僕にも人生を選ぶ権利はあるはずだ。
「いいじゃないか。2人とも可愛いし綺麗だし。両手に花って感じだろ」
「先輩も含めて外見には特に文句を付けません」
うん、それは認めてやろう。
事実を認めないほど僕は偏狭ではない。
「おお、それは求愛の表現かい」
「ただし内面変人は勘弁して下さい。佳奈美だけで手一杯です」
「1人も2人も3人も大して変わらないだろう」
「大違いです。認めないで下さい。あと自分まで勘定に入れないで下さい」
全く。
確かに2人とも悪い奴じゃない。
顔だって悪くない。
雅はそれこそ日本風ないかにもという感じの美人だし、佳奈美も幼児体型だけれどおとなしくしていればかなり可愛い方。
ただ一般人の僕には外見以外の部分で色々オーバーキャパシティなだけだ。
「でもその割に色々面倒見がいいじゃないか。そもそもどうして佳奈美とくっついているんだい。完全な幼馴染みでは無いようだし」
「中学の時に感じたんですよ。何か仮面を被っている感じだなって」
悲しいかなその時の思いは今でも覚えている。
「何か見せかけのような笑い方をするなって。本当はもっと素敵に笑えるんじゃないかなと思って」
そんな訳で青臭い議論ふっかけたり化学実験部に誘ったり。
そうしているうちにいつの間にか懐かれてしまった。
そして温和しくて覚めた笑顔をしていた少女。
彼女はいつしか化学実験部のバルカン半島になって、今はケーキとフルーツを漁っている訳だ。
「なら同じ視線で雅の事も見てやりな。あいつも別の意味で問題を起こさないよう、いままで隔離環境で育ってきたんだ。やっと人里降りてきてあの学園というのも可哀想だが、朗人がいれば何とかなるだろう」
「何か雅の事を知っているんですか」
神流先輩はにやりと笑う。
魔女の微笑、そんな感じに。
「苦労をかけるお詫びだ。一つとっておきを見せてやろう」
そう言って神流先輩は左目に手をやる。
「これをやるときは準備が必要でな」
何をしようとしているのかはすぐわかった。
「左目はカラーコンタクトだったんですね」
「外す前に気づいたか」
「瞳の輪郭で。これくらい気づかないと佳奈美に馬鹿にされますからね。観察力が無いって」
「なんともスパルタだな、うん」
コンタクトを外した先輩はそう言ってにやりと笑う。
外した左目の色は緑色。
右目の濃茶色と全く違う。
「オッドアイだったんですね」
「不気味かい」
「単なる個性ですよ。それに隠すよりは今の方が似合っています」
「世の中が皆朗人みたいだと楽なんだがな」
先輩はそう言って左手の掌を上にして前に出す。
「簡単な手品だが解説はしないぞ。手品の種明かしなんて悲しいものだからな。では、火球」
先輩の掌の10センチ位上。
そこにふっとオレンジ色に輝く物体が出現する。
離れている僕まで熱さを感じる。
「これは?」
「まわりは気にしなくていいぞ。見ようと思わなければ見えない、そんな手品だ」
オレンジ色の球は次第に白く輝いていく。
熱もかなり感じる。
見ている顔が熱く感じるほどに。
火球は出現と同様ふっと姿を消した。
「ま、こんなものかな」
何だったんだ、今の。
思わず質問しようとする僕を先輩は手で制す。
「言っただろ。種明かしはしない」
そう言って彼女はコンタクトを再びはめ始めた。
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