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「あー、眩しい!もう目を開けていられない!」


そう言って半分目を閉じる亜由美に、瞳子は苦笑いする。


「指輪もキラッキラだけど、瞳子さんのオーラもキラッキラ!目がくらんじゃう。ダメだわ、サングラスがいる」


おもむろに胸元に差していたサングラスをかけると、これでよし、と真顔で呟く。


「何やってるのよ、亜由美ったら」


そう言って笑う千秋も、確かに眩し過ぎるわ、と頷く。


「冴島さん、女性に興味なさそうなクールなタイプに見えたけど、まさかこんなに一途に瞳子を大事にしてくれるなんて。ううん、そうさせたのは瞳子なのよね。良かったわね、おめでとう!瞳子」


「ありがとうございます」


瞳子は改めて千秋に頭を下げた。


「千秋さん、これまでいつも私を心配してくださって、本当にありがとうございました。普通の幸せを諦めて生きてきたけれど、私はもう大丈夫です。少しずつですが、過去のトラウマを克服して、必ず幸せになります」


千秋は思わず目を潤ませる。


「良かった、本当に良かったわ。瞳子には誰よりも幸せになって欲しいと思ってたから。私ではどうしても救ってあげられなかったけど、冴島さんがいてくれるなら何も心配いらないわね。幸せにね、瞳子」


「はい」


瞳子は笑顔でしっかりと頷いてみせた。


「瞳子さん、マダムになっても一緒にランチしてくださいね?」


「もちろんよ、亜由美ちゃん」


「でも寂しくなるなー。お仕事は辞めちゃうんでしょ?」


「ううん。出来る限りここでのお仕事も続けていきたいと思ってるの」


「そうなんですか?やったー!」


亜由美は途端に嬉しそうに顔を輝かせる。


「じゃあこれからも、たくさん私とデートしてくださいね!ふふっ、楽しみー!」


次はどこに行こうかな?と考え始める亜由美に、瞳子は千秋と顔を見合わせて笑った。




『瞳子ちゃん、元気ー?』


夜、部屋で夕食を食べていると、久しぶりにハルから電話がかかってきた。


「ハルさん!お久しぶりです。元気ですよ。ハルさんもお元気ですか?」


『うん、忙しいけど元気元気!』


「あ、もうすぐハルさんが主演のドラマ、始まりますもんね。楽しみにしてます!もう撮影に入ってるんですか?」

『ありがとう!そうなの、撮影で忙しいけど、今日はどうしても瞳子ちゃんに話しておきたいことがあってね』


えっ?と瞳子は首を傾げる。


「私にお話、ですか?」


なんだろう?と考えてみたが、ハルが口にした言葉は、思いもよらないことだった。


『あのね、私、好きな人が出来たの』


「えっ!ちょ、そんな、好きな人って…」


誰かに聞かれなかったかとキョロキョロしてしまい、自宅だったことを思い出してホッとする。


それにしても、一流芸能人のハルがなぜ自分にそんなトップシークレットを話してくれるのか、そちらの方が気になってしまった。


「あの、どうして私にそれを?」


『ふふふ、その前に相手は誰?って聞いてくれないの?』


「いえ、その…。聞いてもいいのでしょうか?」


『うん。言いたくて電話したんだから』


「じゃあ、えっと。どんな方なんですか?私もテレビで見かける方?」


『テレビでも見かけるけど、瞳子ちゃんなら何度も直接会ってる人よ』


「ええ?!私、芸能人に知り合いなんていませんよ?ハルさんだけです」


『あら、アナウンサーならいるでしょう?』


瞳子はハッとして目を見張る。


「それは、ひょっとして…?」


『そう、アナウンサーの倉木 友也さん。まだ勝手に私が好きになっただけの完全な片想いなんだけどね。今はお互い仕事をがんばる時だと思うから、告白は当分先かな?でもいつか、仕事でも自信が持てるようになって、その時まだ彼がフリーなら想いを伝えたいなって』


