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「はっ……何それ」
私は、グランツの言葉に耳を疑った。
私に嫌われたくなかった?何それ。意味わからない。
「あの日、見るに堪えない醜態をさらしてしまったので」
と、グランツは視線をそらしながら言う。
そう思っているなら、尚更その理由を知りたいと私は尋ねた。
けれど、グランツは重い口を開こうとしない。これは、黙っていれば私が流してくれると思っているのではなく、本当に話したくないようだった。
なら、仕方がないか……と私は彼の襟を離す。
「ごめん、なさい……感情的になっちゃった」
「いえ、元はと言えば俺が悪いので。エトワール様に理由を話さず避けていて……寂しかったんですか?」
と、グランツは私に尋ねる。
私は少し考え、小さくうなずくとグランツはほんの少しだけ口角を上げた。
そして、彼の好感度がピコンと音を立てて上昇する。数字は54を示している。
「……ぁ」
「どうしたんですか、エトワール様」
「ううん、何でもないから。寂しかったっていうか、避けられて結構怒ってたんだけど」
「……それは」
「まあ、もう別にいいけど。雨降ってるし、流す」
「意味が分かりません」
そういいつつも、グランツはフッと笑う。
そうして、彼は私の手を握ると立ち上がった。
私は、突然手を握られ驚くもすぐに平静を装い彼を見上げる。
雨も弱くなり、うっすらと空には青い部分が見え始めた。どうやら通り雨だったようだ。
「ああ、そうだ。私、これを渡すためにアンタのこと探してたんだった」
「これは……」
「本当は、アンタが正式に護衛騎士になったときに渡すつもりで用意してたんだけど渡し忘れちゃって。そのせいで、彼奴にあんなこと言われて……ごめんね、私がもっとしっかりしていれば」
「いいえ……いいえ。闇魔法の者達は皆心の無い者ばかりなので、気にしてません」
と、グランツはいったがやはりアルベドのことを闇魔法を使う者というくくりで見ているようだった。
気にしていないといいつつも、そういうと言うことはやはり気にしている。
私は中身がグランツより年上な為、年下なグランツが可愛く思えてしまった。
「勿論、受け取ってくれるわよね」
「……こんなに、良いものを?」
「そりゃ、私の護衛騎士だし」
そう私が言うと、グランツは目を見開きその翡翠の瞳を輝かせた。
私は手に持っていた魔剣を彼に手渡すと、彼はさらに驚いたように私を見た。
「高かったんじゃないですか……」
「お金なんて気にしないで。それに、剣は騎士の命でしょ? なるべく、長持ちするものを……」
お金は私が稼いだ物ではないけれど……と思いつつ私は笑顔を作ってグランツに向けた。
グランツにあげた剣は、魔剣で彼の『魔法を斬ることができる魔法』と相性の良いものを選んだつもりだ。そりゃあ、お金はもう目玉が飛び出るほど高価だったけど唯一の騎士に渡すものだから奮発した。
柄は滑りにくいようなものに、そして彼の瞳と同じ翡翠色の宝石の装飾を。刃は真っ白く光り輝くもので、切れ味抜群だ。
グランツはその美しい刀身を眺めると私から一旦離れ、一振りする。グランツが剣を振ったのと同時に、光が漏れ出しキラキラと反射する。
私は、思わず目を細めた。
眩しい……けど、綺麗な光景だ。
グランツはそれから何度か素振りをした後、剣を鞘にしまった。
「……ありがとうございます、エトワール様。大切にします」
「お礼なんていいよ……私がしたくてしたんだし。それに、自分の唯一の騎士に剣を送るのは当然のことじゃない?違う、のかな」
そう言って、私は首を傾げる。
この世界では、こういう風に自分の騎士には武器を贈るのが一般的らしいのだが……まだ此の世界の文化とかに馴染めず、探り探りでやっている感じなので、これが正しいのかどうかは分からない。
まあ、いいか。グランツが喜んでくれたのならそれで。
「……さてと」
私は立ち上がり、背伸びをする。雨に打たれたせいで身体が冷たい。
そして、再びグランツの方を向いた。
「それじゃあ、私はそろそろ行くね」
「何処へ行かれるんですか?」
「んー……まあ、雨に降られちゃったからお風呂入ろうかなって」
「……っ、そうですか。それでは、また……お気を付けて」
グランツは一瞬顔を赤らめ、さも平然を装って私に頭を下げる。
あれ、私なんか変なこと言ったかな?
私はそう思い、グランツの方を見たが彼は顔を背けてしまいあわせてくれない。
「ねえ、グランツ。なんで顔あわせてくれないの?」
「今は、見られたくないので」
「えぇ……そんなこと言われたら、見たくなる」
「……」
グランツは黙ってしまった。
いや、だからなんで黙っちゃうの!? 余計に気になるじゃん! でも、これ以上しつこくすると嫌われてしまうかもしれないしなぁ……
仕方ない、諦めるか……と私は少し残念に思いながら、グランツに背を向けると彼は一言、二言呟いた。
「闇魔法の魔道士に家族を殺されたので、俺は彼奴らのこと全員嫌いなんです。憎くて、憎くてたまらない」
「え……?」
その言葉に私は思わず声を漏らす。
(今なんて……?)
私は信じられない気持ちになり振返るが、そこにいるのはいつもの無表情で空虚な翡翠の瞳をしているグランツだった。
「どうしたんですか? エトワール様」
「い、いや……ううん、何も。何もないけど……」
聞き間違い、ではないだろうけど、これ以上言及するのはやめようと私は思った。
深入りして地雷を踏んだら好感度が下がりかねない。
ただグランツは、平民と差別されてきた怒りとは別に闇魔法の魔道士やそれらを扱う者達に計り知れない憎悪を秘めているようだ。
それは、きっと……彼の過去が関係しているんだろう。
けれど、それを無理矢理聞くつもりはない。本人が話してくれるのを待とうと思う。
(でも、本物の聖女が現われて……世界のルールに従い、私が闇落ちして闇魔法を使うようになったら……グランツは……)
私はそこまで考えて、思考を止めた。
考えたくないことだ。今考えて怖じ気づいていたらきっとこの先不安に押しつぶされて息ができなくなる。
そうならないためにも、私はもっと強くならなくてはいけないんだ。
私は、ギュッと拳を握った後再びグランツに背を向けて走る。
「エトワール様は、俺の事……」
エトワールが去った林の中でグランツは彼女から貰った剣を握りしめ、胸ポケットにしまっていた枯れてしまったアザレアの花をそっと手で包み込んだ。