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「……ボス、遅いですね」
リエーレが時計を閉じる。
「まあ、あの人が時間通り帰る方が珍しいだろ」
カポは椅子にだらっと座りながら足を組む。
「でも……なんか静かで、変な感じです……」
ソルが落ち着かない様子で周囲を見回す。
「僕はちょっと寂しいです」
ラクティーは正直だった。
——その時。
コツ、コツ、コツ。
靴音。
全員が同時に顔を上げる。
ドアは閉まっているはずなのに、
気づけば——
そこに“いる”。
黒いスーツ、黒いフェドラ帽、サングラス。
「……へえ」
男は、ゆっくりと部屋を見渡す。
「ここがあいつの巣か」
「誰だ、お前」
カポが即座に立ち上がる。
だが男は気にしない。
むしろ楽しそうに笑った。
「初対面でその顔か。いいね、嫌いじゃない」
軽く帽子のつばに触れ、
「俺はチャンス」
その名前が落ちた瞬間、
空気が一段、冷える。
リエーレの目が細まる。
「……なるほど。例の」
「話が早くて助かる」
チャンスは肩をすくめる。
「で、ボスはいないと」
「用件は」
リエーレの声は静かだが、明確に警戒している。
「ただの挨拶さ」
一歩、踏み込む。
「……と、少しの暇つぶし」
▶ カポ
「暇つぶしだぁ?」
カポがにやっと笑う。
「いいぜ、付き合ってやるよ」
「気に入った。単純で」
「褒めてねぇだろそれ」
だがもう距離は近い。
「勝負するか?」
「いいね。何でも」
「腕相撲でどうだ」
「原始的だな。でも嫌いじゃない」
——数秒後。
「っ……はは、強いな」
負けたのはチャンスだった。
「だろ?」
カポが勝ち誇る。
だが次の瞬間
「でもさ」
チャンスが顔を近づける。
「“勝った顔”、隙だらけだぞ」
ぞく、と背筋をなぞる声。
「っ……」
一瞬で距離を支配される。
「……面白いな、お前」
気づけば、笑っていた。
(なんだこいつ……)
警戒はあるのに、嫌じゃない。
むしろ——もっとやり合いたくなる。
▶ リエーレ
「あなた、危険ですね」
リエーレは一歩も動かない。
「よく言われる」
「ボスの敵ですか?」
「どうだろうな」
曖昧に笑うチャンス。
「でも——」
一瞬で間合いに入る。
「君は好きだ」
「……軽いですね」
「本気だよ」
即答。
「冷静で、賢くて、でも一番“縛られてる”顔してる」
ピクリ、と指先が止まる。
「図星か?」
「……分析ごっこですか」
「違うな」
チャンスは低く囁く。
「解放してやりたくなる」
沈黙。
「……おかしなことを言う」
だが、
ほんのわずかに視線が揺れた。
▶ ソル
「ひっ……」
完全に警戒モード。
「そんな怖がるなよ」
チャンスはしゃがんで目線を合わせる。
「俺、そんなに怖いか?」
「だ、だって……」
「大丈夫だって」
ぽん、と頭に手を置く。
「……!」
「こういう顔のやつ、嫌いじゃない」
優しく撫でる。
「守りたくなるだろ」
「っ……」
顔が赤くなるソル。
「無理すんな。怖いなら怖いでいい」
その言葉が、妙に刺さる。
(ボスとは違う……でも……)
気づけば、少しだけ距離が縮まっていた。
▶ ラクティー
「君、面白いですね」
ラクティーがじっと見つめる。
「そう?」
「はい。なんか……自由です」
「正解」
チャンスは笑う。
「縛られるの嫌いなんだ」
「僕もです」
即答。
「でもボスは好きですよ?」
「だろうな」
「でも君も好きかも」
「早いな」
「だって楽しいから」
ラクティーは無邪気に笑う。
「一緒に何か壊しませんか?」
「いいね、それ」
軽く拳を合わせる二人。
(危険度MAXコンビ成立)
そして——
「……なるほど」
部屋の中央で、チャンスは満足げに息を吐く。
「全員、いいな」
カポは腕を組みながら、
リエーレは静かに立ち、
ソルは少し近くにいて、
ラクティーは隣にいる。
誰一人、最初の距離には戻っていない。
「ボスが気に入るわけだ」
そう呟いた瞬間——
ドアの向こうから、
コツ、と足音が響く。
「……あ」
ソルが固まる。
リエーレの目が細まる。
カポが舌打ちする。
ラクティーは笑う。
チャンスは——
「タイミングいいな」
くっと笑った。
「続きはまた今度、だな」
帽子に触れ、
「伝えとけよ」
振り返らずに言う。
「“取り返しに来るなら、もっと面白くしろ”って」
——消える。
まるで最初からいなかったみたいに。
数秒後。
ドアが開く。
「……戻った」
マフィオソが入ってくる。
「何かあったか」
沈黙。
「……いや」
カポが口を開く。
「ちょっとな」
リエーレは何も言わない。
ソルは落ち着かない。
ラクティーはにこにこしている。
「……妙だな」
マフィオソはわずかに目を細める。
(空気が変わっている)
だが——理由は分からない。
「……まあいい」
席に着く。
その背中を見ながら、
全員が同じことを思っていた。
(あいつ、また来る)
そして——
(ちょっと楽しみだ)