ひゃー!と瞳子は思わず頬に手を当てる。


「ハルさん、素敵です!」


『そうかな?ありがとう!この間ドラマの撮影に入る前に、同じ局の倉木さんが取材に来てくれたの。相変わらずこちらに気を遣って、熱心に話を聞いてくれてね。週刊誌の件でその後どうしてるのかなって心配してたけど、以前にも増してキリッと頼もしくて。それで私、コロッと…、惚れちゃいました』


照れたように可愛く口にするハルに、瞳子も胸がときめく。


「可愛い!ハルさん。恋する乙女ですね」


『ふふ、そんなに若くないけどね。でも彼のことを考えると、高校生の頃みたいにキュンとしちゃうの。ドラマの撮影もがんばって、またクランクアップの時にインタビューしに来てくれたらいいなー』


「来てくれますよ、きっと。私も絶対そのインタビューの放送見なくちゃ!」


『やだ、なんだか恥ずかしい。目がハートになってたらどうしよう』


「見てみたいー!恋する乙女になってるハルさん、楽しみにしてますね!」


『ありがとう!瞳子ちゃんは?相変わらずMCの仕事とアートプラネッツのお手伝いをしてるの?』


あ、はい、と瞳子は声を落とす。


『ん?どうかした?』


「あの、えっと。実は私、アートプラネッツの冴島さんと結婚を前提におつき合いをしてまして…」


『えっ、そうなの?!やだー、私より瞳子ちゃんの方が恋する乙女じゃない!そうだったのね、おめでとう!』


「ありがとうございます」


『そっかー。じゃあ私達二人とも、恋のパワーでますますがんばろうね!』


「はい!またホーラ・ウォッチのイベントでご一緒出来る日を楽しみにしています」


『うん、私も。根掘り葉掘り聞いちゃうからね?覚悟してて』


「あはは…、はい」


じゃあ、またねー!とハルが明るく言って通話を終える。


(そっか、ハルさんが先輩を…。お似合いだな。いつかハルさんの想いが結ばれますように)


