テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第15話 〚人が増えると消える声〛(澪視点)
昼休みの終わり、
教室には私たち五人しかいなかった。
澪、えま、しおり、みさと、湊。
静かで、落ち着く時間。
「そういえばさ」
湊が急に立ち上がった。
「小学生の時、俺が消しゴム落とすたびに
“これは床の意思だ”とか言ってたの覚えてる?」
一瞬、沈黙。
次の瞬間——
「なにそれ!」
えまが吹き出した。
「意味分からなすぎでしょ」
「いや、でも湊そういうボケ多かった」
しおりが笑いながら言う。
「急に哲学ぶるやつ」
「床の意思は今もあると思うけど」
湊が真顔で言って、
みさとまで笑った。
私も、
思わず声を出して笑う。
(……この感じ)
懐かしくて、
安心する。
その時。
「何してんの?」
教室の入口から、
海翔の声。
隣には、玲央。
少し遅れて、りあも入ってきた。
空気が、変わる。
湊の背中が、
一瞬で固まった。
「……」
さっきまでの表情が消える。
目線が下がり、
口が閉じる。
完全な——
コミュ障モード。
「白石?」
海翔が声をかける。
湊は、
ゆっくり頷いた。
それだけ。
「今、何の話してたの?」
玲央が聞くと、
湊はもう一度、頷く。
説明しない。
しないというより、
できない。
「……あ」
私が何か言おうとした瞬間、
湊は小さく会釈して、
「……用事、思い出した」
それだけ言って、
教室を出て行った。
ドアが閉まる。
一瞬、
誰も喋らなかった。
「……え?」
りあが目を瞬かせる。
「今の、湊?」
「さっきまでめっちゃ喋ってたのに」
えまが言う。
私は、
胸に手を当てた。
(……うん)
これが、
湊の境界線。
人が増えると、
声が消える。
信用していないからじゃない。
まだ、判断しているだけ。
「……びっくりしたな」
海翔が小さく言う。
その表情は、
困惑と、少しの考え事。
私は、
湊が去った廊下を見た。
(大丈夫)
いつか、
ここにも声は戻る。
それまでは——
無理に、引き戻さない。