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ベンチに座りながら日向をぽかぽかと浴びていると、眠くなってくるなぁ。このまま寝ちゃいそうだなと思っていると、「きゃー!!」という悲鳴が聞こえた。
声がした方を向くと、何だか人だかりがこちらの方に流れ込んでくる。
「キッド海賊団だー!!!」
え、キッド海賊団? え? マジで言ってる?
困惑する俺など構わずに、人だかりは俺のいる広場を超えて、どんどん先へと流れていく。気づけば俺一人だ。そ、そんなことある?
面倒なことになる前に俺もここを離れようと立ち上がる。
「おい」
低い声で呼び止められて振り返ると、そこには背が高く、目つきの鋭い男が立っていた。
赤い髪に、ビジュアル系バンドのような恰好。それにさっき誰かが言っていた〝キッド海賊団〟の言葉。間違いない。目の前の男はユースタス・キッドだ。
原作よりも少し幼い顔してるな……。5年前だから当たり前か……。
視線がかち合い、男の瞳がぎらりと光る。俺は腰に差している烏融に手を伸ばし、いつでも抜けるように構える。すると男は、俺が臨戦態勢に入ったことに気づいたのか、小さく舌打ちをして、そしてニヤリと口角を上げた。
その瞬間、俺は嫌な予感を感じ取った。ぞくぞくと、背中が粟立つような感覚。
本能的にヤバいと察した俺は、すぐにその場から駆け出そうとしたのだが、がしりと腕を掴まれる。まずい、と思った時にはもう遅かった。一瞬で距離を詰められ、きっと抵抗をすればすぐにでも殺せるであろう力加減で、強く握られる。痛ぇ……っ!!
俺が顔を歪めたのを見て、少しだけ力が緩められた。それでも抜け出せそうにはないが。
「テメェ、名前は?」
は? 名前? なんで?
そう思いながらも、素直に答えることにした。
「ジェイデン…」
俺の名前を聞いた途端、男の目が大きく見開かれたかと思えば、目を細め、愉快そうに笑う。なんだよ、一体……。俺は訳が分からず首を傾げる。すると、男の手が伸びてきて、顎をぐっと持ち上げられた。顔近いんですけど!?
そう思ったのも束の間、唇に押し当てられる柔らかい感触。キスされてるんだと理解するのに時間はかからなかった。俺は驚いて固まってしまう。だってまさか、会って5分も経っていない奴にキスされるなんて誰が思うだろうか。しかも俺これがファーストキスだし。
ちゅ、と音を立てて離れた後、至近距離にある赤い目が三日月のように弧を描く。
「気に入ったぜ、ジェイデン」
そう言って、また俺に覆いかぶさるようにして、今度は首筋に噛みつかれる。
「っ……!」
痛みが走り、思わず声が出そうになるが、なんとか堪えて我慢をする。やがて満足したのか、ゆっくりと離れていった。
頭の中が落ち着かない。脳みそがキャパオーバーを起こしているようだ。やがて、ぼろ、と俺の目から涙が零れ落ちる。それを見た男はぎょっとした表情を浮かべた。そんな表情をされたところで俺の目から溢れる涙は止まらない。手で拭うが、次から次に溢れてくる。
「う゛~~……」
俺は泣きながらその場にしゃがみ込む。
いくら目の前の男がユースタス・キッドだと知っていても、俺と彼は初対面なのだ。そんな人に急にキスなんかされたら、誰だって驚くだろう。それに加えて俺はテンパって涙が出てきただけなんだ。情けないって? うるせぇうるせぇ。いざ目の前にキッドがいてちょっと怖くなったんだよ。
嗚咽が漏れないように必死に抑えるが、それでも時々ひくりと喉が鳴る。
「……悪かった」
上から降ってきた言葉に、俯いていた顔を上げると、男は罰の悪そうな顔をしていた。それから俺の頭をぽんぽんとして、もう一度すまねぇ、と謝る。
「俺ァキッド、ユースタス・キッドだ」
キッドはそう言って名乗った。何か返事をしようにも、未だにしゃくり上げているせいで上手く喋れない。だから俺は、こくりと一度縦に頭を振る。
キッドは困ったように眉間にシワを寄せて、どうしたものかと考えあぐねている様子だった。
「触れていいか?」
キッドがそう聞いてきたから、俺は小さく首を縦に振った。触れるだけなら、と。キッドの大きな手が、俺の頬に添えられる。親指で優しく撫でられて、少しずつ落ち着いてくる。さっき勝手に俺の唇を奪ったやつなのにな、不思議だ。
「…………なんで、俺にキスをしたんだ。俺を女と見間違えでもしたのか」
「違う」
「じゃあなんで」
「……惚れたからだ」
へ? 今なんて言った? 聞き間違いじゃなければ、惚れた、って言わなかったか? え、どういうこと?
また俺の思考回路がショート寸前になる。