瞳子は心からそう願った。




『瞳子?今、大丈夫?』


事務所の昼休みにお弁当を食べていた瞳子は、大河からの電話に一気に顔をほころばせる。


「大河さん!はい、大丈夫です」


『夕べ連絡出来なくてごめん。変わりない?』


「うん。大河さんに会えなくて寂しいけど、元気にしてます」


『そうか、俺も。瞳子が恋しいけど、いじけずに仕事してる』


「いじけずにって、あはは!いじける大河さん、見てみたい」


『なんだと?瞳子に少しでも冷たくされたら、すぐにいじけるんだからな?』


「あはは!大河さんったら、可愛い!」


『男に可愛いとか言うな!』


瞳子は笑いが止まらなくなる。


会えない寂しさは、一瞬でどこかに消えていた。


『瞳子、イタリアから帰国したら3日間オフにしたんだ。瞳子も休み取れる?どこか旅行に行かないか?』


「え、行きたい!いいの?」


『ああ、もちろん。2泊3日だから、国内になるけど』


「うん、行く!大河さんとならどこにでも行きたい!でもイタリアから帰ってすぐなんて、疲れないですか?」


『瞳子に会いたい気持ちに勝るものはないよ』


瞳子は一気に顔が赤くなる。


「う、うん。私も。千秋さんにお休みもらえるように頼んでみますね」


すると後ろから、どうぞー、行ってらっしゃーいと千秋の声がした。


「ち、千秋さん?あ、しまった!ここ事務所だった」


やれやれ、今頃思い出したの?と、千秋が呆れている。


「ごめんなさい!すぐ切りますから」


いいのよー、ごゆっくり、と千秋が席を外す。


『瞳子?大丈夫?』


「うん、大丈夫。私ったら、事務所にいること忘れてて…」


『ははっ、そうなんだ。それで?千秋さん、休み取ってもいいって?』


「そうなの。行ってらっしゃいって」


『良かった。じゃあ、早速どこに行きたいか考えておいて。決まったら色々手配するから』


「分かりました。あー、楽しみ!」


『俺もだ。じゃあな、瞳子』


「はい。お仕事がんばってくださいね」


『ありがとう、瞳子もね』


電話を切った後、早速瞳子はワクワクと旅行先を考え始めた。




「瞳子、ただいま」


「お帰りなさい、大河さん」


イタリアから帰国した翌朝。


大河は瞳子をマンションまで迎えに来た。


本当は昨日、空港からひと目瞳子に会いに行こうと思っていたのだが、旅行続きで疲れる大河を心配して、自宅でゆっくり休んでと、瞳子が断っていた。


3週間ぶりに会えた喜びに、二人は玄関でギュッと抱き合う。


胸がじんわりと温かくなり、幸せが込み上げてきた。


「やっと会えた。これから3日間は絶対に離さないからな」


「うん」


目を潤ませる瞳子に、大河は優しくキスをする。


ずっとこうしていたいが、ここにいる必要はない。


これから二人で一緒に幸せな時間を過ごすのだから。


「じゃあ、行こうか」


「はい!」


大河は瞳子の荷物を持つと、もう片方の手でしっかりと瞳子の手を握る。


停めてあった車に乗り込むと、羽田空港に向かった。


「大河さん、また空港に戻っちゃいましたね」


「ははは!そうだな。でも瞳子と一緒に飛行機に乗りたいって思ってたから、嬉しいよ」


スマートにチェックインを済ませると、搭乗ゲートに移動する。


「わあ、飛行機!大きいな、かっこいい」


瞳子は無邪気に窓に近寄り、目を輝かせた。


つられて大河も飛行機に見とれる。


(昨日も乗ったばかりなのに、瞳子と一緒だと新鮮に感じるな)


