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晩白柚
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今日も今日とて💚💙
第二十三話 隠し味は〝愛〟
亮平 side
― 観測記録:R ―
時刻 23:41。場所:自宅寝室。
対象者:翔太。
状態:塩分過多/体温上昇/精神混乱。
原因:自爆的本音流出。
――要するに、さっきの
「優しいの外で言われるの嫌なんだけど」
だ。
あれは完全に規約違反だったな。
翔太は今、ブランケットの中で固まっている。
さっきまで鍋をかき混ぜていた手が、今は俺のシャツを掴んだまま離れない。
逃げる気もないくせに、視線だけは逸らす。
分かりやすい。
ほんとに。
腕の中で、翔太の身体が少し動く。
「……離せよ」
声は小さい。
でも。
シャツは離さない。
俺は笑いそうになるのを堪えて、翔太の額に軽く触れる。
熱はない。
あるのは――別の熱。
「顔、まだ赤い」
「うるさい」
「塩のせい?」
「違う」
即答。
やっぱり分かりやすい。
今日の鍋、少ししょっぱかった。
でも。
味を決めてたのは、塩じゃない。
「分かる?」
「……なに」
「今日の料理のさ」
少し間を置く。
「隠し味」
翔太の肩がぴくっと揺れる。
俺は笑う。
「――愛」
沈黙。
三秒。
五秒。
翔太がゆっくり顔を上げる。
三白眼が細くなる。
たぶん今、
――滅。
とか思ってる。
でも耳は赤い。
俺は翔太の顎に触れる。
指先が、顎に触れる。
少し持ち上げる。
近い。
逃げない。
逃げられない。
低く呟く。
「観測記録」
翔太が眉を寄せる。
「……なにそれ」
気にせず続ける。
「呼吸」
少し近づく。
「乱れあり」
さらに近い。
「耳」
翔太がぴくっと動く。
「赤色域」
「……うるさい」
「距離」
腕を回す。
逃げ場を塞ぐ。
「ゼロ」
翔太の呼吸が止まる。
小さく笑う。
「原因」
間。
翔太の視線が揺れる。
シャツを掴む手が強くなる。
囁く。
「……嫉妬」
ぴたりと動きが止まる。
「違う」
即答。
でも。
手は離さない。
俺は小さく笑う。
「違わない」
そう言って、そっと唇に触れる。
一度。
翔太が息を止める。
離れない。
「俺のだから」
もう一度。
さっきより、少し長く。
呼吸が混ざる。
境界が曖昧になる。
「ほら」
額を合わせる。
「隠し味、ちゃんと効いてる」
翔太の耳は、まだ赤い。
分かりやすい。
俺は小さく息を吐く。
……ほんと。
分かりやすい。
このままだと、そのうち。
嫉妬対策室
なんて部署ができるかもしれない。
いや。
もうあるのかもしれない。
室長は――
翔太だろうけど。
(※推定ログ)
健康保全課:
「対象者R、塩分過多」
温度保護課?:
「顔面温度 上昇」
距離管理課?:
「距離 ゼロ 維持不能」
匂い保存課:
「至近距離接触 警戒域」
総務?:
「案件:Sの嫉妬」
俺は翔太の顎を指で持ち上げる。
「ほら、ちゃんと見ろよ」
逃げ場を塞いだまま、ゆっくりキスを落とす。
胸に押し当てた手のひらに、
跳ね返る翔太の鼓動。
シャツに手をかけると、
翔太の喉が小さく上下する。
首筋に舌を這わせた瞬間、
ぴくりと身体が震える。
潤んだ瞳。
小さく漏れた声。
逃がす気もない。
――その時点で、俺の理性はもう残っていなかった。
――観測者R:
理性 壊滅
原因:可愛い
対策:捕獲済
追加観測:
対象S 衣服 脱衣済
距離 ゼロ
接触面積 最大
体温 高
皮膚温 上昇
脈拍 速
呼吸 乱れ
観測継続 必要
耐久試験課:
「スプリング音 異常
マットレス買い替え検討」
観測者記録【弐】――捕獲――