テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
38
#オフィスラブ
ゆうクロ。
1,069
第1話 『好きになった方が負け』
紬「……ちょっとそれ重くない?」
朝の廊下。
私は、両手いっぱいに荷物を抱えて歩いている友達に声をかけた。
友達「え?」
紬「それ、全部持ってきたの?」
友達「うん今日使うやつなんだって〜先生に頼まれてて」
紬「貸してちょっとぐらい持つよ」
友達「え、大丈夫だよ」
紬「大丈夫じゃないでしょ。ほら」
私は友達が抱えていた荷物を半分受け取る。
友達「……ありがと」
紬「これ結構重いじゃん」
友達「でしょ?私もう腕パンパン〜」
紬「なんで一人で持ってたの?」
友達「だって、先生に頼まれたの私だけだったから」
紬「頼まれたからって、全部一人でやらないといけないってわけじゃないのよ」
友達「でも、誰かに頼むのも悪いかなって」
紬「頼る事も覚えた方がいいと思うけどね〜」
友達「紬に言われたくないんだけど!」
紬「私はいいの〜」
友達「何それ!」
くだらない話をしながら、二人で教室へ向かう。
私は、水野紬。
高校二年生。
家族や友達を大切にすること。
困っている人がいたら、できる範囲で手を貸すこと。
自分が間違っていると思ったことには、ちゃんと声を上げること。
それが、私の中では当たり前だった。
だからなのか。
学校では、よく人に頼られる。
生徒「紬〜これ先生に渡してきて!」
「分かった」
生徒「水野、今日の委員会一緒に来てくれない?相方が今日に限って休みで……」
紬「休みか〜それならしょうがないね……わかった行くよ!」
生徒「マジ神〜ありがとう!」
生徒「紬、これどうしたらいい?いつまで経っても理解できなくて」
紬「ちょっと見せてくれる?」
気づけば、いつも誰かの頼み事を聞いている。
別に、嫌なわけじゃない。
むしろ、頼ってもらえるのは嬉しい。
ただ――
紬「……私って、そんなに暇そうに見えるのかな〜……」
友達「え?」
紬「いや、何でもない!何でもない!」
友達「何そんな焦ってるの……」
紬「気のせいじゃない?気のせい!」
──────
教室に入ると、いつもより騒がしい。
友達「ねえねえ!紬」
紬「ん?」
友達「今日、転校生来るんだって」
紬「そういえば、昨日先生が言ってたような……みんな騒いでたし」
友達「男の子らしいよ!?」
紬「男なんだ……女の子が良かった……」
友達「しかも、めちゃくちゃイケメンなんだって!」
紬「自分をイケメンとか思ってるタイプなんだ……」
友達「昨日からその話ばっかりだよ!」
紬「来たら即人気出そう……」
友達「さっきから会話成り立ってなくない!?」
紬「成り立ってるよー多分」
友達「反応がそうじゃないって言ってるもん!」
紬「そんな事ないよ!ほら!楽しみだよ!」
友達「ほんと?」
紬「うん!(多分)」
友達「ならいいけど〜……」
私は自分の席に座った。
教室のあちこちから、転校生の話が聞こえてくる。
どうやら、かなり前から噂になっていたらしい。
私はそこまで気にせず、鞄から教科書を取り出した。
先生「はい、席つけー」
担任が教室に入ってくる。
教室が少しずつ静かになる。
先生「今日は、みんなに紹介する人がいる」
先生が教室の扉を見る。
先生「入ってこい」
扉が開いた。
「……」
一瞬。
教室が静まり返った。
入ってきた男子生徒は、誰が見ても分かるくらい整った顔をしていた。
すらっとした身長。
綺麗な顔立ち。
そして、どこか余裕のある表情。
先生の隣に立った彼は、教室を一度見回す。
先生「自己紹介をしろ」
翠「雨宮翠です」
短く名乗ってから、彼は少し笑った。
翠「今日からよろしくお願いします」
「…………」
数秒の沈黙。
そして――
女子A「……え、めっちゃかっこよくない?」
女子B「やば……」
女子C「本当にイケメンじゃん!」
女子D「彼女いるのかな?」
女子E「どこから来たの?」
教室が一気に騒がしくなる。
先生「お前ら、落ち着け」
先生が呆れたように言う。
それでも、女子たちの視線は雨宮くんに集まったままだった。
私はその様子を見ながら、少し笑う。
紬「……すごい人気」
友達「ね!?」
紬「やっぱ予想は合っていた……」
