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マフィオソが席を外した直後。
——沈黙。
さっきまでの空気が、妙に残っている。
「……で」
最初に口を開いたのはカポ。
「結局よ、誰が一番“気に入られた”と思う?」
ピタッ。
空気が止まる。
「……不毛な議題ですね」
リエーレはそう言いながらも、否定はしない。
「いや気になるだろ普通に」
「俺は別に……」
ソルは目を逸らす。
「僕は多分、好きって言われました」
ラクティー、無邪気に爆弾投下。
「は?」
カポが振り向く。
「好き“かも”ですけど」
「どっちでも変わんねぇよ!!」
「軽率ですね」
リエーレが静かに言う。
「ですが……確かに、あの男は“言葉の選び方”が巧妙だ」
「だろ?」
カポが腕を組む。
「俺は“面白い”って言われた」
「それ、誰にでも言うタイプですよ」
「うるせぇ」
「……俺は」
ソルがぽつりと呟く。
「守りたくなる、って……」
一瞬、全員が黙る。
「それは……」
リエーレが目を細める。
「随分と直接的ですね」
「やめろよそういう言い方……!」
顔を真っ赤にするソル。
「つまり」
カポがまとめに入る。
「全員、なんかしら刺さってるってことか」
沈黙。
否定できる者はいない。
「……気に入られたかどうかより」
リエーレが静かに言う。
「こちらがどう感じたか、の方が問題でしょう」
「……あ?」
「認めますか?」
その言葉に、誰もすぐ答えない。
(楽しかった)
(また会ってみたい)
——そんな感情を。
「……チッ」
カポが舌打ちする。
「気に食わねぇな」
「同意します」
「でも……」
ソルが小さく言う。
「ちょっとだけ……わかるかも」
「僕は好きですよ」
ラクティー、即答。
「お前はもう少し疑え!!」
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騒がしさが戻る。
だけど——
全員、どこか落ち着かない。
理由は一つ。
(ボスに知られたら、どうなる?)
その日の夜。
「……報告は以上か」
マフィオソが書類を閉じる。
「はい」
リエーレが答える。
だが——
「……妙だな」
低く落ちる声。
「何がですか」
「お前たちだ」
一瞬で空気が張り詰める。
「動きが鈍い。判断も遅い」
視線が、一人ずつを射抜く。
「何があった」
沈黙。
誰も口を開かない。
「……言え」
少しだけ、圧が強まる。
「別に、何も」
カポが先に口を開く。
「ただちょっと、来客があっただけだ」
「来客?」
「……チャンスだ」
ピタリ。
時間が止まる。
「…………」
マフィオソの指が、わずかに止まる。
「ほう」
それだけ。
だが——
空気が一段、冷える。
「接触したのか」
「勝手に入ってきた」
「で?」
短い一言。
それだけで、全員が息を呑む。
「……何もねぇよ」
カポが言う。
「少し話しただけだ」
「そうか」
マフィオソは立ち上がる。
コツ、コツ、と歩く。
そして——
ソルの前で止まる。
「怖かったか」
「っ……い、いえ……」
「そうか」
次にラクティー。
「楽しかったか」
「はい」
即答。
「……そうか」
最後に、リエーレ。
「お前はどうだ」
「……興味深い人物でした」
「興味深い、か」
繰り返す声が、低い。
そして——
カポの前。
「お前は」
「……面白かったよ」
少しだけ、挑むように返す。
沈黙。
数秒。
「……なるほど」
マフィオソはゆっくりと全員を見る。
「随分と」
その目が、わずかに細まる。
「気に入られたようだな」
その一言で——
全員の背筋が凍る。
怒っているわけじゃない。
声も、いつも通り。
なのに。
「……次に来たら」
静かに告げる。
「必ず、私に通せ」
「勝手に帰すな」
「……はい」
リエーレが答える。
「それと」
マフィオソは少しだけ間を置く。
「——浮つくな」
ピクリ、と全員が反応する。
「お前たちは、誰の下にいる」
答えは一つ。
「……ボスです」
「なら、忘れるな」
それだけ言って、
マフィオソは背を向ける。
だが——
見えない位置で。
ぎり、と
手袋越しに指がわずかに食い込んでいる。
(面白い、か)
(楽しい、か)
(興味深い、か)
胸の奥で、何かが静かに燻る。
「……チャンス」
小さく、名前を呼ぶ。
その声音は——
静かで、
冷たくて、
ほんの少しだけ、
“執着”が混ざっていた。