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「詳しいことは前田君にいろいろ聞いてみてくれ。必ず力になってくれるから」
嘘、まだ引き受けたわけじゃないのに、どんどん話が進んでく。
「でも……」
すぐには返事できない。
「雫が頑張ってる姿を見たら、俺も頑張れる」
「え……?」
「今回はうちにとっても大切なイベントなんだ。だから失敗はできない。怖いのは俺も同じ。でも、雫と一緒なら……俺……」
そう言って、私を見つめた。
イケメンで、スタイルも、頭も良い祐誠さん。
お金もあって、全てに自信をもって生きてるんだと思ってた。
特に仕事なんて、誰よりも自信があるのかと。
でも……
榊グループは、世界に通用するあまりにも立派な大企業。
社長として、私なんかが想像もできないくらい大変な苦労があるんだろう。
私は、祐誠さんの意外な一面を見て、ちょっとほろっとした。
その時、祐誠さんは急にソファから立ち上がって、私の隣に座った。
えっ? どうしたの?
そこから1秒。
「少しだけ……このまま」
祐誠さんの囁きが、私の耳元をかすめた。
何が起こったのか全く理解できなくて、一瞬にして自分の中の時間がピタッと止まってしまった。
これって……
体中に温かな何かが流れ込んでくる。
私は、数秒かけて理解した、祐誠さんに包まれているんだと。
想像もしなかった出来事。
背中に感じる祐誠さんの両方の手のひらの感覚に、私の胸は一気に高鳴った。
「初めてだ。自分以外の誰かに、俺の弱さを見せたのは……」
「祐誠……さん」
かろうじて口が動いた。
「雫……頼む。俺のこと、抱きしめて……」
止まらない祐誠さんのお願い。
甘くて艶っぽいその声に、私はドキドキし過ぎて息の仕方がわからなくなってしまった。
不思議……
いつもいつも頑張って大きな何かと戦ってるこの人のこと、すごく抱きしめてあげたくなった。
祐誠さんは、まだ私を離さない。
2人だけの静かな空間に、ほんの少しだけ……あなたが息をする音が漏れる。
私は、ゆっくりと祐誠さんの肩の辺りに腕を回した。
洋服同士がこすれる音まで鮮明に耳に届く。
「雫……すまない」
私なんかに、そんなこと……言わないで。
「私、祐誠さんのお役に立てるかわからないですけど、でも……そのイベント頑張ってみます。だから、謝らないで下さい」
祐誠さんは、ゆっくりとうなづいた。
今、私達はただお互い抱きしめ合うだけ――それ以上の言葉も行動も、ここには存在しない。
それでも、あなたの優しいぬくもりで、私の心がまた少し……溶かされていくのがわかった。