搭乗開始の時間になると、瞳子は大河の手を引っ張って、早く行こう!と子どものように急かす。


大河はふっと笑みを洩らしながらも、周りの視線を感じていた。


瞳子はやはり、皆の注目を一身に集めている。


スタイル抜群の長身の美女が、旅行のオシャレな装いで、しかも楽しそうに生き生きと顔を輝かせているのだ。


否が応でも目を奪われてしまうのだろう。


誰もが瞳子を振り返り、ヒソヒソと小声で「すごい美人」「いい女だな」などと話していた。


大河は改めて、旅行中ひとときも瞳子のそばを離れまいと、心に留めた。




「わあ、飛んだ!気持ちいい!雲の中をあっという間に抜けるんですね」


窓に張り付いて空を眺めている瞳子に、大河はクスッと笑う。


「瞳子。今からそんなだと、夜まで持たないぞ?」


「だって楽しいんですもん。大丈夫、夜までずーっとワクワクしたままですから」


瞳子の笑顔に見とれているうちに、あっという間に到着した。


降り立った場所は…


「着いたー、神戸!」


瞳子は両手を挙げて喜ぶ。


今回の旅行先を迷っていた瞳子に、大河は、関西はどう?と提案したのだった。


お好み焼きが好き、と前に瞳子が話していたのを思い出したからだ。


滞在は神戸にして、そこから大阪にも足を伸ばして本場のお好み焼きを食べに行かないか?と聞いてみた。


瞳子としても、大河が疲れないようあまり遠出をするつもりはなかったから、飛行機で1時間程の神戸はちょうど良いと思って決めた。


まずは神戸空港からポートライナーに乗り、ホテルに移動する。


「これ無人で動くんですね。あ!大河さん、一番前の席が空いてる!運転手さんみたい」


海の上を走る電車に、瞳子は身を乗り出して景色を楽しむ。


だが、あっという間にホテルの最寄り駅に到着した。


「ええー?もう降りるの?」


「また何回でも乗ればいいさ。ほら、行くぞ」


後ろ髪を引かれている瞳子を促し、改札を出てすぐのホテルに入る。


チェックインにはまだ早い為、荷物だけ預けるとまた外に出た。


「よし、じゃあ早速出かけますか」


「やったー!」


二人は手を繋ぎ、歩いて15分程の海沿いの公園に向かった。


「わあ、綺麗な海!こんな所に大学が?なんて素敵なの」


瞳子は両手を広げて胸いっぱいに深呼吸する。


「あ!大河さん、あった!BE KOBE!」


海をバックに、オシャレなアルファベットのモニュメントが映えている。


瞳子はスマートフォンの角度を変えながら、何枚も写真を撮った。


「すごい、どれも絵になるわー。プロが撮ったみたい」


しみじみと自分が撮った写真を見返す瞳子に、大河は立ち位置を指示する。


「瞳子、そこに立って海の方を見てて」


「え?うん」


言われた通りに立ち、遠くに目をやっていると、後ろから何枚も大河がシャッターを切る音がする。


「うわっ、マジでこれすごい。イケてる!行き過ぎてる!瞳子、今度はムービー撮るから、こっちから向こうに歩いて行って」


「ええー?!」


いつの間にか自分よりも遥かに興奮気味の大河に、瞳子は言われるがまま歩き出す。


「いいなー、うん。いいぞ、瞳子。あ、もう少しゆっくり…そう。ちょっと立ち止まって、そのまま振り返って…。ああっ、いい!風に髪がなびいて最高!」


「ちょっと、大河さん。みんな見てて恥ずかしいから」


遠巻きに見物され、瞳子は思わず会釈する。


「ほら、もう行きましょう。あ!その前に」


大河の手を引いた瞳子は、スマートフォンが置ける撮影台があるのに気づき、タイマーで大河と二人の写真を撮った。


「ふふっ。大河さんとのツーショット、初めて。オシャレな写真で嬉しい」


満足した二人は、再びポートライナーに乗って移動した。


「神戸って、海のイメージが強かったですけど、山も綺麗に見えるんですね」


「ああ。六甲山から見下ろすと、街と海が綺麗に見渡せる。夜の神戸の輝きは『100万ドルの夜景』と呼ばれているんだ」


「わあ、素敵!見たいなあ」


「ロープウェイで上がった所にハーブ園がある。ナイター営業もやってるから、今夜見に行こうか?」


「うん!行きたい」


それまでは、気の向くままに街を探索することにして、まずは元町の旧居留地にあるカフェに行く。


ミラノスタイルのイタリアンバールを再現した店内は、格調高い雰囲気で、本当にここは日本かと思わされる。


広々としたオープンテラスも異国情緒たっぷりで、二人は天気の良さに誘われて外で食べることにした。


「不思議。なんだか大河さんと外国に来たみたい」


「ああ、そうだな。どこを切り取っても絵になる街だ」


そう言うと、またアーティスト魂に火がついたのか、大河は何枚も瞳子の写真を撮る。


伏し目がちでカフェラテを飲む様子。


軽く頬杖をついて遠くを眺めている横顔。


背景のアーチや柱もオシャレで、写真だけ見ると、ここが日本だとはとても思えない。


すると周りの人の囁く声が聞こえてきた。


「めっちゃかっこええなあ、あの二人。芸能人カップルやで」


「え、ほんまに?」


「そうやって。あんなイケメンと美女、凡人におるか?」


「せやな。テレビで見たことある気がするわ」


「そうなんや!」


「うん。知らんけど」


ぶっと思わず大河は吹き出す。


(知らんけどって…。なんちゅー無責任な)


街はオシャレだが、会話は関西弁で面白い。


「神戸っていいな」


思わず呟くと、瞳子が、ん?と首を傾げる。


「何か言いました?」


「いや。瞳子とこの街に来られて良かったなって」


「ふふっ、私も嬉しいです。大河さん、次はハーバーランドに行きましょ!」


「ああ」


海沿いのショッピングモールで買い物を楽しみ、ベンチに座って船を眺める。


夜は新神戸のホテルで美味しい神戸牛を味わい、最後にロープウェイでハーブ園に上がった。


「なんて綺麗なの…。星空がそのまま下りてきたみたい」


眼下に広がる散りばめられた輝きに、瞳子はうっとりと両手を組む。


「この景色をずっと忘れないでいます。大河さんと一緒に見た、幸せな夜の景色を」


大河は優しく瞳子に微笑むと、そっと肩を抱き寄せる。


二人はいつまでも身を寄せ合い、美しい夜景と幸せな時間に酔いしれていた。

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