友達「紬もちゃんと見て!」
紬「見てるよ?」
友達「どう!?かっこいいよね!!」
紬「そうなんじゃない?」
友達「えーちゃんとかっこいいでしょ!!」
紬「………あれただ自分の事を理解した上で振舞ってるだけ」
友達「ナルシストってこと??」
紬「わたし個人の思いだけどね」
友達「ナルシストって言ってもかっこいいのは変わらない!」
紬「まぁそうだね……」
私はそう言って、机の上を整えた。
周りではまだ女子たちが騒いでいる。
でも私は、そこまで興味が湧かなかった。
顔がいい。
それは分かる。
けれど、それだけ。
まだ何も知らない人なんだから。
先生「雨宮の席は……」
先生が教室を見回す。
先生「水野の隣な」
紬「……え?」
思わず顔を上げる。
教室中から、小さなどよめきが起こった。
女子A「え、いいな……」
女子B「水野さんの隣!?」
友達「紬!よかったじゃん!」
紬「何が?」
友達「だって、イケメンの隣だよ?」
紬「そういうことじゃないでしょ」
私は苦笑する。
そんなやり取りをしている間に、雨宮くんがこちらへ歩いてきた。
翠「ここ?」
紬「はい。そこです」
翠「ありがと〜」
雨宮くんが席に座る。
そして、こちらを見る。
翠「改めて。よろしくね、水野さん」
紬「よろしくお願いします」
初対面。
だから、自然と敬語になる。
翠「……水野さんって、真面目そう」
紬「そうですか?」
翠「うん」
紬「よく言われます」
翠「へぇ〜」
そこで一度会話が途切れる。
私は教科書を開く。
すると――
翠「ねえ」
紬「はい?」
翠「この学校って、変なルールあるよね」
紬「……ああ」
私は少しだけ眉を寄せた。
紬「『好きになった方が負け』のことですか?」
翠「そう、それ」
紬「知ってるんですね」
翠「さっき先生が説明してたじゃん」
紬「ああ、そうでしたね」
この学校には、少し変わった風習がある。
恋愛に関する独自のルール。
――先に好きになった方が負け。
誰が決めたのかも分からない。
いつから始まったのかも分からない。
ただ、生徒たちの間では当たり前のように語られている。
翠「まーじクソじゃね?」
紬「……まぁそれはそうですね」
思わず笑ってしまった。
翠「ん?どうかした?」
紬「いえ。そんなにはっきり言うんだなと思って」
翠「だって変じゃん」
紬「まあ……それは、そうですね」
翠「好きになったら負けって」
紬「私も好きじゃないです」
翠「水野さんも?」
紬「はい」
紬「恋愛を勝ち負けで考えること自体、私はあまり好きじゃないです」
翠「へぇ」
紬「好きになるって、自分で自由に決められるものじゃないでしょう」
翠「……」
紬「だから、そういう気持ちまでゲームみたいに扱うのは、私はどうかなと思います」
雨宮くんが、少しだけ黙った。
翠「水野さんって、意外とちゃんと考えてるんだね」
紬「意外って何ですか」
翠「いや〜?」
紬「失礼ですね」
翠「ごめんごめん笑」
私は少し笑う。
紬「まあ、私は恋愛したことないので、偉そうなことは言えないですけど」
翠「え?」
紬「はい?」
翠「恋愛したことないの?」
紬「……ないです」
翠「へぇ〜」
雨宮くんが、なぜか楽しそうに笑う。
紬「何ですか?」
翠「いや」
彼は頬杖をついて、こちらを見る。
翠「なんか、意外だなーって」
紬「さっきからそればっかりですね……」
翠「なんかさ、もっと知りたくなっちゃったなー」
紬「何をですか?」
翠「水野さんの事♡」
紬「……私?」
翠「君以外にいる?笑」
その時。
チャイムが鳴った。
先生「ほら、授業始めるぞー」
私は前を向く。
雨宮くんも黒板へ視線を向ける。
だから、その時の私は気づかなかった。
クラス中の女子が雨宮翠を見ている中で。
彼が最初に興味を持ったのは――
私だったことを。
そして。
この日を境に、私の「普通の高校生活」は少しずつ変わっていくことになる。
コメント
1件
あらー、これ面白いじゃん!「好きになった方が負け」ってルールのある学校で、転校生のイケメンが最初に興味持ったのが主人公ってところがもうツボ🔥 しかも雨宮くん、あからさまに主人公に絡んでる感じが可愛いし、紬ちゃんの「恋愛を勝ち負けで考えたくない」って考え方に共感するわ。続きすごく気になる!次どうなるの?😆